[TechGALA参加イベントレポート]ディープテックが拓く名古屋の可能性:インパクト投資で地域から世界へ
社会課題解決の画期的な手法の多くは「研究開発」から始める事も多い。名古屋は全国でも稀有なディープテックに強みを持つエリアである。そこに、近年世界的に注目される「インパクト投資」を重ねるとどんな景色が広がるのか、可能性と未来を探求する。
登壇者
桝井 綾乃
株式会社丸井グループ 共創投資部 シニアマネジャー
丸井グループ共創投資部シニアマネジャー。米シカゴ生まれ大阪育ち、関西大学卒。2012年入社後、店舗勤務を経て、店舗事業本部でアップルストア出店などを担当。2019年より共創投資部でスタートアップ投資や共創活動を行う。興味領域はサステナビリティやソーシャルインパクトで、経済合理性との両立を目指す。主な出資先に、五常・アンド・カンパニー、リージョナルフィッシュ、COTENなど。2020年より1年半休職し、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の国際局職員として従事。
河合 将樹
株式会社UNERI 代表取締役CEO、一般社団法人IMPACT SHIFT代表理事
1995年愛知県生まれ。2020年に株式会社UNERIを創業。東海を中心に社会起業家育成や約460件の共創事例などを通してエコシステムの基盤をつくる。2022年はSIIFのインパクト投資ファンドに従事。業界最大規模イベント「IMPACT SHIFT」を開催した後に一般社団法人を登記。金融庁主催「インパクトコンソーシアム」のディスカッションメンバー。Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2024選出。
長曽我部 竣也
FiberCraze株式会社
1997年愛知県一宮市生まれ。5歳から17年間サッカーに熱中する。岐阜大学工学修士で専門は高分子化学。自身が研究に従事した技術の大きな可能性を感じて大学院を休学し、23歳で先生とともに会社を創業。岐阜の繊維産地を中心とした技術力を集結させて蚊などの媒介虫による感染症の解決や、フッ素フリー素材等の開発を行う。2023年Forbes JAPAN 30 Under 30に選出。
藤本 あゆみ
一般社団法人スタートアップエコシステム協会 / A.T.カーニー株式会社
大学卒業後、キャリアデザインセンター、グーグルにて法人営業に従事。お金のデザインを経てPlug and Play JapanでCMOに。2022年にスタートアップエコシステム協会を設立、代表理事に就任。2024年11月よりA.T. カーニーとのダブルワークを開始。現在は、東京都スタートアップ戦略フェロー、内閣府規制改革推進会議スタートアップ・DX・GXワーキンググループ専門委員などを務める。
はじめに
社会課題の解決において、研究開発から生まれる革新的なソリューションの重要性が増している。その中で名古屋は、全国でも特異な強みを持つエリアとして注目を集めている。製造業の集積地として知られる名古屋だが、近年はディープテック分野のスタートアップが次々と誕生し、新たな可能性を見せている。
そこに、世界的に注目を集める「インパクト投資」という新しい投資手法を組み合わせることで、どのような未来が描けるのか。この問いを探るため、スタートアップ、投資家、エコシステムビルダーが一堂に会し、議論を交わした。
インパクト投資の現状と展望
インパクト投資とは、従来の投資における「リスク」と「リターン」の2軸に加え、「社会・環境へのインパクト」という第3の軸を加えた新しい投資アプローチだ。株式会社UNERIの河合将樹氏は、この概念を「投資3.0」と表現する。
「19世紀はリターン、20世紀はリスク・リターン、そして21世紀はリスク・リターン・インパクトの時代です」と河合氏は説明する。重要なのは、このアプローチが単なる慈善事業ではないという点だ。経済的なリターンを追求しながら、同時に測定可能な社会的・環境的インパクトを生み出すことを目指している。
グローバルのインパクト投資市場は現在735兆円規模に達しており、日本市場も11兆円を超えている。さらに注目すべきは、日本政府がインパクト投資を国策として位置づけている点だ。2022年には内閣府での議論に「インパクト投資の推進」という言葉が盛り込まれ、2023年には金融庁と中小企業庁がインパクト投資推進のための協議会を立ち上げている。
特筆すべきは、世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、2024年度からインパクト投資を本格的に開始すると表明したことだ。運用資産200兆円を有するGPIFのこの動きは、日本の金融市場に大きな影響を与えることが予想される。
名古屋発のディープテック×インパクトの実践例
この潮流の中で、具体的な実践例として注目を集めているのが、FiberCraze株式会社の取り組みだ。創業者の長曽我部竣也氏は、大学院在学中に研究していた繊維技術に可能性を見出し、23歳で起業。蚊などの媒介虫による感染症対策という世界的な社会課題に、革新的な繊維技術でアプローチしている。
FiberCrazeの技術は、繊維1本1本に目に見えないほど小さな穴を開け、その中に防虫成分を閉じ込めるという画期的なものだ。従来技術と比較して4~10倍の効果を発揮し、かつ環境負荷を大幅に低減できる。具体的には、CO2排出量を75%、水使用量を80%削減できる可能性を秘めている。
「元々は純粋な研究開発から始まり、社会課題の解決という視点は後から付いてきました」と長曽我部氏は語る。しかし、マレーシアやインドネシアなどの現地で実態を目の当たりにしたことで、技術を社会実装することの重要性を強く認識したという。現在は現地の大学と共同研究を進め、実証実験を重ねている。
地域特性を活かしたエコシステムの構築
名古屋・東海エリアの特徴として、製造業の強さに加えて、事業会社による直接投資の文化が挙げられる。株式会社丸井グループの桝井綾乃氏は、「特に東海エリアでは、CVCではなく事業投資という形での連携を前提とした投資が多い」と指摘する。
この特徴は、ディープテック分野のスタートアップにとって大きなアドバンテージとなっている。FiberCrazeの例でも、創業間もない段階で130年以上の歴史を持つ地元繊維メーカーから投資を受け、事業連携を進めている。
「名古屋の製造業の歴史と経験は大きな強みです。特にディープテック分野では、長期的な視点での事業構築が必要ですが、この地域にはそれを支える土壌があります」と河合氏は語る。
今後の展望と課題
ただし、課題も存在する。ディープテック分野は一般的なスタートアップよりも時間軸が長く、特に環境・社会課題に取り組む場合は、10年というスタートアップの標準的なタイムラインでは不十分な場合も多い。
また、社会的インパクトと経済的リターンの両立も重要な課題だ。「最初は純粋に技術と社会課題解決への思いで始めましたが、次第にファイナンス的な見せ方の必要性を感じるようになりました」と長曽我部氏は振り返る。グローバル展開を視野に入れる中で、経済合理性とインパクトの両立は避けて通れない課題となっている。
まとめ
名古屋におけるディープテック×インパクト投資の取り組みは、まさに転換点を迎えている。「これからの2年が極めて重要です。名古屋には世界に通用する技術とポテンシャルがあります。このタイミングを逃すと、他の国や地域に先を越されてしまう可能性があります」と河合氏は警鐘を鳴らす。
しかし、その危機感は同時に大きな可能性も示している。製造業の集積、事業会社との連携、長期的な視点での投資文化など、名古屋固有の強みを活かしながら、世界に通用するディープテック×インパクトの成功事例を生み出すチャンスが訪れているのだ。
三方よしの精神で知られる日本の商人文化を、現代のインパクト投資という形で再解釈し、具体的なKPIで社会的価値を測定しながら事業を展開していく。そんな新しいアプローチが、名古屋から世界に向けて発信されようとしている。
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