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#47「強み」を活かすために - ポジティブ心理学 -

ここでは、「ポジティブ心理学」で研究される「強み」について一緒に学んでいきたいと思います。前回の記事では、「強み」に関連する心理アセスメントの注意点とコツについて、一緒にみてきました。

出てきた結果を鵜呑みにするのではなく「自分にとって何を意味するのか」を考えていくことが大切だというお話でしたね。今回の記事では、見つけた「強み」をどう活かすかということについて、一緒に学んでいきたいと思います。


「強み」は使ってナンボ

皆さんもご存知の通り、「強み」を「知っていること」と「活かしていること」は異なります。自分の「強み」を知っているだけでなく、ちゃんと使うことでこころの健康が促進されるという研究報告も多々あり、筋肉と同じように使っていくことが何よりも重要です。

そのため、前回の記事で紹介した心理アセスメントなどで、自分の「徳性の強み」や「優れたパフォーマンスに繋がる才能」が明確になった後、それらをどのように日常生活や職場で活用していくかを考えて、実際に行動していきたいところです。

「強み」は筋肉と一緒で「使うこと」で強化されていく

「強み」を意識して使う?

ところで、皆さんは「自分の強みを日常生活や職場で活かす」と聞くと、どのようなことをイメージされますか?よくカウンセリングやコーチングなどの面談の最後で、強みに基づくアクションプランを考えてもらうことがあるんですが、「自分の強みをもっと意識して使っていきます」と仰る方が結構、いらっしゃいます。では、「自分の強みを意識して使う」って、具体的に何をすることなのでしょうか? 経験上、個人的に思うことなんですが、この「強みを活かす」=「意識して使う」というアイデアは、一つ、大きな矛盾をはらんでいるように感じるんです。なぜなら「強み」というのは本来、「自然と出てくるもの」ですよね。自然と出てくるものを意識してしまうと、かえって、ぎこちなくなっちゃうんじゃないかなと思うんです。

例えば、VIA調査のキャラクターストレングス(徳性の強み)の分類で「ユーモア」を自分の「特徴的な強み」だと感じる方がいらっしゃいました。彼女は友人といるとき、自然と面白いことが頭の中に浮かんできて、皆がクスッと笑うような発言をして、皆から慕われていました。VIA調査を受けて、自分のTOP1の強みが「ユーモア」だと分かった彼女は、職場でも「人を笑わかせることを意識してやっていく」と決めたわけなんですが、実際、1週間経った後にどうだったかを伺ったら、「意識したら、逆にうまくできませんでした」とのことでした。確かに、「意識してユーモアを使って、人を笑わかせる」って、なかなか難しいですよね。結局、彼女は強みなどを意識せずに「職場ではいつも通りでいます」という形になってしまいました。

「強み」が自然と出てくる「環境」を整える

この例からもわかるように「強み」というのは本来、意識せずとも自然に出てくるものです。つまり、普段、自分の「強み」を活かせていないと感じる方は、自然と出てくるはずのものが「何か」によってせき止められているという状況なんです。逆に言うと、そのせき止めているものを除去すれば、自然と「強み」は出てくるはずなんです。

例えば、上述の彼女の場合、自然と自分の「ユーモア」が出てくる状況や環境はというと、「数人の気の知れた人たちと一緒にお話をしているとき」とのこと。プライベートでは、友人と食事に行くときなどに出ていると言いますが、「職場ではどうか?」と伺うと、「そのような気の知れた人はいない」とのことでした。つまり、この彼女にとって、もっと職場で自分らしくいられるようにするためには、診断結果で出てきた「ユーモア」を意識して使おうと考えるのではなく、「気の知れた仲の人を作っていくこと」を考えていった方が、急がば回れかもしれませんが、より意味があるんです。

「何人ぐらい、そういう仲の人がいればいいか?」「職場でもう少し仲良くなれそうな人は誰か?」「今いる気の知れた仲である友人とはどうやってそんな仲になっていったのか?(別記事でみた「勝因分析」ですね)」「職場で例外的にも冗談が言えたときはどんな状況だったのか?それは誰といたときか?(こちらも別記事でみた「例外探し」ですね)」・・・このような質問を投げかけていく中、彼女は「もしかしたら気が合うかもと思っていたAさんに、一緒にランチに行くお誘いをしてみる」というアクションプランを作り、実際にAさんとランチに行くようになりました。その結果、すぐに仲良くなったというわけではありませんが、ランチや仕事終わりにご飯に行く機会が増えるにつれて、Aさんとの仲が深まり、プライベートだけでなく、職場でも面白いことを言ってクスッと笑いがとれる環境を作り上げていきました。自分の「強み」が活かせる環境で、以前に比べて「仕事が楽しい」と感じるようになったとのことでした。

「ユーモア」を意識して使おうと考えるのではなく、自然とそれが出てくる「環境」を整えていったことで、職場でいつも「ユーモア」が出てくるようになった

このように、よく「強みを活かしたアクションプラン」を考えようとするとき、診断アセスメントの結果で出てきた自分の中にある「強み」や「才能」を意識して使うことを考えがちですが、実は、それらが自然と出てくる「環境」を整えた方が、現実的に役に立つことが多いんです。急がば回れかもしれませんが、丁寧にその環境を整えていくと、無理なく自分の「強み」が持続的に活用できるようになっていきます。

「環境」を整えるための質問

以下、「強み」が自然と出てくる「環境」を整えるために役立つ質問になります。ぜひ、前回の記事でみたVIA調査やクリフトンストレングスの診断結果を自分の言葉で定義してみた後、これらの質問をヒントに、自分の「強み」が自然と出てくる「環境」を調整するアクションをとってみてください。

  1. この「強み」が表に出てくることをせき止めているものは何だろう?

  2. いつも、どんな時にこの「強み」が出てきているだろう?

  3. 誰といる時、よくこの「強み」が出ているだろう?

  4. それはなんでだろう?(別記事でみた「勝因分析」ですね)

  5. 何があったら、もっとこの「強み」が出てくるだろう?

  6. そのために、誰にお願いする必要があるだろう?

人間とは、「環境」との相互作用の中で存在する生き物です。少し時間はかかるかもしれませんが、きっと、徐々に自分の「強み」が無理なく日常生活で出てくるようになると思いますんで、ぜひ、やってみてください!

さて、ここでは、「強み」を活かすためには、それが意識せずに自然と出てくる「環境」を整えていくことが重要であるということについて学んできました。次回は、逆に「強みを意識した方が良いときはどんなときか?」を一緒に学んでいきたいと思います。(つづく)

【参考文献】
Biswas-Diener, R., Kashdan, T. B., & Minhas, G. (2011). A dynamic approach to psychological strength development and intervention. The Journal of Positive Psychology, 6(2), 106–118.

Seligman, M. E. P., Steen, T. A., Park, N., & Peterson, C. (2005). Positive Psychology Progress: Empirical Validation of Interventions. American Psychologist, 60(5), 410–421.