仕掛けの多い海外ミステリー(『第八の探偵』著:アレックス・パヴェージ)
Eight Detectives
以前、記事を書いたことのある、今年、ちょっと楽しみにしていた海外ミステリー『Eight Detectives』が、『第八の探偵』ってタイトルでリリースされています。
独自の理論に基づいて、探偵小説黄金時代に一冊の短篇集『ホワイトの殺人事件集』を刊行し、その後、故郷から離れて小島に隠棲する作家グラント・マカリスター。
彼のもとを訪れた編集者ジュリアは短篇集の復刊を持ちかける。ふたりは収録作をひとつひとつ読み返し、議論を交わしていくのだが……
"note" の中で募集していたモニターには外れちゃったんですが、今回読んでみると、前評判どおり面白かったです。
ただ、この本は読者を選びます!
その理由は
1.作中作が7編も入っている構成
2.様々な箇所にある仕掛け
全体的に仕掛けの多い人工的な感じのするミステリーなのです。
ミステリー評論家の千街晶之さんが解説で触れていますが、80年代後半から、綾辻行人さんや有栖川有栖さんらが起こした ”新本格ブーム” の頃を思い出してしまうような感じなんです。
こういう仕掛けのあるミステリーは、好き嫌いが分かれるんですよね。
ただ、最近の若手作家さんたちにも、 "新本格ブーム" を読者として経験した世代の作家さんも多いので、若手作家さんたちの作品が楽しめる人なら、全然、大丈夫だと思います。
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物語は、その昔刊行された一冊の短篇集について、収録短篇を一つずつ読んで、その後、編集者と作者が議論する構成で進んでいきます。
この短篇がそこそこ面白い!
ほんと、短篇集なんですが、どこかで読んだことのある話のパスティーシュっぽくなっているんです。(中には、あの孤島ミステリーの名作も含まれています。)
ただ、どの短篇も、読んでみると、何かしらの違和感を感じるのですが、その理由は終盤明かされていくのです。
ミステリーをたくさん読んでる人なら、隠されている仕掛けの一つや二つは、すぐに勘づくと思うのですが
仕掛けの奥に仕掛けがあるのです!
多分、真相を見破れる人はほとんどいません。
そういう意味で、ドギツさはありませんが、そうきたか~って感じで楽しめるのです。
さらに、
合間の編集者と作者の議論が面白い!
収録短篇に関する議論の中では、推理小説における「被害者」「犯人」「容疑者」「探偵」について、数学理論を用いて類型されているのですが、自分にとって、それが、とっても興味深かったのです。
いろんな推理小説の類型パターンが説明されるとともに、実際の短篇で提示されるんで、よく分かるのです!(←分類好きですからね。)
本のデザインに新しさはないんですが、中身は、古典的な名作へのオマージュを含んだ新しいミステリーだと思いました。
年末のブックランキングに入って来そうな一冊ですが、『イヴリン嬢は七回殺される(スチュアート・タートン)』や『ディオゲネス変奏曲(陳浩基)』などが面白かった方にはお薦めです!
*以前、記事を書いた時は、本全体が孤島ミステリーだと勘違いしてたのですが、孤島ものは短篇のひとつだったので、その部分は悪しからずです!
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