#40「希望」とは - ポジティブ心理学 × 解決志向アプローチ -
ここでは、「希望」について、一緒に学んでいきたいと思います。日常生活の中でもよく「希望がない」「希望を持とう」と言われますが、ポジティブ心理学では、この「希望」も、どんな時に湧いてくるのか等が研究されています。「希望」を理解すると、それを育むために具体的に何をすればいいのかが見えてきます。今回の記事では、そもそも「希望」とは何か?について、一緒にみていきましょう。
「希望」のイメージは?
まず、皆さんは「希望」という言葉を聞いたとき、どんなイメージをもたれますか? 何か「暗闇の中に差す一寸の光」のように、目に見えない抽象的な概念を思い浮かべる方が多いんじゃないでしょうか? 「希望」は「ある/ない」で語られますが、目に見えるものではありませんので、例えば、落ち込んでいるときに「希望を持とう」と言われても、具体的に何をすればいいのか、なかなかわかりにくいものです。一方、ポジティブ心理学の研究を通して、「希望」には3つの要素があるという理論が確立されています。(スナイダー・ホープ理論と呼ばれます)この3つの要素を揃え、高めていくことで、「希望」が湧いてくる可能性が高まってきます。
「希望」が湧いてくる3つの要素
それでは早速、「希望」の3つの要素を一つずつ、みていきましょう。まず、1つ目の要素は「価値ある目標(Valued Goals)」があることです。自分にとって重要なゴールや目標があること、これが「希望」が湧いてくるための1つ目の条件です。確かに、何か目指すものがあるから「希望」という感情が湧いてきますよね。何も目指していない中で「希望」という未来志向の感情は生まれてきません。
次に、2つ目の要素は「発動性(Agency Thinking)」です。英語では、「エージェンシー」と書き、心理学に詳しい方はこちらのカタカタの方がしっくりくるかもしれませんが、ここでの意味は、そのゴールや目標に対して、自分がどれほどコミットメントがあるか、決意があるか、できると思っているか、モチベーションがあるかを指します。「絶対にその目標を自分は達成するんだ!達成できるんだ!」という決意や自信、信念が固ければ固いほど、「希望」に満ち溢れていますよね。逆にその決意や自信、信念がないと、「希望」よりも「不安」が湧いてきます。
そして、最後の3つ目の要素は「経路(Pathway Thinking)」です。これは、ゴールや目標を達成するための道筋が明確に見えているかどうかという要素です。どのようにすると目標が達成されるか、その道筋が明確であればあるほど、「希望」は湧いてきますよね。
価値ある目標、自分自身の発動性、そして、ゴールまでの経路。この3つの要素を「車の旅」で例えてみると、「価値ある目標」は目的地、「発動性」はエンジン、そして、「経路」はカーナビといったところでしょうか?目的地が明確で、その目的地に着くまでの燃料も十分あって、カーナビがどんなときも正確に行き先を示してくれる。そんなときに「希望」が湧いているという理論です。
今の「希望」はどのくらい?
さて、今、皆さんはどの程度、「希望」を感じていますか?つまり、この3つの要素がどれくらい明確でしょうか? 以下、「状態ホープ尺度(Adult State Hope Scale)」の質問です。各項目、1点(まったくあてはならない)から8点(よくあてはまる)の8点満点になります。まず、各項目を読んで、自分自身の今の状況を振り返ってみましょう。
私は困難な状況にあるとき、そこから抜け出す方法をたくさん考えつく
現在、私は精力的に目標をめざして進んでいる
自分が今直面しているどんな問題にも、対応する方法はたくさんある
今、私はかなり成功していると思う
私は現在の目標に到達する方法をたくさん考えつくことができる
この頃、自分で設定した目標を達成している
いかがでしょうか? まず、項目1、3、5の合計点(3~24点)を出してみてください。この合計点が自分自身の「経路(Pathway Thinking)」になり、点数がより高いほど、道筋が明確に見えているという意味になります。次に、項目2、4、6の合計点(3~24点)を出してみてください。これが自分自身の「発動性(Agency Thinking)」になります。点数が高いほど、モチベーションやコミットメントが高いという意味になります。最後に全ての項目の合計点を出してみてください。これが皆さんの今の「希望」レベルになります。皆さんの得点はいかがでしょうか?
まずは「価値ある目標」を設定してみる
ちなみに、この尺度の質問に答える中で一つ疑問に思うことがないですか?そう、「”希望” は3つの要素がある」と言っておきながら「発動性」と「経路」のことしか聞いておらず、「価値ある目標」の項目がないんです。これ、個人的にずっと謎でしたが、数年前にトヨタ自動車株式会社統括精神科医の奥山真司先生とお話させてもらっているときに「なるほど!」と思ったことがあります。それは、この尺度が開発された欧米圏では、そもそも「目標をまず設定すること」は当たり前すぎて、取り立てて伺う必要がないんじゃないか?ということです。日本では、学校教育において「自ら価値ある目標を設定して、進捗状況を確認する」という機会、ほとんどありませんよね?もしかしたら、日本でよく「希望がない」と耳にするのは、そもそもの目標やビジョンがないからなのかもしれません。そのため、「どうなりたいのか?」「何をしたいのか?」「何を望んでいるのか?」という解決志向アプローチの問いを大切にしていくことは、「希望」を育む上でも非常に重要な役割を果たしてくれると思います。(解決志向アプローチの問いに関して、詳しくはこちらをご覧ください!)
「重要な他者」の「発動性」も大切
また、「発動性」に関して、フィリピンのある研究によると、欧米圏と異なり、相互依存で成り立つ文化圏において、自分以外の「重要な他者 (Significant Others)」の「発動性」も僕らの「希望」に影響を与えることが報告されています。ここでいう「重要な他者」とは、家族や友人・同僚、そして、神様・仏様などの偉大なる存在を指しています。特に家族主義で宗教が生活に根差しているフィリピンで行われた研究だからなのかもしれませんが、「周囲に関係なく、自分の決意次第!」という個人主義の国ではない相互依存の文化圏において、家族や友人、神聖な存在が自分の目標を応援してくれているかどうかも自分の「希望」に大きく影響を及ぼすようです。例えば、自分はある目標に対して、とてもモチベーションが高いのに、家族がその目標に対して否定的だと自分の希望レベルは下がってしまいます。そのため、相互依存の文化圏で生きる僕たちにとって、自分自身の内的な発動性だけでなく、重要な他者の外的な発動性も考慮する必要があることを少し補足しておきます。
さて、ここでは「希望」について、3つの要素と2つの発動性を一緒に学んできました。漠然とした概念である「希望」も、このように要素別でみていくと解像度が上がり、「扱えるもの」になっていきますよね。そこで次回は具体的な「希望」の育て方について、一緒に学んでいきたいと思います。(つづく)