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 【読書】荻原浩『海の見える理髪店』(つづき)

昨日から読み始めた、荻原浩さんの『海の見える理髪店』(集英社文庫)。

きょうは表題作以外を読みました。

終戦、高度経済成長、バブル…。
どのお話にも、懐かしさを感じる空気が漂っていて、現実とは違う世界を感じさせてくれます。
一方で、舞台設定はどこか日常とリンクしていて、16年前に母に会いに行く娘(「いつか来た道」)、商店街のはずれにやる古めかしい時計店(「時のない時計」)、英語を覚えたての少女の家出(空は今日もスカイ」)と、自らの過去や未来に登場人物を重ね合わせることもできます。

個人的に好きだったのが、最後に収録された「成人式」。
娘を亡くした夫婦が、その過去から吹っ切れるために、生きていれば参加するはずだった成人式に「本人に成り代わって」出席する、というお話。
必死に若作りをして新成人の中に突っ込んでいくコミカルさもさることながら、そうやって無茶をしてでも過去に区切りをつけようとする姿に、笑いながら泣けてくる、そんなお話です。
印象的な一文はこれ:

 鈴音のためというより、自分たちのためだ。たぶん、私たちは、同じところを揺れてばかりの悲しみのメーターを、どこかで大きく振り切らねばならないのだ。

『海の見える理髪店』荻原浩. 集英社文庫. 2019. p243「成人式」

髪を染めてみたり、カタログを見ながら振袖を選んでみたり…。
最初は亡くなった娘のためにとやっていたことが、自分たちの楽しみになってくる。
過去に向けられていた夫婦の視点が、少しずつ今へ移っていく。一冊の本のラストを飾る話として、前向きなこの話はぴったりだと感じました。


さて、本作を読み終えた荻原さん分をもっと摂取したくなったので、いまは『神様からひと言』を読み始めています。
これは1日では終わらない長さなので、あしたも引き続き楽しめそう。

それでは。

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