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月のうさぎ
月に住むうさぎは新月の夜月の軌道にのって、地球へとやってきます。
人間が月をその望遠鏡で覗くように月のうさぎもまた地球を覗いているのです。
大きな大きな石臼は、お餅が入っているが、地球を見下ろす大きな大きな望遠鏡にもなっています。
えっさほいさとついたお餅をを月のうさぎは食べながら今日は地球のどこで面白い事がやっているか、どこに行こうかと思案します。
月のうさぎは土地の地名などは知らないのです。
行きたいところに姿を変えて向かっていくだけです。
人間が月を観察するように、月のうさぎも人間を観察しています。
月からうさぎが居なくなれば、観察している人間はさぞ驚くことでしょう。
そんなことをうさぎは知っています。
満月の夜、地球へおりたい月のうさぎは月に住む月のかにに自分の代わりを頼んだことがあります。
「かにさんかにさん」
「どうしたんだい?うさぎさん」
「これから地球にいくから、この石臼の前で待っていてくれないかい?」
「地球にいくのかい?それはいいね。だけど月のうさぎさんがいなくなっては大変じゃないかい?」
「だからよ。わたしがいなくなったら、月を覗いている人間たちがびっくりするじゃない。だからかにさんにわたしの代わりをしてもらいたいの」
「ははーそういうことか、そういうことなら良いよ。だけど、ただでは引き受けられないよ」
「それはどうしてなの?かにさん」
「うさぎさんが地球で楽しく過ごしている間に僕は石臼の前でただ待っているだけなんて嫌だよ。石臼の中のお餅を僕にも分けておくれ」
「そうね仕方ないわ。かにさんにお願いするのにただ待って貰うだけじゃあなたが可哀想よね」
「いいのかい?それじゃぁうさぎさんは気が済むまで地球で遊んでおいでよ」
「かにさんありがとう。ではいってくるわね」
「あぁいってらっしゃい。気をつけてね」
「えぇ」
こうして約束を取り付けた月のうさぎは月の軌道に乗りながら地球へ向かいました。
けれど、これがまずかったのです。
その日はちょうど満月の夜でした。
地球へ遊びに行った月のうさぎは人間たちの話し声でびっくり仰天をします。
「おいおい見てくれよ。今日の月の模様いつもと違くないかい?」
「見せておくれ?ほーそうかい?うさぎの形が斜めになっているだけじゃないかい?」
「いやいやちゃんと見とくれよ、あれは月のうさぎじゃなくて゛月のかに゛だよ」
「ほんとか?もう一度よく見せておくれよ。あーーー確かにそうだ!!これは月のかにだ。こりゃたまげた」
この話を聞いてたまげたのは人間だけではなく、その話を近くで聞いていた地球に遊びにきている月のうさぎだったのです。
「しまった!!月の模様がかにになるんだわ、大変!!」
「急いで月に帰らなくちゃ!!」
月のうさぎが月へ帰るのには、月が出ている月夜でないとその軌道に乗ることができないのです。
太陽が出てしまうとその月の軌道が変わり、薄く消えていってしまう。それに、月のうさぎも太陽の熱でただの野うさぎへと変わってしまうのです。
「急がないと!!」
地球へ来る前に乗ってきた軌道へと走るが、回る地球に合わせ軌道も場所が変わってしまいます。
「急がないと太陽が昇ってしまう!!」
地球を堪能していた月のうさぎでしたが、久しぶりに出会った地球の野うさぎたちと会えたことで、時間を忘れお話に花を咲かせていました。
そのため、朝が近づいていることに気が付かなかったのです。
走っても走っても月へ向かう軌道は遠くへ見えるばかり、小さな地球上の姿のうさぎでは追いつきそうにありません。
「誰か助けて!!月に戻れなくなっちゃう!!」
地球へきている野うさぎの姿をした月のうさぎは、息を切らしながら必死に叫びます。
その時です。
「僕たちに任せて!!!」
そこにはいく数羽のうさぎの姿がありました。
「私達もいるわよ」
バサバサと大きな羽を瞬かせるフクロウの姿があちらこちらからやってくるではありませんか。
「みんなありがとう!!わたし急いで月に帰りたいの!」
地球へきている野うさぎの姿をした月のうさぎを囲み、地球の野うさぎたちはぐるぐると周りだしらせん階段場になっていくではありませんか。
「さぁここに乗るんだ。月のうさぎさん」
らせん階段の最下部でぐるぐると走る大きな大人の野うさぎが言います。
「ありがとう!!」
地球の野うさぎたちは
「うんしょうんしょ」
と、言いながら上空へ地球へきている野うさぎの姿をした月のうさぎを運んでいきます。
けれど、月の軌道まではまだまだ遠いようです。
「月の軌道へはまだ遠いわ。どうしましょう」
地球へきている野うさぎの姿をした月のうさぎが困ったように言います。
「さぁ私たちの背中に乗って」
今度はふくろうたちが階段上になりながら地球へきている野うさぎの姿をした月のうさぎを天高く運んでいきます。
「もう少しよ。もう少しで月の軌道にたどり着くわ」
フクロウたちもぐんぐんと上昇し、月の軌道へ近づいていきます。
が、おかしいのです。
さっきまではっきりと見えていた月の軌道が段々と薄れていくのです。
「月の軌道が薄れていくわ。太陽が昇って来たんだわ!」
そうなのです。
地平線の向こうでは先程まで暗かった空が太陽が昇り始め、空が白んできたのです。
「ふくろうさんお願い急いで!!」
「私達も頑張っているけれど、これがせいいっぱいよ月のうさぎさん」
「そんな困るわ。わたし月に帰れなくなっちゃう。」
「私達も頑張っているわ。でもそろそろ私達も家へ帰らなくちゃ。たかやとんびがやってくるわ」
ふくろうは夜空の鳥ですが、朝が来る頃には巣へと帰らなくてはいけないのです。
そしてたかやとんびといった強い大型の鳥へと空は支配されます。
「頑張ってお願い!!」
「もう、だめよ疲れたわ」
ふくろうは全力で飛んでくれていましたが、とうとう体力の限界です。
段々と月の軌道から離れていきます。
「だめよ。そんな、月の軌道が離れていく!」
地球へきている野うさぎの姿をした月のうさぎは叫びます。
遠のく月の軌道、白んでいく空。消えていく星たち。
地球へ来たことを後悔するほど、月のうさぎは小さな目に涙をうかべます。
「どうしよう」
ポロポロと溢れる涙。
その時です。
月のうさぎの頭にやわらかいものが当たったのです。
「なに?」
見上げると、それは月の軌道から流れて来ているようです。
「おーーーいうさぎさんやーーーい」
遠く聞こえるのはかにさんの声です。
「かにさーーーん!!」
「うさぎさーーーんこれにつかまるんだーーー」
その柔らかくもちもちしたものは月から月のかにがたらしているものでした。
「これは、かにさん、おもちね!」
そうそれは月のうさぎがかににわたした石臼に入っていたお餅だったのです。
「急いでつかまるんだうさぎさーーーん」
「わかったわ!!」
けれどあともう少しが届きません。
一所懸命手を伸ばしていると体がふわりとあがり、バシッとお餅をつかむことが出来たのです。
「ふくろうさん!」
「私達もかっこ悪い姿見せられないからね」
ふくろうは力をふりしぼりぐんぐんと月のうさぎの体を持ち上げます。
落ちないようにお餅を体にまきつけ、月の軌道へとジャンプします。
「せーの!!おりゃ!!」
野うさぎの姿をした月のうさぎはそのたくましい足をバネに月の軌道へと乗ったのです。
「やったー!!!」
「やったぞーー!!」
地上では野うさぎたちが上空ではふくろうたちが嬉しそうに月のうさぎへ手を振ります。
「みんなありがとう!わたし月に帰れるわ!またねーー!!」
月のうさぎも大きく手を振り、お餅を頼りに月の軌道をぴょんぴょんと辿ってい気ます。
こうしているうちにも朝が近づいてきます。
「うさぎさん急いで!!」
「わかってるわかにさん!!」
ぴょんぴょん ぴょんぴょん一生懸命月へむかって走ります。
そして何とか太陽が昇りきる頃、月へたどり着くことができたのです。
「はぁはぁ」
月のうさぎは肩を上下し息を切らします。
「間に合って良かったようさぎさん」
かには嬉しそうにハサミをぱちぱち鳴らします。
「かにさんありがとう。お餅がなければ月の軌道がわからず帰れなくなるところだったわ」
「そうだね。役に立てて嬉しいよ。けどどうしてギリギリだったんだい?いつもは帰ってくるの早いのに」
「みんなと会えた事が嬉しくてあ!そうだったわ!それより大変よかにさん」
月のうさぎはかにへ地球から見える月がかに模様になってしまっていることが人間に気づかれてしまったことをかにへ話します。
「それは大変だ!やっぱり月のうさぎさんがいなくなるのは寂しいし月の模様が変わるのは大変だ。次から地球へいく時は月が新月の時にしよう。そうすれば気づかれない。」
「そうね、そうするわ。こんな思いはもうたくさんよ」
月のうさぎはまたその日から月の模様のうさぎに専念するのでした。
終わり
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