【私の感想 #17】行方不明展に行ってみたレポート!【ネタバレあり】
ドーモ、透々実生です。
前回、私は『その怪文書読みましたか』のイベントに行き、そのレポを書きました。
今回は、その大盛況だったイベントの主催であるホラー作家・梨さんと株式会社闇の代表・頓花聖太郎さんに加え、最近話題となった『イシナガキクエを探しています』の制作者、大森時生さんがタッグを組み、新たなホラーイベントが開催されています。
その名も、『行方不明展』。
様々な行方不明を取り扱った、展示イベントです。
今回は、そのイベントレポとなります。
※前回の『怪文書』記事同様、こちらの記事にはネタバレ・私的な感想が含まれています。
ネタバレ有りでも楽しめる余地は残していますが、もし何も見ずに楽しみたい、自分なりの考えを見出したいという方は、この時点でブラウザバックをお願いします。
あと、前回みたいに脅かすことはありませんのでご安心くださいませ。
はじめに(前置き)
まず、イベントレポに移る前に言っておきます(なので手っ取り早くイベントレポを見たい方は目次から「本編」へ飛んでください)。
このイベントは、フィクションです。今まで以上に、こちらの文言が強く、強く押し出されています。
行方不明、というのは非常にセンシティブな話題です。
ある日、家族が忽然と姿を消してしまった。
海や山に遊びに行ったきり、帰ってこなくなり、遺体も見つかっていない。
某国に拉致されたのではないか、とさえされる人もいる。
それによって遺された人々の心情たるや、私には実感しようもありませんが、想像することはできます。
安否を気遣い、元気でいてほしいと願い、一方で元気でないかもしれないと不安に感じる。そうした苦悩や煩悶とした状態が、長い間、ずっと続くのです。
そしてそういう人達が、現実に、実際にいる。
そのため、このイベントはSNSで幾らかの批判を受けていました。実際に苦しんでいる人もいるのに、こういう話題を展示会というエンタメにするのは不謹慎ではないか――と。
無論、そういう意見もあって然るべきです。ですが、このイベントの意義を梨さんは、先ほどの「ごあいさつ」文にて、続けてこう述べられています。
行方不明、という話題をテーマとして消化している、というのは否めないでしょう(というより、展示会という形式である以上、テーマを消化することは避けられないとさえ、私は思います)。しかしこの展示会は、行方不明という題材をただ面白おかしく使うのではなく、それを通して、人の動き(それは実際の行動であったり、心の動きであったり)を表現することを主眼としています。
それによって、実際に行方不明(者)という現実を、創作という形でとはいえ、目の当たりにする。どんな心の動きをするのか、或いは、鑑賞者である私たちがどう心を動かすのか(または、どう心が動いてしまうのか)。
これを感じとるのが、このイベントの主眼である――そう念頭に置いた上で(ここまで読んで下さった方、ありがとうございます)、私の感じたことを軸にイベントレポを書きます。
ということで、本編のイベントレポです!
行方不明展へ行ってみた!(本編)
ここからネタバレがあります。
踏みたくない人はここでブラウザバックしてくださいね!
ということで、やって来たのは三越前駅すぐ近くの、福島ビル!(結構デカデカと掲示がされていたのに通り過ぎてしまったのは内緒です)
私は開場となる11時に行きましたが、結構人は多く、会場も1階と地下1階の2フロアに分かれていました。すごく広い!
そしてチケットをもぎられ、最初に目にするのは、電話ボックス!(なお展示物は、「プロローグ」「エピローグ」および動画全部のアップロードを除き共有OKとなっています)
行方不明の展示は、この電話ボックスが出迎える、身元不明(ひとの行方不明)の展示から始まります。
なお、こちらの展示は大きく4つの展示に分かれており、
・身元不明(ひと)
・所在不明(場所)
・出所不明(もの)
・真偽不明(記憶)
……という4つの行方不明を扱っています。上から順に回っても、空いてるところからバラバラに回っても全く支障はありません(が、もし空いていれば、ある程度上の順に沿ってみることをオススメします)。
というわけで、早速身元不明から行ってみましょう。
●身元不明 ひとの行方不明
ひとがいなくなる、と聞けば、普通は「早く見つかってほしいな」と願うものですが、どうにもそれでは括れないものがあるのだろうと思います。
例えば、「反省することを許可します」と書かれた紙。ここからは、当該男性を支配しようとしている強い意志を感じます。もし彼が見つかったら、監禁され、2度と日の目を見れないかもしれない。
写真が存在しないのでコラージュで捜索願を作った、というものも、親(?)が写真を撮らないほど子育てに興味がなかったか、あるいは大きくなった子どもが自らの痕跡を消すために、写真を全て処分してから姿を消したか……ここは想像に任せるしかありませんが、少なくとも「ただ災害や犯罪等に巻き込まれ、消えてしまった」では括れない何かがあるのを感じます。
このように、行方不明は、災害や拉致などの外的要因で「いなくなってしまった」だけではなく、自らの意思で「消えた」というものもあるのです。つまり、死にたくないけど、ここからいなくなりたい、消え去りたい――そんな思いを、次の「所在不明」エリアでは感じ取ることができます。
●所在不明 場所の行方不明
行方不明になれたら。
学校や職場のいじめだったり、上手くいかなくて悩んでいたり、人間関係に悩まされたり、裏切られたり、騙されたり。そんな嫌なことにたくさん遭って、この世から消えてしまいたい。かと言って、死ぬ勇気は無いし、または死にたいわけではない。
そんな人々は、行方不明に憧れるようになる。コックリさんに聞いてみたり、2chなどで行方不明を扱う創作が増えたり(ちなみにこの展示会でも、きさらぎ駅、地下のまる穴、backroomsなど、さまざまな作品がオマージュされています)、様々な形で、その憧れをどうにか具現化しようとする。或いは、下記の写真のように、「ここではないどこか」に憧れや、どこか懐かしさを感じ、または幻視するようになる(私は、この「懐かしさ」を、正確には「ホッとする安心感」なのではないかと認識しています)。
そして人々は、より直接的に、行方不明になりに行こうとする――つまり、ここではないどこかへの憧憬に留まらず、遂にその『ここではにいどこか』に行こうと実行に移し始める。
それが、次の出所不明で示されていきます。
●出所不明 ものの行方不明
一旦ビルの外に出て右手、地下へ通じる階段へ。そこに出所不明と真偽不明の展示ブースがあります。
この辺りから、行方不明に関する資料により不気味さというか、不可思議さが増していきます。行方不明になりたいと思い、それを実行に移し、遂に本当に消えてしまった。その後に残された(または遺された)ものが数々展示されています。
これらに示されているように、どうやら、こことは異なる世界=異世界の存在が匂わされています。本当にこの世から消えたい人の前には、その扉が開かれ、その扉をくぐれば異世界に行くことができる。
それこそ、異世界転生でもするかのように。
……思えば一時期、「異世界転生小説が増えたのは、ここではないどこかに行って、人生をやり直したいという考えを持っている人が多いからだ」という言説があった気がします。私は、本当に異世界転生なんかできる訳もなく、従ってここで見た「扉」も、樹海などの場所を考えると、幻覚か何かではないかと私は考えています。
しかし、そんな幻覚では済まない事態も出てきているわけで。
確実に生きていたはずの人間なのに、皆がその人を覚えていないか、忘れてしまっている。まるで、異世界転生をした代償とでも言わんばかりに、いなくなった『この世』から、周りの人間の記憶から、存在が抹消されてゆく。人が死んだら記憶が薄れてゆく――ということがありますが、最早それとは別次元の現象が起きていると見て良いでしょう。
そして残された人の声は、それは悲痛なものです。なにせ、大切な人が忽然と消え失せ、気持ちの整理もつかぬまま、その人との記憶すら薄れてゆくのですから。
では。
行方不明を望み、実行に移し、そして成功した行方不明者は、果たして幸福になったのか。
最後の「真偽不明」では、その結末がほのかに漂っています。
●真偽不明 記憶の行方不明
行方不明者は、遂に異世界へと飛び立ちました。その結果起きたのは、まさしく「前回の世界での自分を殺し、新たな世界で生まれ変わった」という現象でした。いざこの世から消えることに成功しても、また一からやり直しをせざるを得ない状況に陥っています。そして、人によってはそれを懐かしみ、あるいは自らの存在・アイデンティティが不定形であることに苦しんでいます。
楽になるために、「今の苦しい人生から解き放たれたい、行方不明になりたい」と実行したはずなのに、100%幸せになれるとは言い難い。むしろ、逆に絶望に陥ることだってある。
――ここまで到達して、私は、行方不明なんて誰も幸せにならないことの方が多いな、と感じました。
今が苦しい、だから逃げたい。これ自体は誰しもが経験したことがある感情だと思います。それが行くところまで行けば、行方不明になりたい、となる。
そして今の自分全てを犠牲にして異世界に逃げ込んでも、幸せになるとは限らない。
言わずもがな、残された人達は、悲しみ(人によっては怒りですが)を抱えることになる。最早行方不明になっても、誰も幸せにはならないのだ――私はそんなメッセージを受け取りました。
しかし、それでも。
それらが全て分かった上でさえ。
きっと、行方不明になりたい人はいる。
実際、2023年には9万人ほどが(望んだ形であれ、望まぬ形であれ)行方不明になっています。
エゴではありますが、行方不明になる前に、誰かに助けを求めて欲しいな――なんてことを、私は思ったりしました。
本当に行方不明になる大多数の人には、そんな願い、届かないとしても。
蛇足と後書き
以上が、私の『行方不明展』のイベントレポでした。前回の『怪文書展』よりはストーリー性はありませんが、代わりに感じ取るところがあって、個人的にはとても良かったです。梨さんの言う、「新たな視座」なるものも、私の中に確かに芽生えた感覚がありました。
私が上の写真で載せていた展示の他にも、沢山の展示がされています(紙のポスターにとらわれない、それこそ多種多様な展示がある!)。文字通りに、五感を刺激してくれること間違いなしなので、興味ある方はぜひ。
個人的には、怖いのが苦手だよ、という方にも来ていただけるのではないかと思っています。
あとは、いつも通りと言えばいつも通りですが、行方不明ポスターのガチャがあります(だからガチャってなんだ)。価格は100円。行方不明展の思い出とお土産に、ぜひ一家に一枚、行方不明怪文書はいかがでしょうか。
他にも、パンフレットがあったりします。私は買いましたが、まだ読んでないので、これから読んでまた色々と感じ取ることができればな、と思います。
では、以上、イベントレポでした。
――最後に、もうひとつだけ。
今回のイベントの会場のどこかに、QRコードが隠されています。(床に平積みで置かれているものとは別です。きちんと「展示」されています。ちょっとわかりづらい場所にありますが、頑張って探してみてください!)
読みこむと、あなたの本心を炙り出す、とあるページが表示されます。
個人的には、当イベントの総括にもなると思っていますので、ぜひ、探してみてください。
(終わりです)