空色の駅をみつけた〜神奈川県小田原漁港
僕が住んでいる神奈川県は、面積のほぼ半分が京浜エリアへの通勤圏。その割に観光地も多く、海は横浜から三浦半島、そして湘南海岸。山は箱根に丹沢山地。日本で5番目に小さい県らしいけれど、けっこう賑やかです。
とは言いながら、最近は見慣れてしまったせいか、出かけなくなってしまったな。
などと思っていたところ、この一年あまりの間に、たまたま何人かの知り合いが小田原に引っ越してきた。オダワラ… ほとんどノーマークでした。なんて失礼ですよね。小田原は、戦国時代には全国にその名を知られた城下町。徳川家康が江戸に入る前から栄えていた、神奈川県では鎌倉に並ぶ歴史のある街ではないですか。
ということで、引っ越してきた友人に会うついでに、小田原を歩いてみました。電車でも一時間以内で行ける街だけど、あえて一泊する地味な旅。そしてそこで見たものは、これまであまり語られることの無かった、もう一つの神奈川県の魅力でした。ただし、35℃を越えるような暑さなので、街の中は避けて海の方へ。
西湘バイパスには入らずに、国道1号を選ぶ。
湘南と言えば国道134号。箱根駅伝でもおなじみの、あの道です。沿道には葉山があり鎌倉があり江ノ島があり、そこに昨今のインバウンド客が重なって、夏は近寄りがたい大混雑になります。だからクルマで行ってはいけません。
それでも茅ヶ崎から西側にはけっこうのんびりした空気が流れています。だからクルマで行ってみよう。相模川を渡って平塚、大磯と進むうちに、空気の成分に静岡を感じるようになります。
国道1号沿いには、郊外の幹線道路にありがちなドラッグストアや家電量販店や景観ぶち壊しの大看板が少なく、意外に残る旧東海道の風情。所どころに松並木が残っていたりする。生しらすを売っている、小さな魚屋さんもありますね。
この道を楽しむコツは、134号をまっすぐ西湘バイパス方面には向かわず、大磯の手前のどこかから右折して、国道1号を進む。すると古い神奈川県に浸れます。
国鉄時代の気分を残す国府津駅。
カーナビに歴史のありそうな鉄道駅が現れたら、とりあえず見に行くのが僕の地味な旅のスタイル。大磯や二宮という、かつての別荘地の面影を残す古い街を過ぎた頃に、さっそく現れる国府津駅。これは見ておかねばいけません。
国府津駅前の信号を右折すると、すぐに現れる駅舎。これが意外に大きいのです。
首都圏の大動脈とも言える東海道線(今は東海道本線とは呼ばないんですね)も、平塚を過ぎるとローカルな風情。乗降客数も少なくなり、駅舎も小さくなるはずなのに、この大きさは意外です。
開業当時の東海道本線は、今の御殿場線を通っていましたが、その名残かもしれない。つまり、この国府津から御殿場線を経由して、箱根の外輪山をぐるりと左に回って、静岡県の函南、沼津へと出ていたわけです。
小田原も湯河原も、静岡県の熱海も、箱根の山を潜り抜ける丹那トンネルが開通して初めて、東海道本線沿線の街に仲間入りしたという次第。
興味がある方は、ワガクニの鉄道の歴史を知る上でも味わい深い「御殿場線物語」をどうぞ。
さらにもうひとつ個人的な思い入れとして、国府津の街は、僕が勤めていた出版社の創業者の出身地でもあります。
太平洋戦争が終わり、復員。ゴザを抱えて東海道線の線路を歩きながら国府津に戻った創業者は、その途中、相模湾を見ながら雑誌の構想を練ったという。たびたび聞かされたその話が好きで、どんな駅なのか、いつか見たかったのでした。
神奈川県に、こんなに空の広い駅があったとは。
その日は小田原に一泊。友人宅に行き、再び駅前に出て食事。ホントは建物が重要文化財に指定されている「あの店」に行きたかったんだけど定休日。とは言え、小田原駅前には飲食店が建ち並んでいるので不自由はありません。ついでに言うと、小田原駅前のホテルもけっこう混んでいるんですね。翌朝の新幹線で関西方面に向かうという、外国人観光客も多数。
そして翌朝、せっかく小田原にいるんだから漁港に行こう、と思い立ったところ、東海道線でひと駅の「早川」まで乗った方がいいとのこと。で、東京方面に向かう通勤客とは反対の早川まで、熱海行きに乗りました。と思う間もなく早川に到着。そして降りてみると、なんと。
こんなに空が広い駅なんて久しぶりです。神奈川県にも、まだまだこんな駅があったんだな。しかも15両編成の電車を停めるためにホームが長いので、空の広さがより強調される。雨の日には傘をささなくてはいけないだろうけど。
すでに気温が35℃を越える炎天下、日射しはジリジリというよりも、もはや火傷しそうなレベル。しかし、しばらくその風景に見とれてしまいました。
このホーム、改札口まで跨線橋ではなくて地下通路を通るから、より広さを感じられるんですね。で、地下に下り、改札を出てみるとご覧の通り。
壁面の空色は、何年か前に行った隣の根府川駅と同じ。神奈川県の西の果ての鉄道駅は、色をお揃いにしているのかもしれない。早川駅は無人駅とは違って業務委託駅という分類。興味の無い人がほとんどだと思うので、詳しい話は省きます。
海まで5分。そんな歌もありましたね。
しばらく空色の駅舎を鑑賞した後、本来の目的である漁港に向かいます。
駅を出て、国道に出て、信号をひとつ渡ると、そこには小さな小田原漁港。歩いて5分しかかからない。そして、風に乗って海の香り。
四角く区切られた港の海を、左へ、突き当たりを港に沿って右へ。
この暑さの中、ほとんど人は歩いていないけれど、テレビのロケと思われる10名ほどのクルーと、芸能人と思われる若い男性2名。テレビでは精一杯の笑顔でレポートするんだろうけど、移動の途中は、あまりの暑さに不機嫌な顔つきだった。
調子に乗って歩いていたら、ふと熱中症の気配を感じた。僕は一度、軽い熱中症になったことがあるのでわかります。頭痛と、軽い悪心。夏の昼間、二日酔いのような気分になり、「昨日、そんなに飲んでいないのにな」と思ったら、それは熱中症を疑うべきです。
これはかき氷ではないのだよ。
普段であれば「とりあえずビール」と行くところだけど、その日は小田原に置いてきたクルマで帰らなくてはならない。ゆえに飲めません。目の前に涼しそうなかき氷の店があったので、まず、そこでカラダを冷やすことにしました。
店に入ると、最初にオーダーをするスタイル。メニューを見ると「三ヶ日産のみかん」とか「小田原産の梨」とか、どうも普通のかき氷とはようすが違う。
僕は「三浦産のスイカ」を注文してみました。そして、このスイカを頼んだことが、この店の個性を理解する上でとてもラッキーなことでした。
熱中症対策だと思って、最初に塩をかけてひと口食べてみてびっくり。これってスイカじゃん。スイカそのものじゃん。
暑さでボーッとしていてメニューをよく見ていなかったけれど、この店は果物そのものを凍らせて削った「かき氷」を提供しているのだった。こういうのを何と呼ぶんだろう? かき果物? かきスイカ?
初めての味と食感。ほどよく効いたエアコンの冷気を感じながら、少しずつ塩を振りながら、少しずつ大切にいただきました。なんたって本物のスイカなので、塩が合うんです。熱っつい梅茶とも相性がよろしい。
もう一度メニューを読み返してみると、夏季限定で「沖縄産のマンゴー」とか「山梨産のシャインマスカット」などもある。こうして驚いているうちに、熱中症の初期段階のような症状はすっかり消えていました。
普段は詳しくお店の紹介をしないけれど、これを読んだ人が道に迷ううちに熱中症になるといけないので、今回は紹介しておきます。
漁港には必ず冷凍の施設がありますが、そこから派生してこういう店が生まれたのかもしれない。休日は確実に混んでいそうな店です。営業時間は15時30分まで。
漁港や早川駅の周りは、ココロときめく昭和のオモムキを残している。住宅街なので写真は遠慮しましたが、また涼しくなったら来てみよう。
て言うか、小田原って落ち着いた街ですね。東海道線だけではなくて新幹線もある。そして小田急に乗れば新宿に直結。交通の便はいいし、住み心地の良さそうな街です。二拠点生活、考えちゃうなぁ。