素敵なドラマ。
私は昔から映画が好きだ。
音楽や映像など、様々なワクワクさせられるものが詰め込まれている。
ときにはスクリーンに吸い込まれてしまうほどに。
中学生の時に、ああ、こういう映画関係の仕事につければいいなと思った。チケット販売、美術作画、音楽制作、スクリーンの掃除。
しかし同時に、様々な仕事があったけれど、生憎絵を描くのも音楽を聴く能力もなく、私にできるのはせいぜいチケット販売か掃除だと知った。
それでも私は映画に携われると思うと、そんなことは気にしなかった。
高校、大学に入り、何となく勉強をしていき、見事就職には成功した。嬉しかった。これでようやく好きな仕事ができる。
しかし、チケット販売の仕事は想像以上に苦しいものだった。
「いらっしゃいませ。」
「あの、すいません。この映画を見たいんですけど。」
チケット購入しにきたのはおばあちゃんで、孫らしき女の子と一緒に訪れていた。
「おばあちゃん楽しみだね!」
「ええそうだわね。ずっと楽しみにしてたものね。」
すごく声がかけにくかった。生憎そのチケットは完売だったのだ。しかも今日が終日、席は満席だ。
「あ、あのすいません。ただいまこちらのチケットは完売しておりまして…」
「あらそう、じゃあ今度また買いに来るわ。」
「すいません…こちらの映画は本日上映最終日となっており、席も今日は満席なんです…最近はインターネット予約というものが多くてですね…当日来られるとなかなか売ってないんです。」
「あら、インターネットね…私そういうものわからないものだから…すいませんね。」
「おばあちゃん!どうしたの、映画見れないの!?」
女の子が泣きそうな声と顔でおばあちゃんに語りかけた。
「ごめんね、予約してなかったおばあちゃんが悪いの。また今度一緒に来ようね。」
泣きそうな顔をしていた女の子は、瞳をうるうるとさせながらも涙を流すのを我慢していた。
泣いてしまったらおばあちゃんが傷ついてしまうことを、子供ながらに感じ取ったのだろう。
悔しかった。すぐ目の前に映画を見たい方がいるのに、見せることも、手を差し伸べることもできなかった。
この仕事についたのは、多くの人にストーリーを見てもらいたかったからなのに。
するとどこからか、大きな声が聞こえた。
「何でよ!?これ前から見たかったって言ってた映画じゃん!予約したって言ってたじゃん!何で見れないの!意味わかんないよ!」
「ごめん!本当にごめん!俺が悪かった!ごめんなさい。」
コツコツとヒールの足を当てながら帰っていく女性の姿が見えた。
おそらくカップルだろう。私は呟いた。
「あなたは悪くない。」
私は見ていた。あのお孫さんとおばあちゃんがとぼとぼと帰るところを彼が止めて、チケットらしきものを渡しおばあちゃんたちが頭を深々と下げながら映画館へ入っていくのを。
「あの、これ僕の友達が急病で来れなくなっちゃったみたいで。もし良かったらこれ、使ってください。」
「え、でも本当にいいのかしら?」
「はい、どうせ使い道もないですし。ぜひ使ってください。」
「すいません、、ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。」
「はい、では。」
スクリーンの中には素敵なドラマがある。
しかし、スクリーンの外以外にも素敵なドラマがあることを私は知った。
そして私はこの仕事をもっと続けたいと思った。
何か一つのきっかけで、誰かが笑顔になれることを祈って。