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孤高と孤独のはざま、人からの評価

周囲からの自分への評価や評判は
気になるものだろう。

例えば、職場で上司や部下からの評価。
なかには、それを気にして叱り
注意することも出来ない上司がいたり。
日々の暮らしでも近所の目が
気になって八方美人になってしまう等。

いにしえから哲学者、偉人は言った。
他人が自分の批判をしたり、
悪口陰口を言いふらしたりしても
気にする必要は全くない。
なぜならそれはそれを言う人自身の問題、
性格的な課題だからだと。

また、こうも説く。
他人からの評価は
批判(悪い評価)5割、
賞賛(良い評価)5割が丁度良い
と。
後者ばかりでは、うぬぼれるし、
その実、偽善的。
自分なりに偽りなく真剣に生きていれば、
「賛否」半々くらいに落ち着くはずと。

どこに「幸福の価値」を置くか
人からの評価評判は
さほど気にならないと僕は思っている。

ではこの御仁はどうだろう。

選手として3度の三冠王、
8年間の監督時代は4回のリーグ制覇、
1回の日本一、全期間Aクラス入り
という華々しい、いや孤高の実績のある…
落合博満氏その人である。

今をときめく大リーダー大谷選手や、
太陽のように元気な新庄日ハム新監督、
この度文化勲章を授与された長嶋さん
と比べ、落合氏は、「賛否」で言うなら
否のほうが俄然多かった気がする。

昨夜、「嫌われた監督〜
落合博満は中日をどう変えたか」
(鈴木忠平、文芸春秋)
を読了。

本書は一人のスポーツ紙の記者が
落合中日監督の8年間を追った
ドキュメンタリーだが、
小説を読んでいる迫力、臨場感があり、
登場人物たちの心の熱さに、圧倒された。
何度も胸が熱くなり、
何年かぶりに読書で落涙した。

落合氏の発言は奇天烈で短く、
どこか説明不足。
その佇まいは誰とも群れず一匹狼、
誰も追いつけない卓越した技術でのみ
生き抜いてきた人。

特に監督時代に、
日本シリーズ史上初の完全試合が
かかった山井投手の9回での交代劇、
リーグ優勝目前での本人の解任劇。
さしずめ「落合劇場」、
この人には「劇場」がよく似合う。

一方で、リーダーとしての落合監督は、
選手を怒鳴りつけることも、感情的に
ツメツメすることもなかったという。
さりとて、褒めたり励ますことも、
具体的な指導伝授も殆どなかった。

但し、教えを乞う選手には
「一言」だけぽつりとヒントを言い、
「解説」はしない。
選手に考えさせるのだ。
考えないと自分のものにならないからだ。

要はプロとして
仕事をしてくれるかどうか。
役割を果たす技術を持っているかどうかを
卓越した観察眼で選手の課題を射ぬくのだ。
即戦力にのみ期待し、
若手を時間をかけ育てるスタンスなし。
球団との契約内容のみ厳守し、
それがプロの野球の世界だとした。

選手と飲みに行ったり、
個別に群れたりは一切なし。
感情的な繋がりを持たず
仕事上のみの関係。
だから選手の起用に
好き嫌いは関係なく、
勝つための機能として
必要かどうかのみ。
だから選手に怪我や故障を
未然防止する様、厳重に言い続けた。
その一例が
ヘッドスライディングの禁止だ。

僕らビジネスの世界で、
同様の主義を遂行したら、
孤立し、いや、孤独になる。
心理的安全性」が求められる昨今、
あのリーダーは近寄り難く
相談しにくい、となるだろう。
現代のリーダー論で重きを置くのは
「部下に気を配れ」極論としては
部下をお客さまと思え」だ。

孤高は良いが孤独は駄目と偉人はいう。
落合氏はその才能と生き様ゆえに
孤高であり孤独であった。

かくして言葉は刻まれる。

「別に嫌われたっていいさ」
「心は技術で補える。
心が弱いのは、技術が足りないからだ」
「球団のため、監督のため、
そんなことのために野球をやるな。
自分のために野球をやれ。
勝敗の責任は俺が取る。
お前らは自分の仕事の責任をとれ」
「俺が本当に評価されるのは…、
俺が死んでからなんだろうな」

孤高と孤独の男の生き様が滲み出る。

あとがきに、本書発行の狙いがある。
「巨大組織や統治者たちを覆っていた
メッキが次々にはがれていく」なかで
「偽善でも偽悪でもなく
組織の枠からはみ出したリーダー像」
描きたかったという。

僕は思う。落合氏が
人生で最大の「幸福の価値」を置くのが
家族だから、彼は8年間の監督時代、
初志貫徹、スタイルを変えなかったと。

著者が述べているように、
落合氏をどう評価するのかは自由。
著者は落合評を明言していない。
本書の行間が落合愛で溢れていることは
わけて落合ファンである僕には
沁み入る程によく判る。

人がその人をどう評価しようが
その人の自由である。
そして人の評価に正解はない。

でも僕が感じるのは
リーダーとは孤独なもの。
自分自身がある程度の経験と苦労をし、
ある程度の視座を持ったうえで
あるリーダーを評価するなら、
それは正論である可能性が高い

ということ。
そして、僕らビジネスの世界でも
マネジメント手法として、
落合流の観察眼を所々で取り入れたら、
部下の育成が大きく前進すること。

最後に、我が生涯のベスト5に入る
本書「嫌われた監督」の読後感として
吉川英治作「宮本武蔵」8巻の
最終節を掲げたい。

「波騒は世の常である。
波にまかせて泳ぎ上手に 
雑魚は歌い、雑魚はおどる。
けれど誰か知ろう。
百尺下の水の心を
水のふかさを。」

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