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#17 料理は心を温かく満たしてくれる『宙ごはん』(著:町田そのこ)を読んだ感想
町田そのこさんの『宙ごはん』
2023年(第20回)本屋大賞ノミネート作品です。
町田そのこさんは、2021年に『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞。
今回で3年連続のノミネートになりました。
あらすじ
この物語は、あなたの人生を支えてくれる
宙には、育ててくれている『ママ』と産んでくれた『お母さん』がいる。厳しいときもあるけれど愛情いっぱいで接してくれるママ・風海と、イラストレーターとして活躍し、大人らしくなさが魅力的なお母さん・花野だ。二人の母がいるのは「さいこーにしあわせ」だった。
宙が小学校に上がるとき、夫の海外赴任に同行する風海のもとを離れ、花野と暮らし始める。待っていたのは、ごはんも作らず子どもの世話もしない、授業参観には来ないのに恋人とデートに行く母親との生活だった。代わりに手を差し伸べてくれたのは、商店街のビストロで働く佐伯だ。花野の中学時代の後輩の佐伯は、毎日のごはんを用意してくれて、話し相手にもなってくれた。ある日、花野への不満を溜め、堪えられなくなって家を飛び出した宙に、佐伯はとっておきのパンケーキを作ってくれ、レシピまで教えてくれた。その日から、宙は教わったレシピをノートに書きとめつづけた。
全国の書店員さん大絶賛! どこまでも温かく、やさしいやさしい希望の物語。
感想
重めの展開だけど、心を温かく満たしてくれる物語
前を向いて生きていけるヒントをもらった
食べ物に関する作品は心が温まる物語のイメージがあります。
『宙ごはん』も心が温まる物語ではありますが、目を背けたくなるくらいの展開がありました。
5話構成の『宙ごはん』は、各話で様々な事情を抱えた大人たちが登場します。
その事情が、毒親、ネグレクトなどなかなか重め。
とにかく自分勝手に見える大人たちに振り回される宙ちゃんが気の毒に感じてしまうほど。
特に強烈なキャラなのが、産みの「お母さん」である花野さん。
序盤はあまりの身勝手さにイライラしました(笑)
そんな宙を救ってくれるのが、佐伯さんが作る心温まるごはん。
食べ物って美味しいかどうかに目を向けられがちだけど、やさしさや愛情で心も満たしてくれる力もあることを改めて感じました。
重い話が続きながら、それがどこかに吹っ飛ぶほど心が温まりました。
料理が持つ力ってすごい!
物語が進むにつれて、宙や花野の成長が見れることや第1話から第5話(最終話)への繋がりも良かったです。
美味しくて温かいごはんが食べられることは決して当たり前ではない。
近年は「子ども食堂」が話題になっているように、それはフィクションの中だけではないでしょう。
そんな中で、僕の小さい頃を思い出しました。
いつも美味しいごはんを作ってくれた母。
それにより、今こうして健康に過ごせていると思ったら、改めて感謝の気持ちがわきました☺️
本作では、人や周囲の状況の変化に対する、受け入れ方、向き合い方についても考えさせられました。
時間が経つにつれて、人や周囲の状況は変わっていく。
新たな出会いだけでなく、突然の別れも訪れる。
その時どうすればいいのか、町田さんからメッセージを受け取ったような感じがしました。
特に、第3話の佐伯さんの言葉は強く響きました。
また、
・自分のフィルターだけで決めつけないこと
・弱さを打ち明ける、相談することも大事
・しっかりと話し合うこと
このようなことも生きていく中で大事にしたいと思いました。
今後何が起こっても、前を向いて生きていけるヒントをもらったような気がします。
5話構成の『宙ごはん』
その中で僕が好きな話は、第3話と第5話(最終話)ですね。
印象的なフレーズ
「キレイに食事をとること、何でも味わって食べられることってのは、ひとの魅力のひとつだとオレは思う」
「そしてね、いまの世の中は辞書に載っていない、いろんな繋がりの『家族』ができてる。新しい意味の『家族』には、『母親』も『子ども』もない。助け合って生きていく集団のことを指すわけ」
「若いころってのは自分がどこを歩いているのか、山を登ってるのか下ってるのかもわからないもんだ。横を歩く人間が自分にとってほんとうに大切かどうかも判断つかねえ。くっついたり別れたりするのは仕方のないことだ。一度別れてみたからって、真理にはたどり着かねえし、世の中そんなに簡単じゃないさ」
「多分、本の中に自分の探してる答えがあるかもしれないと思ってる、から」
~
ひとを思うとはどんなものなのか、家族を思い、関係を築くとはどういうことなのか。それらの答えがきっとどこかにあると願って、物語に潜っている。
「『とにかく生きる』が最優先。そのあとはいろいろあるだろうけど、『笑って生きる』ができたら上等じゃないかなあとあたしは思ってる。なかなか難しいけどさ、寿命が尽きるまでに叶えりゃいいじゃん?」
おわりに
僕の中では、『52ヘルツのクジラたち』よりも好きだなって感じています。
大切にしたい1冊が増えました。
2023年の本屋大賞ノミネート作品はこれで6作品読みましたが、どれも印象的な作品ばかりです。
書店員さんがどれに投票するか悩んでる姿が目に浮かびますね😶