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#18 『天龍院亜希子の日記』(著:安壇美緒)を読んだ感想
安壇美緒さんのデビュー作『天龍院亜希子の日記』
第30回小説すばる新人賞受賞作です。
『ラブカは静かに弓を持つ』をきっかけに安壇美緒さんの他の作品を読んでみたいと思い、読んだ作品です。
あらすじ
人材派遣会社に勤める田町譲・27歳。
ブラックな職場での長時間勤務に疲れ果て、プライベートでは彼女との仲がうまくいかない。なんとなく惰性で流れていく日常。そんな平凡な男の日々を勇気づけるのは、幼い頃に憧れていた野球選手と、長らく会っていない元同級生が書く穏やかな日常のブログだった——。
感想
何気ない日常を描いているのに、思わず見入ってしまう?
主人公の田町譲が小学校の同級生である天龍院亜希子のブログを見つける。
そこから場面ごとに亜希子のブログ記事が出てくる。
思わず気になってしまうブログ記事。
なにか不穏な感じがして、終盤に何かが起こるだろうと思ったら……
本作は田町の何気ない日常を描いていて、何か劇的な展開やどんでん返しが起こるわけではありません。
それでも思わず見入ってしまい、一気読みでした。
僕が見入った理由は、以下のようなことからだと思ってます。
共感できたり笑える比喩表現がある
難しい表現はないため、力を抜いて読める
20~30代の日常が等身大に描かれている
天龍院亜希子のブログがとにかく気になる
人生は思うようにいかない。
何もかも上手くいくかと思えば、逆に何もかもダメな時が反転するかのように訪れる。
そんな自分を生かしてくれるのは、何も特別なものではなく、趣味だったり好きな物事だったり、そして「呆れた希望」。
でも、そういったものを持てるのって簡単そうで実はそうではないのでは?
それを田町の様子を見て感じました。
「呆れた希望」というフレーズは本作で強く響きました。
しんどいこともたくさんあるけど、人生なんとかなるんじゃない?と思える1冊です。
田町のダメさ加減や情に熱いところ、後先考えないところは、愛着がわいてきます。
あとは、亜希子のブログを見てしまう気持ちも分かるんですよね。
僕も、平凡な日常の物語やエッセイを読むと心がフッと軽くなるというか。
ああ、まさに本作もそうですね(笑)
男性は読んでいて共感できる部分が多いのではないかと思いました。
最後に……
正岡のモデルってまんま清〇だよね?
印象的なフレーズ
別に俺は好きですっているわけじゃない。大学の頃から、くせで、なんとなく買ってしまっているだけで、煙草なんてもう惰性だ。いつの間にかすごい値上げをされてしまって、一箱でジャンプコミックスが買える。輪島さんと吸う煙草より、俺はハンターハンターの方が好きだ。でも確固たる決意が俺を動かすことなんてなく、俺はまた惰性でたばこを買い、喫煙コーナーに逃げ、輪島さんに捕まり、何かに苛立ち、正義感に火を付け、すぐにそれを消して、そして今年もハンターハンターは出ない。
物事が成功する時の感覚って、事前にわかる。適当に投げた缶がうまくゴミ箱に入る時、その手応えは成功よりも一瞬早く俺たちの手元を駆け上がってくる。
頭を下げるのってサラリーマンっぽい。いますごい仕事してるなって感じで浸れて、俺はわりと好きだ。
「マサオカが君の想いに気づくことは一生ないだろう。だけど、君はマサオカを信じることで、自分が知り得ない誰かからの善意を信じることができる。自分が本当につらくて、どうしようもない時に、何の証拠がなくっても、もしかしたらこの世の誰かがどこかでひそかに自分を応援してくれてるかもしれないって呆れた希望を持つことができる」