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#39「ありがとう」に伴う感情は「感謝」だけじゃない - ポジティブ心理学 -

今回の記事は「#39」ということで、ポジティブ心理学で研究されている「感謝」について、一緒に学んでいきたいと思います。昨今、臨床でも「感謝」のワークが用いられたり、ウェルビーイング経営などで「ありがとう」を企業や自治体の中で増やしていこうという動きがありますが、ここでは、人から親切にされたときに意識しておきたいことについて、一緒にみていきたいと思います。


「感謝」は副作用のない良薬である

「感謝」には、感情、モラル、態度、人格などさまざまな側面がありますが、ポジティブ心理学の中では、最小限の定義として「自分を取り巻く世界には良いものがあり、それは自分以外の人やものがもたらしてくれたものだと認めるときに感じるもの」だと言われています。

この「感謝」という感情なんですが、これまでの研究の中で、心身の健康に対してさまざまな効果があるということが明らかになってきています。例えば・・・

  • 幸福感が高まる

  • 抑うつが軽減される

  • コルチゾールレベルを低下させる

  • 自殺念慮を軽減させる

  • バーンアウトの予防になる

  • 主観的な睡眠の質が良くなる

などなど。おそらくポジティブ心理学にご関心のある方であれば、どこかで見たことがある内容だと思いますし、ポジティブ心理学にご関心がない方でも、ご経験から「ま〜、確かにそうだよな」と思われるんじゃないかなと思います。

「感謝」は「副作用のない良薬」とも言われている

「感謝」の感情だけでなく「負債感」も伴う

この「感謝」の感情を高めるために、ポジティブ心理学の研究では「毎日、ありがたいと思うことを5つ書くこと(Counting Blessings)」や「感謝の手紙を書くこと(Gratitude Letter)」などのワークの効果検証がよくされているんですが、このようなワークに取り組むとき、または人から親切にされたとき、ひとつ、気をつけておきたいことがあります。それは欧米圏と異なり、相互依存で成り立つ文化圏に住む僕たちにとって、人から親切にされたとき、「感謝」の感情だけでなく「お返ししなきゃ」という「負債感  (indebtedness)」というネガティブな感情も一緒に湧いてくるという点です。そして、この「負債感」は、自分の自尊感情を弱めたり、自律性を譲歩させたり、時には親切にしてくれた人に対して「そんなことしてくれなくていいのに」とネガティブな評価をしてしまうなど、マイナスの効果があると報告されています。

このことに関して、皆さんも大なり小なり、ご経験あるんじゃないでしょうか? 誰かに何かをもらったとき、「わ〜、何かお返ししなきゃ」と思ったり、親切にしてくれた人に対して「いや〜、気を遣わせてしまって、なんだか申し訳なかったなあ」と思ったり。僕は結構、あります。このような「負債感」は「感謝」とは異なる感情で、ある研究によると、親切なことをしてくれた人との心理的距離に関係なく、個人主義ではない相互依存の文化圏にいる人たちは、この「負債感」が「感謝」と同時に湧いてくるようです。ウェルビーイングを高めるために「感謝の手紙」を書いていても、この「負債感」の方が強くなっちゃうと本末転倒になってしまいます。

「あ~、何かお返ししなきゃ」ばかり考えてしまうと本末転倒

相手の「思いやり」に目を向ける

では、ウェルビーイングを高めるために「感謝」のワークをするとき、または、人から親切にされたとき、僕たちはどうすればいいのでしょうか?ポジティブ心理学がお勧めするのは、親切にしてくれた相手の「思いやり」や、その人がもつ内的なポジティブな性質に着目するということです。相手から親切にされたとき、「お返ししなきゃ」とそちらばかりに目がいってしまうと「負債感」が湧いてきます。一方、相手の優しさや思いやりをもっと意識すると「感謝」の感情が生まれ、親密性が増していきます。

相互依存の文化圏で生きる僕らにとって「負債感」を抱いてしまうのは自然なことです。ですから、「お返ししなきゃ」という「負債感」が湧いてきたら、ぜひ、その人の優しさや思いやりに目を向けてみてください。感謝の手紙で書く内容も「何をしてもらったか」よりも「その人の内的なポジティブな性質」に焦点を置いて書いてみてください。きっと、気持ちが「あ~、ありがたいなあ」と「負債感」よりも「感謝」の方が強くなってくると思いますんで、ぜひ試してみてください。

さて、ここでは、「感謝」のワークに取り組むときや、人から親切にされたときに湧き起こる2つの感情について、一緒にみてきました。次回の記事では「感謝」以外の他のポジティブな感情について、一緒に学んでいきたいと思います。(つづく)

【参考文献】
Allen, S. (2018). The science of gratitude. John Templeton Foundation.

He, W., Qiu, J., Chen, Y., & Zhong, Y. (2022). Gratitude Intervention Evokes Indebtedness: Moderated by Perceived Social Distance. Frontiers in psychology, 13, 824326.

Oishi, S., Koo, M., Lim, N., & Suh, E. M. (2019). When Gratitude Evokes Indebtedness. Applied psychology. Health and well-being, 11(2), 286–303.

Peng, C., Nelissen, R. M. A., & Zeelenberg, M. (2017). Reconsidering the roles of gratitude and indebtedness in social exchange. Cognition and Emotion, 32(4), 760–772.

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Shin Matsuguma | 松隈信一郎
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