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「エントロピーの増大」にあらがう人間の術

エントロピーの増大」とは何か。

物質は放っておくと乱雑・無秩序・複雑になり、増大して元に戻らない性質がある。そして、どんどん解体してノイズになっていく。「覆水盆に返らず」と言うことわざがあるが、溢れた水が盆に戻ることはないように一方通行の現象なのだ。

例えば、部屋は片付けなければ物がどんどん増えて散らかっていく。古くなれば必要だったものがゴミになる。観たいと思ってテレビ番組を録画したが、再生せずにどんどん溜まっていくと撮ったことを忘れて終いにはハードディスクの容量を圧迫するお荷物となる。身の回りのもの、さらにはこの世界を形成する宇宙も含め万物は根源的に『エントロピーの増大』の法則から逃れられないのである。

しかし、人間には「エントロピーの増大」にあらがう術も備わっている。そのひとつが、人と人がコミュニケーションする「言語」である。コミュケーション学者のヴィレム・フルッサーは著書の中で次のように述べている。

それは、反分解的(反エントロピー)である。獲得した情報を世代から世代へと伝達することが人間のコミュニケーションの本質的な側面であり、それこそが、人間を特徴づけると言ってもよい。人間とは、獲得した情報を蓄積する術を発見した動物なのだ。

『テクノコードの誕生―コミュニケーション学序説』
村上淳一訳、東京大学出版会、1997年

「言語」は、無秩序で肥大化していく情報から規則性を見つけ、相手に必要な情報を抜き出し組み立てアウトプットする。これは、「エントロピーの増大」とは反対の概念「秩序」を生産する行為だ。他にも、「情報」を文字に起こしたり、写真や映像、音楽、絵、デザインなど伝達しやすい形にまとめることができる。

しかし、整理された「情報」も放っておけば増大し散らかってノイズになっていく。全てにおいて「エントロピーの増大」が避けられない法則なら、生産された「情報」がノイズになる前に整理整頓し、次の世代へ伝達していく。それこそが、他の動物とは違う「人間を人間たらしめるゆえん」であり、私たちだけが持つコミュニケーション能力なのではないだろうか。



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