第6話・海を守れ!旨み倍増呪文「ウマシ」

清々しい朝の光が海面を金色に染め上げる中、昆布マスターは美しい波間を滑るように泳いでいました。
ゆらゆらとたゆたう昆布の森はゆったりとしたリズムを刻み、まさに、海の生き物たちのゆりかごのようです。
昆布の間から見え隠れする小さな魚やエビたちも、ゴミがなくなって綺麗になった海を祝福するダンスを踊っているみたいでした。
彼の目を通して見る海は、まるで無限の可能性を秘めた別世界のようにキラキラと輝いていました。

昨日までの彼は、海の守護者たる”自分”が汚れていく海をなんとかしないといけないと思っていました。
1人でがんばるのは、正直、しんどかったけど、それしか方法はないと思い込んでいました。

人間と昆布ははるか昔から仲良くやってきました。
昆布は海の生き物たちの産卵場所やえさとなり、人間においしい海の幸を提供してきたし、昆布自身もうまみの素として、素材をさらにおいしくする出汁として活躍してきました。
けれど、最近は、料理をする人が少なくなって、昆布の存在に意識を向けてくれる人がずいぶん減りました。
それと同時に、どんどん海が汚れていきました。
もう、昔のように人と仲良くするのは無理なのかもしれない。自分1人がいくらがんばったって、こんな広い海を守ることなんてできない・・。

あきらめにも似た気持ちを抱えていた昆布マスターは、昨日の清掃活動で目が覚めるような気持ちでした。
地元の漁師や街の人たちが清掃活動に積極的に参加してくれて、これからも一緒に海を守ると言ってくれたのです。
もう、1人じゃない。
昆布マスターの心には、この美しい環境を、みんなでなら守れるのではないか、という希望が生まれていました。

それもこれも、タカシくんのおかげなんだよな。
まだ小学生なのに、彼は率先して街の人に声をかけて、意識を海に向ける手助けをしてくれた。
これまで自分で出汁を取った経験がない子もたくさんいたけど、お土産の昆布を大事そうに抱えて「今日の夜ご飯で食べてみるからね〜!」と言ってくれた。
もしかしたらまた、昆布が当たり前に日本中の食卓にのぼる日が来るかも・・・
なんて、さすがにそれは期待しすぎかな。

昆布マスターは煌めく海を眺めながら、ふふッと笑いました。
それでもやっぱり、明るい未来を期待せずにはいられないのでした。

しかし、その平和な時間は突如として破られました。
遠い海から爆音のエンジン音が響き渡ったのです。海の生き物達は怯えた表情で昆布の影に隠れました。
「今の時期は魚達が卵を産む時期だから、海の資源を守るため、漁は禁止されているはずなのに・・・。こんな時に海に出るのは一体誰だ!?」

遠くから爆音を発しながら船が一艘、こちらに近づいてきます。
船の姿は瞬く間にどんどん大きくなり、昆布マスターの眼前に現れるとそれはとても巨大な漁船でした。
船体の横にはムダラスのマークがついています。船の上には3〜4人、ムダラスの部下が見えました。
ムダラスの部下達はゲヘヘヘと笑いながら、海にとても大きな網を投げ込みました。そして、また爆音で船を動かし、海中に沈んだ網を強引に引っ張り始めました。
昆布の森に隠れていた魚たちが驚いて、必死に逃げまどう姿が見えました。網の隙間から必死に逃げようとしますが、ひっかかってしまい、どんどん絡め取られていきます。
巨大な網と船を前に、昆布マスターにはどうすることもできません。

ムダラスの部下達は、ある程度海をさらった後、網を引き上げていきます。
そして、網にかかっている魚の中から高価な魚だけを選別しては、その他の魚たちを容赦なく海に捨てていきました。中にはまだ赤ちゃんの魚もいます。
「ひどい・・!命をなんだと思っているんだ!!」
昆布マスターは、傷ついた魚たちが苦しむ様子を目の当たりにし、怒りでいっぱいになります。
「私の海を荒らすな!!」

昆布マスターは飛び上がってムダラスの船に乗り込み、操縦室に入りました。
どうにかして船を操り、港へと引き帰らせようと考えたのです。
操縦室にはモニターやメーターなど、いろんな機械があり、昆布マスターには操縦できそうもありません。彼は、船のエンジンキーを抜いて、船を止めてしまうことにしました。
ムダラスの部下達は、そうはさせまいと邪魔をしますが、昆布マスターは硬い昆布マントでパンチを弾き返し、昆布マントで敵をぶっ叩いて応戦しました。
このまま船を止めることができるかも・・・!船のエンジンキーに手を伸ばしたその時、昆布マスターに、突如水しぶきが降りかかりました。

振り返ってみると、ムダラスの部下達は水鉄砲で昆布マスターに攻撃してきています。
「まずい、真水は・・!」昆布マスターはあわてて水鉄砲を避けようとしますが、狭い操縦室の中ではうまく避けることができません。四方八方から水をかけられて、昆布が濡れて、だんだん柔らかくなっていきます。
「マントが濡れて力が出ない・・・」
やがて、昆布マスターはふにゃふにゃに弱ってしまいました。
昆布マスターの力は、海中では強大ですが、真水をかけられると柔らかく戻ってしまうのです。

「ムダラス様の言うとおりだ!乾物は、水に濡れると弱くなる!ぐへへ、ざまあみろ!」
ムダラスの部下達は、ふにゃふにゃになって動けなくなった昆布マスターを操縦室から放り出し、船を再び動かして、網を海に投げようとしています。
「みんな、逃げて・・。また網が来るよ・・・。」昆布マスターは弱々しい声で呟きますが、船のエンジン音でかき消されてしまいました。

その時です。
海岸線から地元の漁師たちの船がこっちに向かってくるのが見えました。
禁漁期にも関わらず海を荒らすムダラスの部下たちの行為に怒り、捕まえてとっちめようとしてくれているようです。

「大変だ!昆布マスターがふにゃふにゃにされている!許さねえぞ、俺たちの友達を!」
漁師の1人がそう叫ぶと、漁師達はいろめき立ちました。
「誰か、タカシくんに連絡しろ!昆布マスターを助けるんだ!」
「その間、船が動けないように囲め〜!」
漁師たちはすばやく連携を取りながら、ムダラスの船の邪魔をします。
ムダラスの部下達は船を動かすことができず、慌てふためきました。昆布マスターには効果ばつぐんの水鉄砲も、漁師達には全く効きません。

「あれ?漁業組合のリーダーから電話だ。なんだろう?」
漁師から電話を受けた時、タカシは切り干しレンジャーとシイタケンと一緒に、ちょうど電車を降りて海岸に向かっているところでした。
三人は漁師リーダーから話を聞き、状況を把握すると、すぐに昆布マスターを助ける計画を練りました。
「すぐに助けに行くから待ってて、昆布マスター!」

三人が海辺に着いたとき、漁師たちがムダラスの船を囲んでいる様子が見えましたが、昆布マスターの姿は見えません。
タカシ達を迎えに来ていた漁師の一人が指をさし、「あそこだ!昆布マスターが水に濡れて困ってる!」と叫びました。
どうやらムダラスの船にまだとらわれているようです。
「漁師さん、僕たちをすぐに運んで!」
タカシ達は漁師の船で海へと向かいました。

ムダラスの船に近づくと、タカシはすぐに切り干しレンジャーに指示を出しました。
「切り干しレンジャー、計画通り、太陽パワーで昆布マスターを乾かして!」
切り干しレンジャーはうなずき、漁師の船の操縦室の屋根から高く飛び上がりました。
「太陽エネルギーはパワーの源!くらえ、サンシャインバースト!」
切り干しレンジャーは自らに溜め込んだ太陽の熱光線を昆布マスターめがけて降り注ぎました。
その熱と光によって、昆布マスターにかかった水が蒸発し始めました。
「まずいぞ、このままでは昆布が元の硬さに戻ってしまう!」ムダラスの部下達は自分たちの体で影を作り熱光線を防ごうとしますが、時すでに遅し。
昆布マスターは再び動けるくらいまで乾燥し、立ち上がりました。

ムダラスの部下が切り干しレンジャーに気を取られている隙に、シイタケンがムダラスの船に乗り込み、昆布マスターに駆け寄ります。
「昆布マスター!ちょうどいい戻り具合だね!今こそあの技を使う時だよ!」
そう言うと、シイタケンは昆布マスターに抱きつきます。
「シイタケン、うまみ連盟秘伝の技、旨みの相乗効果だね!わかった!」
昆布マスターもシイタケンを強く抱きしめました。

その時、2人の体から眩い光が放たれました。
「一体、何が起こっているんだ・・?」漁師もムダラスの部下達も、目をくらませながらも何が起こるのかと2人の方を見ています。

シイタケン「シャキーン!グアニル酸!」
昆布マスター「シャキーン!グルタミン酸!」
2人「2人合わせて、旨みマシマシ、昆布としいたけの合わせ出汁!」

**乾物クッキング解説コーナー**

解説しよう!
昆布や干し椎茸の中には、旨みの元となるアミノ酸が含まれている!
しいたけに含まれるグアニル酸と、昆布に含まれるグルタミン酸はそれぞれ単体でも旨みが強いが、合わせることで、旨みが相乗効果で増すことがわかっている!
1+1=2、ではなく、その旨みの感じる度合いは4倍、5倍とも言われているぞ!
ぜひみんなも出汁には2種類以上の出汁素材を一緒に使ってくれ!


昆布マスターの水分が、シイタケンにも浸透していく。
適度に柔らかくなっていく2人。
その体から放たれる光はますます強くなっていく。

目を開けていられないほどに光が強くなり、唐突に消えた。
漁師もムダラスの部下もタカシも、そっと目を開けた。
そこには手を繋いだ昆布マスターとシイタケンの姿があった。
2人は繋いだ手を前に出すと、声を合わせてこう言った。

「ウマシ!」

2人の繋いだ手から、一層まばゆい光が放たれた!
2人を中心に光は広がり、そこにいた人間全員を包み込んだ。

あ、これ見たことある。
天空の城の”滅びの呪文”だこれ。

旨さが空気を満たしていく。
「・・・なんだ、この旨味は・・・!」
口の中に広がる強烈な旨みと鼻の奥に突き抜ける香りに、みんな恍惚の表情を浮かべている。
あまりのおいしさ体験に、その場にいた全員が、人生で最も幸せだったおいしい瞬間を思い出して固まっていた。

シイタケンが言っていたとおりだ!とタカシは思った。
つい先ほどの乾物ヒーロー達との作戦会議で、シイタケンはこう言ったのだ。
「僕たちの旨みの連携技は、人間にとって、恐ろしいまでに効きます。一瞬にして、全員、動きが止まるでしょう。切り干しレンジャー、その瞬間を逃さず、君の必殺技で船のエンジンを止めてください!」

切り干しレンジャーは船の操縦室の屋根に立ち、太陽の光を集めながらため息をついた。
「嫉妬するほど旨み効果ばつぐんだな、シイタケン、昆布マスター!あとは私に任せなさい!くらえ!サンシャインウェーブっ!!!」

必殺技「サンシャインウェーブ」は光の柱となり、ムダラスの船の網を巻き上げる機械を直撃した。
グオングオンと大きな音を出していた網巻き上げ機は、ククク・・・と情けない音を出して停止した。

「はっ!しまった!あまりの旨さに気を取られて・・・!」
ムダラスの部下達は恍惚とした表情から現実に戻ってくるが、スイッチを押しても機械はうんともすんとも言わない。

「やったぞ!これで海の小さな魚達が根こそぎ傷つけられなくて済む!」
昆布マスターが嬉しそうに叫んだ。

「乾物ヒーローの兄ちゃん達、サンキューな!あとは俺たちに任せな!」
漁師達はそう言うと、自分たちの網を使ってムダラスの船のスクリューを絡め取り、船の動きを完全に阻止しました。
ムダラスの部下たちは観念しておとなしくなり、漁師達の船に引っ張られて港へと連行されていった。

昆布マスター、旅立ちを決意する

タカシたちが港へ戻ると、ムダラスの部下はちょうど警察につかまるところでした。
パトカーに乗せられるムダラスの部下達はしょんぼりして、「もう2度と海のルールは破りません」と言っているのが聞こえました。
漁師達は腕組みをして、パトカーが港を出ていくのを見守り、そして、みんなでハイタッチをして喜んでいました。

それを見ていた昆布マスターはタカシたちに改めて感謝の言葉を述べました。
「タカシ、君たちがいなかったら、僕はもうダメだったかもしれない。あのまま悪の料亭に売られて、旨みの薄い昆布出汁にされていたかもしれないんだ。ありがとう、本当に助かったよ。」

タカシはにっこりと笑って答えました。
「昆布マスター、僕たちはいつでも味方です。海を守るのは、僕たち全員の責任だからね!」

昆布マスターはその言葉に目を伏せ、少し考え込むと、決意したように顔を上げて言いました。
「タカシくん、私も君たちと一緒に、世界を救うための旅をすると決めたよ。最後にもう一度だけ、この海に潜るから少し待っていてくれないかな。」

その後、昆布マスターは力を振り絞り、海に飛び込んでムダラスの部下たちが捨てた魚たちを救うために動きました。
みんな弱ってはいるものの、昆布マスターが作った柔らかくて安全な昆布ルームの中で休めば回復する程度で済んだようでした。
魚達を慰め、安心させるように語りかける昆布マスターの表情は優しくもあり、少し寂しそうにも見えました。

夕日が海を赤く染める中、昆布マスターは地元の漁師たちと一緒に海岸に立っていました。
彼らは今まで一緒に海を守ってきた仲間であり、家族のような存在でした。

「みんな、本当にありがとう。君たちと過ごした時間は、僕にとってかけがえのないものだったよ。」
昆布マスターは感謝の気持ちを込めて言いました。漁師たちもまた、目に涙を浮かべながら彼を見つめていました。

「昆布マスター、お前がいなくなるのは寂しいが、世界中の海を救うために旅立つんだから、こっちも全力で応援するぞ!」
漁師のリーダーが力強く言いました。他の漁師たちも頷き、昆布マスターの決断を応援しているようでした。

「乾物戦隊干すんジャーとして、多くの海を救ってきます。どうか、この海をよろしくお願いします。」昆布マスターは深い感情を込めて言いました。
「大丈夫だ昆布マスター!海は繋がっている。お前がどこにいても、俺たちは繋がってるってわけさ!さあ、これを持っていけ!サプライズプレゼントだよ!」
それは新しい昆布マントでした。かっちかちで風にも全く翻らないマントは、昆布マスターによく似合っていました。
「ありがとう、みんな。」昆布マスターは目に涙を浮かべ、漁師達一人一人と抱擁をしました。

「みんな、ありがとう!また会おう!」大きく手を振りながら、漁師達の姿が見えなくなるまで昆布マスターは手を振り続けました。

かつて、北海道と京都を結ぶ昆布ロードが栄えたように、昆布マスターが進む道はきっと、新たな伝説を生み出すのでしょう。
昆布マスターを仲間に加え、乾物戦隊干すんジャーは、地球の食糧危機を救う大きな一歩を踏み出したのです。

【続く】

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