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時事英語における品詞転換の例(TruskのLanguage Change;時事英語で英語史)

本日は、3年生のゼミで講読しているTruskのLanguage Changeに関連する話題をお届けします。先日のゼミで、Chapter 4: Creating wordsを扱い、語形成についてディスカッションしました。プレゼンテーションの担当者が出題するクイズをみなで楽しく解きながら、語形成について理解を深めることができました(クイズは難問も多く解きごたえがありました!また別の記事でご紹介できればと思います)。

ゼミが終わり語形成への意識がちょうど高まっていたタイミングで時事英語の勉強をしていたところ、品詞転換(conversion)の例をいくつか見つけましたのでご紹介したいと思います。品詞転換は、ある単語を本来とは別の品詞で用いることです。品詞転換の代表例には以下のようなものがあります。

・His new novel is a must.「必須のもの」(「助動詞 → 名詞」の例)
ifs or buts「不平や言いわけ」(「接続詞 → 名詞」の例)
・Shall we Häagen-Dazs?「ハーゲンダッツのアイスクリームを食べる」(「名詞 → 動詞」の例)

寺澤(2008: 89-94)

以下、『CNN English Express 2024年7月号』に掲載されている最近のニュースから品詞転換の用例をご紹介します。

名詞のunknown

多くの英語学習者にとってunknownといえば形容詞のイメージが強いのではないでしょうか。ボストンでブタから人への腎臓移植が行われたことに関する以下のニュースでunknownの名詞用法が使われています。複数形を作る-s語尾に注目です。

Doctors believe the kidney could last for years but acknowledged there are many unknowns with animal-to-human transplants.
(医師団は移植された肝臓は数年間は機能するかもしれないと考えているが、動物から人間への移植には未知の要素が多いことを認めた。)

『CNN English Express 2024年7月号』

歴史的な背景をOED Onlineで調べてみると、形容詞用法を基に名詞用法が発達したことがわかります。形容詞用法は古英語まで遡りますが、名詞用法の初出は中英語期の14世紀後半です。

OEDは名詞用法を大きく4つの意味に分類しています。人間を指す用法(1)「知られていない人、無名な人」の後に、人間以外を指す用法(2)「未知のもの」が続きます。そして、19世紀前半には、数学で使われる(3)「未知数」の意味が発達しています。今回のニュースで問題となっているunknownの意味は、名詞用法の最後に紹介されている以下の意味(4)に該当します。

gen. An unknown thing; esp. an unknown factor, variable, or situation. 1829–

Oxford English Dictionary, s.v. “unknown (adj. & n.),”


「未知のもの」特に「未知の要因、変数、状況」を表すこの用法は、1829年に初出しています。英語の長い歴史の中では、まだまだキャリアが浅い用法と言えるでしょう。以下、OEDに掲載されている初出例と最新の例です。

1829 If only a calendar of the unknowns was once obtained, historical elucidations would soon follow.(Gentleman's Magazine July 37/1)
2014 How the old guard..will fare in the elections is one of the unknowns.(New York Times (National edition) 20 October a10/4)

Oxford English Dictionary, s.v. “unknown (adj. & n.),”

形容詞のchance

chanceという単語の使用例を一つ挙げてくださいと言われたら、多くの方が名詞の用例を挙げるのではないでしょうか。フランスでティタノサウルスの化石が発掘されたというニュースにおいて以下のようにchanceの形容詞用法が使われています。

A chance discovery in southern France has uncovered a rare and surprisingly intact dinosaur skeleton.
(フランス南部で偶然の発見によって、珍しい、驚くほど形を保った恐竜の骨格が発掘された。)

『CNN English Express 2024年7月号』

OEDによると、chanceはフランス語からの借用で、名詞用法の初出は中英語期の1297年となっています。形容詞用法は、名詞用法から約400年遅れ、初期近代英語期の1676年に初出します。現代英語では、a chance meeting/encounter「偶然の出会い」やa chance occurrence「偶然の出来事」のような使い方が一般的です。

ちなみに、OEDには16世紀後半に遡る「偶然」の意味の副詞用法も掲載されています。現在では古語法となっています。

By chance, perchance, haply. archaic.

Oxford English Dictionary, s.v. “chance (n., adj., & adv.),"

以下、シェイクスピアの『ヘンリー4世』における使用例を挙げておきます。

1600 It may chaunce cost some of vs our liues.(W. Shakespeare, Henry IV, Part 2 ii. i. 12)

Oxford English Dictionary, s.v. “chance (n., adj., & adv.),"

おわりに

みなさんも是非、身の回りに品詞転換の例がないか探してみてください。おやっ?と思う単語の使い方がありましたら、その歴史的背景についてOEDや『英語語源辞典』で調べてみると思わぬ発見があるかもしれません。みなさんのchance encounterを是非コメント欄にお寄せください。お待ちしています!

参考文献
CNN English Express(編). 2024.『CNN ENGLISH EXPRESS 2024年 7月号』 朝日出版社.
Oxford English Dictionary, s.v. “chance (n., adj., & adv.),” June 2024, https://doi.org/10.1093/OED/9411315384.
Oxford English Dictionary, s.v. “unknown (adj. & n.),” December 2023, https://doi.org/10.1093/OED/6354718665.
寺澤盾. 2008. 『英語の歴史―過去から未来への物語』中央公論新社.


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