三浦しをん「愛なき世界」
この帯だけできっと好きな小説だと確信した。
私は次回、地球に生を受けることになったら植物になりたいからだ。「生える」とはどういう感覚なんだろう。そこから動かずただ生えて光合成をし、種をつけて世代交代していく。
できれば風で種を飛ばすタイプの植物がいい。虫が受粉を助けるタイプではなく。弾けて飛んで増えるだけ。
この物語は葉っぱの研究に没頭する大学の院生、本村さんとその本村さんに恋をしてしまう大学の近所の洋食屋のシェフ見習いの藤丸くんの恋の話。
恋愛というか、藤丸くんの一方的な片思いなのだ。
本村さんは根っからの研究者で藤丸くんの感性に惹かれながらも
葉っぱの研究>恋愛 のようだ。
いや、そもそも恋愛は本村さんの中で優先順位が高くない。恋をしたいとかそういう要素が無い。
植物の葉っぱに魅了されすぎて1日中葉っぱの細胞のことを考えている人だ。
人間の恋愛が葉っぱを超えることは無いらしい。
研究者と呼ばれる人たちの心の在りようが、一般的な感覚とは一線を画すのが興味深い。
愛の対象が人間ではない。
本村さんと藤丸くんはそもそも同じ世界に住んでいないのだと思う。
三浦しをんさんの小説は3冊目になる。
数年前に「神去なぁなぁ日常(上下)」と「神去なぁなぁ夜話」を読んだ。
こちらは林業の話だったが、三浦しをんさんは植物に相当造詣が深い。
私は恋愛小説を好まないが、三浦しをんさんのノリというか、その空間にいる人物たちのやり取りが好きだ。
ジメジメしてない、カラッとした湿度の物語なのだ。
藤丸くんの恋は叶わないが、失恋とも少し違う。本村さんは藤丸くんの料理人としての感性が自分にいくつもの気付きを与えてくれることを感じつつも、自分が人生を捧げるのは植物の研究なのだと改めて気付いてしまう。
いつか本村さんと藤丸くんの気持ちが交差する日がくるのだろうか。
…来ない気がする。ベクトルの違いってこういうことなんだ。