貴方軌跡ーアナタキセキー
episode1. 始まり
特に理由はなかった。
強いて言えば、縛られた生活から解放されたらどうなるのかが気になったのだ。
登校途中にふと思い、漕いでいた自転車のハンドルを学校とは逆方向に回し、めいいっぱいペダルを踏んだ。
* * *
これでもかというくらいペダルを踏んだ。
一番遠くの駅につき、一時間は経過しただろう、学校では一時間目が終わった頃だ。
してはいけないという事実に高揚感を覚え、胸が高鳴っていくのがわかる。
自由だ。
今のこの状態を表すのにはその言葉が最適だろう。なにも縛るものがなく、自分の好きなことをしてられる。
しかし肝心の目的が私にはない。
どこに行こうか、と頭を悩ませながらスマホを眺める。
観光 おすすめ などとワードを打ち込み検索していく。
出てきた検索画面次々とスクロールする。
目が止まった。
『森の図書館 樹』 と書かれたホームページを見つけた。
画像をタップする。
どうやら本当の森に図書館が融合する形であるらしい。
小さい頃から本が好きだった私にはぴったりの場所だと思い、地図を開く。
「きょ、京都?」
今私がいるのは愛知県の名古屋市。自転車で行くにはあまりにも遠かった。
電車に乗るお金もなくキョロキョロと周りを見ていると、ある看板が目に映った。
『国速1000』
「そうか、その手があったか!」
現在の愛知県、大阪、東京の3都市には国が運営する「国速1000」という最新型の乗り物がある。
道は地下にあり、パイプラインのように一直線で3都市が繋がっている。そのパイプの中にカプセルがあり、カプセルの中に入ることで時速1000㎞で移動できる乗り物だ。
しかも税金で全てまかなわれているので、乗車賃は0。こんな美味しい話に乗らない手はない。
しかしここで一つ問題がある。
この『国速1000』に乗るには専用のカードが必要なのだ。
しかもそのカードはお金持ちなどのVIPなどにしか発行されない。
どうしよう。やっぱり家に帰った方がいいかな。そう思ってうずくまっていた時だった。
「どうしたの?お姉さん大丈夫?」
唐突に声をかけられ、ドキッとした私に声をかけたのは小学4年生くらいの男の子だった。
「うん、大丈夫だよ。ありがとう。でも僕、今日平日なのに学校いかなくて大丈夫なの?」
もちろん私が聞ける立場じゃなかったが、疑問に思ってしまいとっさに聞いてしまった。
「うん…大丈夫」と男の子は少し寂しげに答えた。
何かあったのだろうか、親御さんはどこにいるのだろうかと心配していると思わず目が釘付けになったものがあった。
「ぼ、僕、ちょっとその首にかけてるカード見せてくれるかな?」
「え、これ?いいよ」
やっぱり。このカード、あの国速1000の乗車カードだ。しかもVIP専用の。この男の子は一体何者なのだろうか。そんな疑問を胸にしていると男の子が話しかけてきた。
「お姉さんこれ乗りたいの?いいよ、一緒にどっか行こうよ」
「え、本当にいいの?」
先走ってしまった。こんな小さな男の子と一緒にどこかにいくなんて、もしも何かあったら責任が取れるのだろうか。そんなことも考えずにとっさに口が開いた。
「うんいいよ、お姉さんどっか行きたい場所あるの?」
「ええっとね…結構遠い場所なんだけど、京都の樹ってところなんだけど、いいかな、?」
「いいよ!じゃあそこいこ!」
「あ、ありがとう!」
心配や不安よりかは、好奇心の方が勝っていた。この先どんな景色が見えるのかが楽しみでしょうがなかった。
何より、VIPしか乗れない国速1000に乗れるのが一番ワクワクした。
「お姉ちゃんこっちきて!」
男の子に連れられ駅の階段を次々に下っていくと、地下鉄よりも深いところにある国速1000の入場ゲートについた。
男の子がカードをかざすと、ピッと軽快な音がなる。そしてゲートが開いた。中はとても広く、高級感が満載だった。
ますます胸は高鳴り、男の子に先導されカプセルの中に入っていく。
ウィーンとカプセルが開き、マッサージ機のような大きな椅子に座る。
「じゃあお姉さん、出発するよー!」
男の子の明るい声とともに、一気にカプセルが進んだ。自分にものすごく力が加わるのがわかる。
出発すると同時に流れてきた少し悲しげな音楽は、私の今の心と少し似ているような気がした。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?