『錦秋十月大歌舞伎』(歌舞伎座) 観劇記録
◎ 錦秋十月大歌舞伎(夜の部)
【公演日】2024.10/23(水)
【会場】歌舞伎座
【演目】
泉 鏡花 作 成瀬芳一 演出
一、婦系図(おんなけいず)本郷薬師縁日 柳橋柏家 湯島境内
早瀬主税:仁左衛門
柏家小芳:萬壽
掏摸万吉:亀鶴
古本屋:松之助
坂田礼之進:田口守
酒井俊蔵:彌十郎
お蔦:玉三郎
「切ない別れが時代を超えて胸を打つ、泉鏡花の代表作
ドイツ語学者の早瀬主税(ちから)は、元は柳橋芸者のお蔦と人目を忍んで世帯をもっています。恩義ある師の酒井俊蔵にも内証にしていたお蔦との仲。ところが、雨模様の本郷薬師の縁日で騒動を物陰からうかがっていたところを酒井に見咎められると、柳橋柏屋の奥座敷で主税は激しく詰問されます。芸妓の小芳がとりなすのも聞かず、酒井は主税に「俺を棄てるか、婦(おんな)を棄てるか」と迫ります。掏摸(すり)を働く少年から学者に育て上げてもらった恩義を感じ、「婦を棄てます」と主税は答えますが…。月明かりの美しい晩、別れ話を切り出す決意を固めた主税は、お蔦を湯島天神へと誘います。
泉鏡花の代表作の一つ『婦系図』は、明治41(1908)年新富座での初演以降、新派珠玉の名作として数多の名優たちにより磨き上げられてきました。早瀬主税とお蔦の別れを描く「湯島境内」は元々の原作にはなく、劇化されて以降に鏡花自身により戯曲として書き下ろされた、抒情あふれる名場面です。主税とお蔦の切ない別れが時代を超えて胸を打つ、注目の舞台にご期待ください。」(公式web siteより引用)
★新派の演目を歌舞伎化したもの。小説とは異なる場面やメインテーマも異なるが、初演以来、泉鏡花自身が脚本化に関与してきた作品。現代の感覚では、受け入れ難い、”身分”た”職業”差別をベースとした悲恋物語なのだが、現代でも全くないというわけではないものでもある。玉三郎のお蔦は、軽やかにおかしみもある演技で、クライマックスでの哀しみとのコントラストを強くしているように思った。憎まれ役の坂東彌十郎の弟子を思う苦渋の表情が良かった。
竹柴潤一 脚本 坂東玉三郎 監修 今井豊茂 演出
二、源氏物語(げんじものがたり)六条御息所の巻
六条御息所:玉三郎
光源氏:染五郎
葵の上:時蔵
御息所の女房中将:吉弥
左大臣家の女房衛門:歌女之丞
比叡山の座主:亀鶴
左大臣:彌十郎
北の方:萬壽
「愛執に狂う六条御息所、その情念
時は平安の世。光源氏との子を身籠る葵の上は、謎の病に臥しています。物の怪や生霊による祟りを疑い、左大臣と北の方は比叡山の僧に修法を行わせます。すると、護摩を焚く僧が煙の中に感じ取ったのは、賤しからざる身分の女の気配…。光源氏は、生まれながらの気品と美しさを兼ね備え、愛人としている六条御息所のもとを訪れます。花見や連れ舞に興じ、久方ぶりの再会を喜ぶ二人。宮中の忙しさゆえの疎遠を詫びる光源氏でしたが、六条御息所は葵の上やその懐妊を嫉み、詰(なじ)ります。光源氏が堪えかねて屋敷を去ると、六条御息所は悲しみに暮れ、次第に嫉妬に狂って…。
千年の長きにわたり日本人に愛される「源氏物語」。このたび、紫式部による五十四帖に及ぶ長大な全篇のうち、光源氏とその妻・葵の上、六条御息所の三者の恋愛模様を「六条御息所の巻」として新たに描きます。六条御息所が葵の上に抱く激しい嫉妬、凄艶な女心の模様、かなわぬ恋の哀切…。美しく、そして儚い「源氏物語」の世界をお楽しみください。」(公式web siteより引用)
★このお話は今回が初演とのこと。今回の脚本は原作の源氏物語とはかなり離れていた。原作の源氏物語の世界観を期待していたので、正直言って違和感が大きい。特に光源氏が六条御息所を訪ねる場面。六条御息所は光源氏がなかなか訪ねてくれないことばかりか、祭りでの葵の上の侍者たちとの車争いでの恨みつらみ・嫉妬心をあけすけに語る。そもそも、高貴な身の上の六条御息所は、そういう直接的な行動ができないからこそ、生霊となったのだと思う。その、そもそも、というところに何か六条御息所や源氏物語の品位を落としてしまっているのではないか、という思いをもってしまった。
若手のホープである市川染五郎と坂東玉三郎という組み合わせは、歌舞伎の継承という意味では意義深い舞台だと思うし、染五郎の光源氏のクズ貴公子ぶりを表に出した演技は確かに良かった。玉三郎の生霊には迫力もあった。何より舞台美術(美術・前田剛)の美しさは特筆ものだった。でも、筋立てがなぁ、、、、。まあ、これぞ歌舞伎!なんだと思うけど。
★おまけ
歌舞伎座は近代美術品の宝庫。ちょっとした美術館より豪華なラインアップ。例えば、2階には、朝倉文夫作(1936年ほか)の歴代名優たちの胸像が。
この他にも、東山魁夷、伊東深水、小林古径、奥村土牛、鏑木清方などの作品が展示されている。
*幕間に