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「38.9℃の夜」を終えて

7月4日から4日間にわたって行われたINDEPENDENT:SND 2019 にて
演劇ユニット 箱庭の「38.9℃の夜」が上演されました。


第5回公演「38.9℃の夜」は、福島大学演劇研究会出身の既婚女性3人が、「結婚」をテーマに舞台を作るというコンセプト。演出、俳優、脚本家が普段からどんな思いを持って生きているのか、3人の人生や結婚観をこのnoteで連載してきました。来たる7月4日、わたしはこの舞台が完成する直前のリハーサルに立ち会いました。今回はそのレポートと、わたしがこの企画で得た「好き」への向き合い方についてを綴る、「38.9℃の夜」マガジンの最終回です。


 
◆会場にて

リハーサル直前のせんだい演劇工房10-BOXの楽屋には、台本を入念に確認して緊張している演出の志賀彩美、衣装合わせをファッションショー張りにノリノリで行っている俳優のしゅー、スマホゲームをしながらみんなをニコニコ見守る脚本家の長門美歩、ビジュアル写真を担当したカメラマンの鈴木麻友。noteの取材は電話にて行ったので、初めて全員で顔合わせをした。全く毛色の違う5人が、自分の’’好き’’をカタチにしてひとつの舞台を完成させようと集まった。


リハーサルでは運営スタッフとともに、演出の方から細かく希望を伝えていき、役者が動きながら照明の当たり具合や、セリフと音の出るタイミングや音量を何度も調整する。一つ一つをすり合わせながら演出の希望を素早く汲み取るスタッフの皆さんの力に脱帽。改めて、舞台はナマモノで1回1回複数の人の手で作られるものであることを実感した。


何度も確認して、いよいよ全体の通し。ここで初めて舞台の全貌を目の当たりにした。


目の前で、生きる喜びを希望を持って立っていた1人の女性が、絶望して地獄に堕ちる様子が演技とダンスで繰り広げられていく。空間に際限のあるはずの舞台が、果てなく奥の方まで闇が広がっていてゾッとした。生きていても孤独を感じたのに、あの世でもたった一人。静寂、熱情、静寂という順番で変わっていく様に引き寄せられに自分も静かに闇に沈んでいく感覚に陥った。

こんなはずではなかったという嘆きが胸を突いて離れなかった。物語のモデルとなった智恵子は、時代に流されない自分を持った人。大好きな絵の道を進み、恋愛をして結婚をして、自分の意志で人生を切り開いた。でも、「女だから家事をしなくてはいけない」と考えて自分の芸術活動を犠牲にして夫を支えた。そして夫と比べて、自分には絵の才能がないと感じ、焦り、描けなくなる。全て自分で決めたはずなのに、思い通りにいかず生きるエネルギーを失っていく様子がショッキングだった。


ユニットのメインメンバー3人は全員既婚者。取材の際にはそれぞれ結婚生活は楽しいと口を揃えた。それでも結婚していても自分が一人だと感じることがあるとも話していた。自分の好きな演劇のこと、長年一緒に居ても自分の好きなものを分かってくれないこと。きっと一人よりも、二人を知ってしまった後に感じる一人の方が孤独。その3人の感覚が、一つの舞台で共鳴していたように感じる。一人芝居フェスという複数団体が次々と披露する舞台で、真っ白な四角い本だけを手に取り、箱庭という空間をきちんと持ち込んでいて感動した。この舞台を観た少しでも多くの人が、心に残っていたらいいなと思えた。


◆社会人をしながら好きをカタチにすることの難しさ


公演されるまでおよそ何ヶ月もの間、毎日のようにグループLINEでの打ち合わせが行われていた。全員社会人で働いているため、稽古は休日と仕事終わりの夜に行った。演出が宮城、俳優が東京、脚本家が福島と各々の拠点がバラバラなため、毎週の稽古はほとんどLINE通話だった。


noteで、演劇ユニット箱庭第5回公演の広報PRをして欲しいとあやなみに頼まれたのは5月半ば。演劇ユニット箱庭の全公演を観劇していて、いつかは関わりたいと思っていた矢先「あなたの"好き"をカタチにしてください」と誘ってもらえたのが嬉しくて喜んで二つ返事でOKをした。そこから公演までは、仕事の合間を縫って3人に電話で取材をして、その内容を整理してライティングする日々だった。

しかし、仕事しながら創作することがとっっっっっっっっっっっっっっても難しかった。日中フルで働いて帰ってご飯を作ってお風呂に入ってからか、朝起きてご飯を作るまでの合間、書いていくには時間もスタミナもいる。書くことは楽しかったけれど、書き上げられるのか正直とても不安だった。ライティングに重きを置けばたちまち家事や生活リズムが崩れる自分に呆れた。

それでも毎日のように熱量をもってLINEで打ち合わせをする3人についていきたいと思った。誰もが自分が自分の役割を果たそうという意思で満ちている。自分だけの「好き」であればいつでも辞められるし自分のさじ加減でできるけれど、人を巻き込んでいるから手を抜けない抜きたくない、やるからには何かを残したい。そんな気概を仕掛け人たちから感じていた。ようやくここまでなんとか連載できて安堵しているし、noteを読んで関心を持ってくれた方もいたようで本当に嬉しいと思った。そしてやっぱり自分は書くことが好きなんだとも思えた。


舞台に関われてよかったことはたくさんあるけれど、その中でも3人の生き方や考え方に触れられたのは大きかった。「あなたの"好き"をカタチにする」ために箱庭を作るあやなみと、好きを諦めないしゅー。子どもの頃からの好きを大人になっても忘れない長門美歩。3人は仕事も拠点もバラバラだけれど、自分の好きなものに対して純粋に向き合っていた。好きなことや楽しいことを自由にできる環境って、なんとなく学生で終わってしまっていたけれど、こんなふうに社会人になっても持っていていいんだな。自分次第なんだなと思えた。そして自分も気「書く」という好きなことをずっと続けていたんだなとも。


「38.9℃の夜」では好きなことを手放すことは生きながらの死を表していた。生きながらの死を、性別や立場を理由に選ばなければならない理不尽さは現代にも色濃く残っている。周りの空気を読んで手放してしまう方が楽なのかもしれない。でも、わたしは苦しくても好きなことを好きなように続けられる道を選びたい。この決意を込めて、一つの詩が生まれた。



私は、私の好きを、やりたいを手に入れる

見たい景色がある

会いたい人がいる

この人生でどれだけ多くの美しいものに出会えるか

この人生でどれだけ多くの人に愛を与えられるか

その為に自分の最善を目指したい

ままならない人生の中で時折

何もかもを辞めたくなるけれど

それでも

私は、私の好きを、やりたいを手に入れる

「才能」という言葉に騙されない

「努力」という言葉にとらわれない

何を今やるべきか 何を優先すべきか

自分の軸に沿って

真っ当に生きよう、今日も。






演劇ユニット箱庭は「あなたの"好き"をカタチにする」をコンセプトに活動するアマチュア演劇ユニットです。私は私の"好き"をカタチにできてとても幸せでした。私はこれからも書き続けます。またこの箱庭で、これからも多くの人の"好き”がカタチになりますように。誘ってくれたあやなみ、出会ってくれたしゅーさん、長門さん、麻友さんをはじめ、たくさんの方に感謝を込めて。


最後にこの言葉で「38.9℃の夜」マガジンの連載を締めくくりたいと思います。


さよならさんかく またきてはこにわ


本当にどうもありがとうございました。



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