歯医者。

私やらかしました。
入院生活が長く、まともに食事もせず、
食べては、吐いての繰り返しをしてしまい、
生死をさまよい、意識がなかった時期もあり、
私の大事な歯は…弱ってしまってました…。

退院したのは、いいものも、
調子に乗って、硬い肉をかじった瞬間…。

前歯が抜けてしまった…。

近くの歯医者に予約の電話をし、
その間、歯抜けのアホ面で過ごす。

私、自慢じゃないんですが、
歯医者にかかった事なかったんですよ。

かあちゃんの執拗までの、歯磨きの強要で、
何があっても、歯磨きは欠かす事なく、
大事にしてきてたんです。

そんなんで、初めての歯医者。
受付で、体温を測り、必要な問診表に、
色々書いて、その時を待つ。

落ち着けない…。
なんだ!このただのならぬ空気は…。
怖い…機械音が響き渡りならがら、
それにそぐわないオルゴール音の、
メロディーがどこからか流れている…。

手に汗にぎる。
名前を呼ばれ、案内された席に座る。
まずは、マウスウォッシュを渡されて、
30秒ほど、口の中でウゴウゴとすすいで、
吐き出した。

なんだ!これ!口の中が爽やかになった!
うむ…なるほど…これは病みつきになりそう。

すると、声をかけられ、
口の中の状態を確認しますねー!
と椅子が勝手に倒れて微調整される。

おいおい!これは…ハイテクではないか!
びっくりしたぞ!

すると、顔にタオルみたいなモノを、
被せられた口周りだけ、空いてるのだ。

視界がなくなり、
口を開けて下さーい!
と言われ、
痛かったら、左手上げてくださいねー!

そう言うと、歯全体をくまなくチェックされ、
何か暗号の様な声が続く。
左上1Bなんちゃら。

私は、タオルで隠された目に涙を浮かべる。

やだ!なんだ!この拷問は!
もう…やめて…恥ずかしい…チクチク痛い。
私の生きていた経過が歯には残されている。
歯を見れば、私の日常を映し出されているのだ。

そんな事より、前歯の治療だけしてくれ!

チャチャっと、歯を入れてくれ!

そんな私の思惑など、通じず、
全体的に歯槽のう漏と、吐いて胃液が、
歯を溶かしているそうで、わたしの口の中は、
思っていたより、弱っているのだと宣言された。

とりあえず、歯石?をとられ、
若い歯科助手に歯磨きの指導まで、された。

ほとんど、覇気のない返事をしつつ、
レントゲンを、取らされて、口の中に、
生温かい型取りを、入れられて…、
ややしばらくそのまま拷問…。

そして、
軽い仮歯をつけられて、その日は、帰された。

もぉーいやだ!
歯医者なんて、大っ嫌いだ!
ぷんぷん怒って、家路について、ふと思う。

かあちゃんが、執拗に歯磨きを強要していた。

そこに、深い意味を、今回思い知った。

マスク越しで、口の動きもわからない。
しかも目にタオルを置かれたら、何がなんだか、
全くわからない。

私は、耳が聞こえるから、対応できるが、
耳の聞こえない、かあちゃんはどうするんだ?

治療中、話しかけられる事が何度かあった。

だが、耳が聞こえない人はどうしてんだろう。

かあちゃんは、歯医者に行かないのではなく、
行けなかったのかもしれない。

だから、歯磨きの大切さを私に伝えてきてたのだ。

目が見えてたとしても、
マスク越しの、声なんて、わからない。
意思の疎通が出来ないではないか?

あの、機械音すら、補聴器の敵なのだ。

骨伝導というモノがある。

歯もいわゆる骨みたいなもんだ。

もしかしたら、歯を通じて脳に伝導されて、
音とは違う何かを、感じるのかもしれない。

私は、かあちゃんしか知らないが、
耳の聞こえない人は、歯医者さんに、
お世話になる時は、どうしてるのだろう…。

はて?さっぱり、わからない。

私でさえも、大っ嫌いになるぐらいだ。
かあちゃんも、違う意味で嫌いなのだろう。

これは、ややこしい問題だな…。

歯科助手の人怖かったな…。

人付き合い…していかなければ…と、
指導された通りに、歯磨きをしながら、
だらだらと、思うのだ。

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