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#36 ネガティブな感情は深掘りしない - 解決志向アプローチ -

ここでは、「解決志向アプローチ」の考え方について、一緒に学んでいきたいと思います。ポジティブ心理学や解決志向アプローチは、問題の原因を追及するのではなく、解決した状態や望む未来を描きながら、解決の糸口を見つけていくアプローチです。一方、問題を抱えて悩んでいるとき、なかなか望む未来を描くことはできません。そこで、どのようにネガティブな感情や思考の強度を緩め、プラスの状態へと導いていくかのプロセスを知っておくことはとても重要です。このプロセスには3つのステップがあり、前回の記事では、まずは1つ目のステップ、「共感すること」についてみてきました。

今回の記事では、2つ目のステップ、「ノーマライズする」ということについて、一緒に学んでいきたいと思います。「しんどいよね」「大変だったね」と相手に共感した後、どうするのか? 一緒にみていきましょう。


ネガティブな感情は認めるけれど、深掘りはしない

従来の心理学のアプローチの多くは、ネガティブな感情や思考に共感したあと、どんどんその部分を深掘りしていきます。そして、過去のトラウマ体験を含め、その根幹に眠っているネガティブな出来事を掘り起こして、再度、そのときの感情に触れて整理することで癒やしていこうと試みます。機械の故障と同じですよね、「原因を見つけて直していく」というアプローチです。一方、解決志向アプローチは、相手のネガティブな感情や思考、視点は共感して受けとめますが、それを深追い、深掘りしません。なぜなら、問題の「原因」と「解決」は別次元に存在すると考えるからです。(詳しくはこちらの記事をご覧ください)

また、ネガティブな気持ちを深追い、深掘りし続けると、「幼少期に〇〇があったから、こうなっても仕方がないんです」と過去のネガティブな出来事の犠牲者となってしまい、退行(「赤ちゃん返り」のように精神発達が止まり、逆の方向に進むこと)してしまう恐れもあります。

そのため、解決志向アプローチでは、以下のように相手のネガティブな気持ちや視点は認めるけれど、「以上!」って感じでストップします。

(例)○ それはしんどいよね。
   × それはしんどいよね。いつからなの?

(例)○ それはイライラするね。
   × それはイライラするね。なんでそうなっちゃったの?

「えっ、なんかそれって、冷たくないですか?」と思われる方もいらっしゃると思います。でも、解決志向アプローチは深掘りをしません。

ネガティブな感情や思考をノーマライズする

では、深掘りをしない代わりに何をするのか?それが「ノーマライズ」です。「ノーマライズ」とは英語で書くと "Normal-ize"。つまり、「ノーマル化する / 標準化する」という意味が直訳なんですが、相手のネガティブな感情や思考、視点は自然なもので、同じ状況になったら、誰でもそうなることを伝えていきます。「イライラするのも自然ですよ」「落ち込むのもわけないですよ」「全然おかしいことじゃないですよ」「その状況下だったら、誰でもそう感じますよ」と相手の感情や思考は何もおかしいものではなく、その状況になったら、誰でもそうなることを伝えていきます。そうすると、相手は少しずつ「ああ、こうなるのは自分だけじゃないんだ」と思えてきます。そして、そう思えるようになるにつれて、少し安心感が出てきます。解決志向アプローチは、この安心感を生み出して、ネガティブな感情や思考の強度を緩めていこうと試みます。「雑草」をならすイメージでしょうか、ネガティブな感情を抜いて無くすのではなく、ならして、その感情に振り回されなくするというイメージで捉えてみてください。

「そういう気持ちになるのも自然だよ、何もおかしいことじゃないよ」と伝えていく

「共感」→「ノーマライズ」を練習する

ここで、少しステップ1と2を続けて、具体的に練習してみましょう。以下、最近、僕が経験したネガティブな出来事です。皆さんは、どのように共感して、ノーマライズしますか? 少し考えてみてください。

「あああ、せっかく、日本に帰国するタイミングで新日本プロレスの大会があるのに、チケットがすでに完売だ・・・」

新日本プロレス 7.5 東京武道館大会のチケットが完売・・・

いかがでしょうか?「プロレスのチケットなんて、どうでもいいじゃん」と思われる方もいらっしゃると思いますが、上述のコメントにどのように共感・ノーマライズしますか? 因みに、僕だったら、、、

(例)うあ~、それはがっかりですね。(← 共感)長年のプロレスファンだったら(← 相手の状況を考慮)そりゃ、がっかりしますよ。(← ノーマライズ)逆にしない方がおかしいですよ(← ノーマライズ)

こんな感じで応えるかなと思んですが、いかがでしょうか?この反応、「自然ですよ」と文字通りには言ってませんよね。ニュアンスが「自然なこと」であれば、なんでも構いませんので、こちらを一つの参考に、状況に応じて、様々な言い回しを是非、考えてみてください。

目的は安心感を生み出し、ネガティブな感情を緩めること

因みに、このノーマライズに関して、よく「”相手の考えはやっぱり自然じゃない” と思ったとき、どうすればいいんですか?」という質問を受けます。その場合、相手の置かれた状況を考慮したり、思考のプロセスを辿ってみてください。「”その状況に置かれたら”、そう考えるのも自然だよね」「”そう考えたら”、そういう気持ちになるのも自然だよね」と、この2点を考慮すると、少しノーマライズがしやすくなると思います。これは前回の記事の「共感できないとき」のお話と一緒ですよね。(詳しくはこちら)

また、このステップ2(ノーマライズする)の真の目的は「相手のネガティブな感情や思考の強度を緩める」ことです。そのため、相手が「自分だけじゃないんだ。至って自然なこころの働きなんだ」と思えるようすることが最も大切なことです。その目的を果たすためには、ぶっちゃけ、別に自分が「自然だ」と思わなくても、「自然ですよね」と言った方がベターです。どうしたら相手は安心感をもつことができるか?これを最優先に考えていくと、このステップ2がやりやすくなると思いますので、ぜひ意識してやってみてください。

さて、ここではネガティブな気持ちや考えが強すぎるとき、その強度を緩めるために、共感して、ノーマライズすることを一緒に学んできました。「しんどいよね。そう感じるのもおかしくないよ、自然なことだよ」という「共感 → ノーマライズ」の流れ、悩み相談でめちゃくちゃ役立ちますんで、ぜひ、使ってみてください。次回はステップ3「自分のリソースに目を向けていく」について、一緒にみていきたいと思います。(つづく)

【参考文献】
De Jong, P. and Berg, I. K. (2012). Interviewing for Solutions. 4nd Edition, Brooks Cole, Pacific Grove, CA, 152.

Warner, R. E. (2013). Solution-focused interviewing: Applying positive psychology: A manual for practitioners. University of Toronto Press.

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Shin Matsuguma | 松隈信一郎
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