いろんな家族のカタチ...(本屋大賞アレコレ⑤)
HONYA AWARD Ⅴ
さて、「2021年本屋大賞」に向けて、過去の「本屋大賞」を振り返るシリーズ記事も第5回を数えて、いちお、これが最後になります。
今回のテーマは
いろいろな家族のカタチ
「本屋大賞」作品の中で、ちょっと普通とは違った家族が描かれた作品があります。あんまり自分の好みのジャンルではないため、普段であれば読まないのですが、「本屋大賞」ということで読んでみると、やっぱり良かった~って感じなんですよね。
今回は、そんな家族のカタチを描いた3っつの作品を選んで "note" してみようと思います。
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まず、最初の作品は、第1回大賞作品
小川洋子さんの「博士の愛した数式」
80分しか記憶を保てない数学博士と、その家政婦となった女性と、その息子の3人の交流を描く物語。
博士が数字に向き合ってる時と同じ静寂が、物語全体も包み込んでる感じで、とても静かな日常が淡々と描かれているだけなのに、なんか世界に浸ってしまう物語なのです。
特に、博士と家政婦さんの息子であるルートとの交流が温かくて、その温度に触れたくて、何度も読みたくなるのです。
ここでは、実際の家族よりも家族らしい関係を感じることができたりするんですよね。
この本が、初めての小川洋子作品だったのですが、その後も、静かな読書をしたくなった時に、無性に読みたくなる作家さんなのです。
二つ目が、第3回大賞作品
リリー・フランキー さんの
「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」
この作品は、ほとんどリリーさんの自伝なので、子どもの頃から丁寧に半生が描かれています。時々、実名で登場する方もいたりして、リリーさんの人生を追いかけるだけでも面白いんです。
語り手のリリーさんが成長していく中で、子どもの頃は分からなかった親のことが分かるようになったり、分かっているけど出来ない大人になったり、リリーさんの親子の関係が伸び縮みしながら物語が進んでいくのです。
特に物語の後半、東京に出てきて暮らし始めたオカンがいいんですよね~。すごく魅力的で、私もオカンのご飯を食べてみたかった。
終盤は、ちょっと近しい人を失くした経験を持つ人には、辛いかもしれませんが、リリーさんの正直な気持ちで綴られています。
体裁とか配慮とか、そういうのに縛られずに本音を綴った本だからこそ、心に響く部分があるのでしょうね、正直、終盤は泣けて泣けて仕方がなかったりしました。
本当の家族の話なのですが、ちょっと変わったオカンとオトンとリリーさんの家族のカタチ。
でも、そんなカタチもあるのですよね。
そして最後は第16回大賞作品
瀬尾まいこさんの 「そして、バトンは渡された」
高校生である主人公には、3人の父親と2人の母親がいるという、一瞬、どういうこと?と思うような状況から始まる物語です。
読み進めていくと、なぜ、3人の父親と2人の母親がいるのか、少しずつ理解できていくのです。
それぞれの親たちはそれぞれの理由や事情があって、主人公を巡る状況が生まれているのですが、主人公の女の子をはじめ、出てくる人物は、皆、いい人で、読んでいて心地いいのです。
特に、最後に父親になった森宮さんが、ほんとに個性的なのにいい人なのです。
生みの親より育ての親って言葉がありますが、あらためて親子って何なのか考えさせられる本なのです。
苗字が3回変わった主人公が、終盤、自らの意思で苗字を変えていく様子、いわゆる結婚ってやつですが、その場面はちょっと泣けてしまいました。
いわゆる普通のやり取りじゃないんですが、悲しいから泣けるのではなく、血はつながっていなくとも、親子は親子なのだという気持ちが伝わってきて泣けるのです。
ホントに素敵な家族のカタチの物語なのです。
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ミステリー、サスペンス、ファンタジー、エンタメなどなど、多彩なジャンルの大賞作品がある「本屋大賞」。
冒頭にも書きましたが、今回、紹介した”家族”を描いた本なんかは、以前の自分であれば手に取らないジャンルで、この「本屋大賞」を受賞しなければ読まなかったことは間違いないのです。
そういう意味で、この「本屋大賞」は、自分がいろんな本や作家さんと出会える「扉」みたいなものなんだと思うのです。
今年は、どんな素敵な本と出会えるか、ホント楽しみなのです。
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