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読書日記 オルクセン王国史 ~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~と「寓話の力」

多くの人が手にとっているネット発の物語を初めて読んでみたのは、10年ほど前だろうか?
以降、「小説家になろう」「カクヨム」の人気作はざっと読むことが習慣になった。新作の発掘は行っていないが、ランキングに入る作品はまず読んでみるようになっている。

読み手も多く、書き手も多いジャンルの変化の速さは面白い。少し前なら、丁寧な説明が必要だった言葉が、いまは、説明なしで展開できる。

読み手の方に前提が出来上ると、その前提を崩す物語が生まれていく。書き手たちと読み手たちが共に様式を共有し合いながら、新たな物語を紡いでいることは、豊かな物語の泉のようで羨ましい。

異世界転生ものなどは過去ここまで同様の設定で物語が紡がれたテーマはないのではないだろうか?
次から次への多様な物語が湧き出す泉には、書く喜びと読む喜びが溢れていると思う。他のジャンルもこうなったらいいのに。
「オルクセン王国史 ~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~」をweb連載で読み切った。
オークがエルフを攻めるというお約束のような構図と見せかけた近代軍事ファンタジーであり、種族を超えた国家の作り方を丁寧に書いた異様な物語だ。

読みながら著者がなぜこの物語を書いたかを何度も想像してしまった。

近代史ならびに近代軍事史への深い造詣と陸海空軍の制度と装備に関する知見。運ぶことに目が当てられることが多い兵站について、生産から買い付けによる自他国経済への影響の記載。外交についての故事の活用などここまで広範に細やかな軍事物語は過去読んだことがなかった。

そして、特筆すべきは、人間同士だと血生臭くなる話を一種の寓話のように描ききったことにある。
もちろん、オークやコボルトといった種族が書かれていたとしても戦争と死についての描写は生々しい。
生々しさを薄めている作品ではなく、むしろ戦争の戦争たる部分は丁寧に書かれている。
ただ、あくまでオークの国とエルフの戦争なのだ。これが、オークの国と人間の国の戦争の物語であったなら、私は読み進められたのだろうか?

著者がリアルな寓話としてこの物語を書いた理由は寓話とすることで、事実を直視しやすくするためではないのだろうか?
平和なエルフの国を焼き払うに至った理由は、復讐と計画性と組織力と技術力と生存戦略である。兵器や戦略ではなく、個人の復讐心が戦争の原動力であるという書き方にも感心した。
いま1番読むべき寓話です。

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