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ギャラリーオーナーの本棚 #13『つながりの作法』 差異を認めた上でつながるために

自立していないことは、豊かなこと

この本は、Gallery Pictor 2022年プログラムに参加してくれている彫刻家の石川直也さんが、プログラムのメインテーマ《中心はどこにでもあり、多数ある》や自身の制作テーマに関連のある書籍として選んでくれたものです。

石川さんには2021年に初めてギャラリーのグループ展に参加していただき、その時に出品してくれた《自立しない人》というシリーズで、今年のプログラムでは個展を開催していただくことになりました。


《自立しない人》は言葉だけ聞くと、自立できない現代人を風刺したようなイメージを持つかもしれませんが、そうではありません。
これは、自立していないということが、いかに周囲の人々や環境に支えられているということなのかを、石川さん自身が実感した体験を元に生まれた作品です。つまり、「自立していない」ことは何かが不足している状態なのではなく、たくさんの人やものに支えられて豊かであることなのだと捉える、まったく逆の発想です。

石川さんからこのコンセプトを聞いた時、私は小児科医・熊谷晋一郎さんの「自立とは依存先をたくさん持つことだ」という言葉を思い出して、これを彼に伝えました。その後、石川さんは熊谷さんの共著作『つながりの作法』を読み、私に教えてくれたのです。

差異を認めた上で、関係を切る、のではなく・・・

前置きが長くなりましたがこの本は、脳性まひを抱えた熊谷さんと、アスペルガー症候群の診断を受けた綾屋紗月さん、それぞれにマイノリティとして人とのつながり方に困難を感じてきた当事者として、それをどう克服してきたか、「差異を認めた上でなお、つながりをもたらす作法」を考察したものです。
なので内容的には何かしらの障がいを抱えた人たちの視点で書かれていますが、ここでの「障がい」といわゆる「健常」の境界は、あとがきに熊谷さんも触れておられるように、非常に曖昧なものです。
変化のスピードの速い社会において、モノも情報も人間関係も次々に更新されることに対して、疑問も持たず適応できる人が現代では「健常者」になっており、一つ一つの刺激に鋭敏に反応したり、大量の情報や刺激の中から全体の意味やパターンを見出すまでに時間を必要とする人は「ちょっとおかしな人」、それが特に顕著で日常生活が送れない人は「障がい者」とみなされます。そう考えた時に、自分のことを顧みると「健常者」と「ちょっとおかしな人」の間を常に行ったり来たりしています(笑)。

もう一つ、この本の中で指摘されていることでもっともだなと思ったのが、今の社会には、表向きは差異を認めながら、同時に「いてもいいけど、混ざらないでほしい」と排他的になる傾向があるということ。だからこの本で熊谷さんと綾屋さんが目指した「差異を認めた上でなお、つながりをもたらす作法」は、「健常者」を自称・自認する私たちの誰もが考えるべきことなのです。


『つながりの作法』オンライン読書会を8月30日(火)20時〜開催します!
Gallery Pictor 2022年プログラム《中心はどこにでもあり、多数ある》のサイドイベントとして開催する読書会です。同プログラムの参加アーティストが選書した書籍を取り上げます。

↓↓気になった方はリンクをご覧下さい↓↓

《学びをシェアする読書会》の特徴

  • 書籍を購入する必要はなく、事前に読んでおく必要もありません。リーディング用の資料を主催者側で準備します。

  • 書籍丸ごと一冊を読むのではなく、抜粋を読む時間を設けています。

  • 書籍を読み解きながら、開催中の展覧会のテーマやアーティストの視点、それにつながる社会的なトピックスなどを主催者よりシェアし、参加者同士で対話を行います。

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