てんとうむしばたけを訪ねて|スモールファーマーズカレッジ見学ツアー
食べて出会う、オーガニック野菜たち
「かわいい~!」という声があちこちから聞こえる、ここはビオ・ラビッツのオーガニックカフェ、てんとうむしばたけ。京都市内から車で約2時間、てんとう虫が出迎えてくれるオシャレなカフェです。
テーブルに並んだ野菜たっぷりのランチ。ポタージュスープ、ドレッシング、調味料もてんとうむしばたけでつくられたもの。加工品やデザートのシフォンケーキにも(今日はゴボウのシフォンケーキでした)たくさんの野菜たちが使われています。
「オーガニックスタンダートって身近なんだよってことをいろんな人に感じてもらうには、実際に食べてもらうのが一番。あとは畑に来てもらって色んな体験をしてもらうことが大切。そのためには拠点が必要だと思って、このカフェをつくりました」
そう梅本さんが教えてくれるこのカフェでは、2020年のオープン以来、オーガニックメニューを追求するシェフによって、続々とユニークなメニューが登場しています。
代表作とも言えるのが、ケーク・サレ。フランス生まれのお惣菜ケーキは、てんとうむしばたけで「ビオ・ケーク・サレ」となりました。その主役は何と言ってもオーガニック野菜たち。総重量の3分の2が有機野菜というから驚きです!もちろん野菜は、てんとうむしばたけで収穫されたものばかり。
他にもユニークなのが、大人気のピザ・オルトナーラ。
「このピザの主役は野菜。大根だとかニンジン、サツマイモとかが、とにかくゴロゴロゴロ~ッと乗っていて、“the 野菜!”っていう感じなんです。
野菜は食事の主役になるんだよってことを知ってほしくて」と、梅本さん。
葉はサラダに、実はソテーに、根と皮は野菜出汁に…と、余すところなく野菜のすべてをいただけるというこのカフェに、「人間っていうのは食べたもので体ができあがってる。何を食べるかで体の価値が決まる。農業っていう仕事は、食べる人たちの体と健康、命を預かる仕事。じゃあ、どういうものを食べてもらうのか、っていうのはすごく大事なことなんです」という梅本さんの、食べ物への敬意と食べる人たちへの真心、そしてご自身の農への思いを感じました。
土をつくる、微生物を育てる。
「おぉ~…」と、スモールファーマーズの受講生たちのどよめきが漏れたそこは、てんとうむしばたけのシンボルとも言える堆肥場です。
うず高く積み上げられた巨大な枯草の山、山、山。そしてひと際目を引く、大きな大きな、土の山。
「堆肥の原料は、集めてきた草です。表面は草が見えてますが、掘ってみるとだいぶ土になってきています。ほら、ここにワラジムシが大量にいるの、わかりますか?」と、梅本さんが掴み取った草に、みんな興味津々。
「ほんまや!ワラジムシおる!」と、代わるがわる覗き込みます。
「茶色い点々は枯草菌。こういった菌がまず生の草をムシャムシャと食べる。そのウンチをワラジムシ、ミミズ、ダンゴムシが食べる。そしてそのウンチをまた違う微生物が食べる。そしてワラジムシやミミズが死ぬと微生物に分解されます。菌にも寿命があるので、それらも他のものに食べられる。これを繰り返して繰り返して土になっていくんです」
梅本さんの農地は、30年ほど前に山を切り拓いてつくられた土地。花崗岩が風化してできた真砂土の地表には、いわゆる“土”がなかったと言います。
だからそこに“自然界の土”をつくろうと、梅本さんは枯草や落ち葉を集めに集め、現在は7ヘクタールある農地の内、約1割が堆肥場になっているのだそうです。集める草の量は年間で2tトラック200台ほど。落ち葉は軽トラック30~40台分にもなります。
「植物がしっかり根を張って、自分の力で栄養をとって、光合成ができるようになるには20センチくらいの土が必要。自然界では1センチの土ができるのに50年かかると言われてますから、何もしなければ1000年かかっちゃう。
だから自然界の50倍のスピードでやって20年、そうやってできた土を畑に入れてきました。ここは堆肥場ですけども、ある意味“土”をつくってるって言えますね」
「そしてこれが5~6年経ったもの」そう言って梅本さんが掬って見せてくれた土は、フカフカでした。
「わ~…柔らかい~…」と、みんな次々に手を伸ばします。
「植物を養ってるのは土、その土をつくっているのは微生物。このひと掬いが20gくらいだとしたら、この中にほぼ2兆の微生物がいます。すごい数ですよね。でもこのひと掬いで育つ植物はちっちゃな草くらい。そうすると、野菜を育てるには桁違いにたくさんの微生物が必要なんです。
だから、言うなればここは“微生物を育てるところ”。
それをね、畑に入れて種を撒く。そういう農業をやっています」
いざ、タマネギ。
「滑る!」「足が抜けへん~!」と、どこかコミカルな緊張感に包まれた畑の中。朝から降り続いた雨が、運よくやんだそのタイミングを逃すまいと、スモールファーマーズの受講生たちが踏み入ったのはタマネギの定植畝。
しかしぬかるんだ土がまるで田んぼのようになり、日ごろ畑で鍛えたはずの受講生たちもその歩を進めるのに大苦戦。
それでも、ちょうど数日前の授業でタマネギの定植を習ったところだという皆さん。「さすがにこの天候は習ったシチュエーションとは全然違うけど笑、頑張りますよ!」と奮起し、手に手に苗を取り畝を進みます。
農園スタッフの通称“先生”にも助けられ、励まされ、作業に取組みました。
「あの植え方で大丈夫やったかなぁ~」「ちゃんと育ちますように!」と、
口々にタマネギの健やかな成長を願いながら、曇天の下のタマネギ定植を終えたのでした。
まだまだ見たよ。てんとうむしばたけ。
学校給食、農、地域、そして人。
見学会も最終盤、雨を避け、ビニールハウスの中で梅本さんのお話に耳を傾けます。
食品会社で営業や宣伝部の仕事をされていたという梅本さん、子どもが生まれ改めて食について考えたとき、先祖代々の稼業に立ち返り「農業をしよう」と土地を探したと言います。
そのとき紹介されたのが、この京丹後市弥栄町の地。
最初は慣行栽培から始め、大根やサツマイモを地元の小学校に卸していたそうです。
「そのうち子どもが小学生になって、そのとき気付いたんです。家では子どもに農薬を使ってない野菜を食べさせているのに、給食用の野菜には規格を満たすため農薬を使ってることに。これじゃいけないって」
こうして梅本さんは、すべての作物をオーガニックに切り替える決意をします。22年前のことでした。
「学校給食について調べました。すると、この辺りは野菜とお米の大産地で、海も近いから魚も手に入りやすい、それなのに給食では京丹後の食材がほとんど使われてないことが分かったんです」
そこから梅本さんたち地元の農家が中心となって、給食の地産地消化を目指す活動を開始。その名も“学校給食委員会”。
発足から12年目の去年、京丹後市の給食は地産地消率60%に到達。旬の献立だけで見ると、約95%にもなると言います。
10年以上の取組みは、やがて人と地元をつなぐ力へと変化していきます。
「地域の良さってなかなか気付かないものだけど、一度都会に出て行った人たちの中に“給食は美味かった”っていう記憶があるんです。それが自分たちの地域への誇りになって、大学を出たら地元で仕事をしたい、子どもが生まれたら地元で子育てをしたいと言って、若い人たちが帰ってくるようになりました」
そしてその変化は地域の農業・農家にも。
「農業って良いよねって子どもたちが思うようになりました。どこの地域も高齢化の問題が多いんですが、この地域のほとんどの農家に20代・30代の跡取りがいます」
今では“子どもが変われば未来は変わる”を合言葉に、給食のためにオーガニックや、今までできなかった栽培方法にチャレンジするなどの動きが出てきているのだそう。
「学校給食をね、オーガニックにするっていうのはもちろん夢なんだけど、まず地産地消にするだけで子どもたちはすごく変わる。
給食が美味しいから、将来管理栄養士になって給食をもっと良くしたいっていうお手紙ももらったんですよ。やっぱりそういうのってね、農業と給食がつながってこそだなぁって思います」
そして続く、てんとうむしの物語。
やがてザァザァと降りしきっていた雨もやみ、てんとうむしばたけに日暮れが訪れます。
梅本さんのお話に聞き入った一日もこれでおしまい。
畑をあとにしながら、「農業っていう仕事は、食べる人たちの体と健康、命を預かる仕事。じゃあ、どういうものを食べてもらうのか、っていうのはすごく大事なことなんです」という梅本さんの言葉が頭をめぐります。
つくること、食べること。
自分にとって、それはどういうことなんだろう?明日から自分の畑に立つときに、じっくりと考えてみたいと思いました。
てんとうむしを探しながら。
てんとうむし畑では「畑のお手伝い」をはじめ、色んな体験プランがあります。是非あなたもてんとうむしばたけ体験、してみませんか?
レポートする人
今井幸世さん
2021年の夏から野菜づくりの勉強を始める。はじめての土、はじめての野菜、これまで想像もしなかったたくさんの経験と自然のふしぎを通じて、環境と状況の中にある自分を発見。自然の摂理に沿って生き、はたらき、出会い、食べる暮らしを目指し自給農に挑戦中。
NPO法人スモールファーマーズでは、農を通してより良い世界をつくる活動に共感いただける「仲間」を募集しています。
ご自分のペースで、ゆっくりゆる~く関わっていただけたらと思います!
Small Farmersサポートメンバー
NPO法人スモールファーマーズ公式ライン