ニューハンプシャーホテルを訪れて...(アーヴィングの寓話)
The Hotel New Hampshire
誰にでも、自分にとって大切にしたい本があるものだと思うのですが、私にとっては、ジョン・アーヴィングのこの『ホテル・ニューハンプシャー』が、そんな大切な一冊です。(正確には上下巻ですが..)
家族で経営するホテルという夢に憑かれた男と家族をめぐる、美しくも悲しい愛のおとぎ話――
ホテルというのは、いろんな人々が訪れては、一定の時間、ひとつ屋根の下の空間を共有する不思議な場所です。
アーヴィングのこの本では、物語自体がホテルのようなもので、様々な人々が物語を訪れては去っていく、そんな話なのです。
中心となるのはベリー家の人々
ウィン・ベリー:父親。ホテル経営の夢に取りつかれる。
メアリー・ベリー:母親。
フランク・ベリー:長男。ゲイ。
フラニー・ベリー:長女。勝気な美少女。
ジョン・ベリー:次男。この物語の語り手。
リリー・ベリー:次女。小人症。
エッグ・ベリー:三男。
アイオワ・ボブ:祖父。
ソロー:ペットのラブラドール犬。
兄弟姉妹一人一人に、普通ではない部分があるのですが、みんな愛すべき人物です。一見、普通に思える次男のジョンにも、密かに姉に恋する複雑な心情の持ち主だったりするのです。
物語は、いくつかの興味深いエピソードが、アーヴィング特有の、まったりとした描写で語られていきます。
ただ、ベリー家の人々には、次々と不幸な出来事が襲います。
まあ、不幸な出来事があっても、ぐんと暗くなるわけではないし、ネバー・ギブアップ!みたいなマッチョな展開になることもありません。
あくまで坦々と進んでいく物語なのです。
静かな分、読む側には家族の深い喪失感が染み込むように伝わってくるし、その奥には、言葉にならない優しさを感じることも出来るのです。
本の紹介文では、”愛のおとぎ話”と称されていますが、そんな静かな読み味が、ファンタジーとして感じられる部分なのだと思うのです。
決してハッピーな物語ではないし、結局、どこにたどり着いたのか分からないんだけど、何か ”力をもらえる” 不思議な物語なのです。
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この本は映画化されています。
原作でも印象的だった登場人物の一人に、第二次ホテル・ニューハンプシャーに出てくる ”熊のスージー(理由があって熊のぬいぐるみを着て生活している女性)” がいるのですが、映画でその役を演じたのは
ナスターシャ・キンスキー!
長女フラニー役のジョディ・フォスターとナスターシャ・キンスキーの共演が観れるだけでも贅沢だと思いませんか。
映画はコメディタッチの部分が多いのですが、それはそれで面白いので併せてどうぞ!
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