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基礎の基礎;反射と鍼灸の関係


1. 反射とは何か?

 生体が外部環境からの刺激に即座に応答する現象を反射(reflex)と呼ぶ。反射は、中枢神経系を経由せず、特定の神経回路を介して速やかに生じる。この機能により、外部の危機から身体を防御し、生理的恒常性(ホメオスタシス)を維持する。

 例えば、膝蓋腱反射(patellar reflex)は代表的な脊髄反射の一例であり、膝蓋腱を打診すると大腿四頭筋が収縮し、下腿が伸展する。このような反射は、感覚神経と運動神経がシンプルなループを形成し、極めて短い時間で反応を示す。

 また、熱いものに触れた際に瞬時に手を引く動作も反射であり、侵害刺激(noxious stimulus)に対する防御機構として機能する。

このような即時的な応答がなければ、生体は重大な損傷を受けるリスクが高まる。

2. 自律神経の基礎

自律神経は
交感神経(sympathetic nervous)
副交感神経(parasympathetic nervous )
の2つで構成されている

  • 交感神経は「闘争・逃走反応(fight or flight response)」を担い、ストレス時に心拍数増加や血圧上昇を引き起こす。

  • 副交感神経は「安静・消化(rest and digest)」に関与し、リラックス時の消化機能促進や血圧低下をもたらす。

このバランスが崩れると、自律神経失調症や慢性疾患のリスクが増加する。

3. 鍼灸と反射の関係

鍼灸治療は、反射機構を介して生体の調節機能を活性化する治療法である。特に、局所反射、脊髄反射、上脊髄反射の作用が重要。

  • 局所反射(軸索反射)
    鍼刺激がC線維を活性化し、血管拡張因子(substance PやCGRP)の放出を促し、血流を改善する。この反応は、特に皮膚や筋膜の治療において重要な役割を果たす。

  • 脊髄反射
    脊髄レベルの反射回路を介して筋緊張を調整する。例えば、鍼刺激によるγ運動ニューロンの抑制が、過緊張した筋を緩和することが知られている。

  • 上脊髄反射
    視床や脳幹を経由し、自律神経の調節や内臓機能の調整を行う。特に、迷走神経の刺激による副交感神経優位へのシフトが、消化機能の向上やストレス軽減に寄与する。

例えば、鍼刺激が迷走神経(vagus nerve)を活性化すると、胃腸の蠕動運動が促進されることが報告されている(Langevin et al., 2017)。また、交感神経の過剰興奮を抑制し、副交感神経を優位にすることで、不眠症や高血圧の改善にもつながるとされる(Zhao, 2008)。

4. 反射を活用した鍼灸の臨床応用

反射機構を利用した鍼灸治療は、多岐にわたる疾患の管理に応用される。

  1. 疼痛管理(Pain Management):鍼刺激による内因性オピオイド(endogenous opioid)の分泌促進による鎮痛作用。特に、PAG(中脳水道周囲灰白質)の活性化が関与する。

  2. 自律神経調整(Autonomic Regulation):高血圧や胃腸機能障害の改善。経絡の選択により、交感神経・副交感神経のバランスを調整する。

  3. 筋緊張の調節(Muscle Tension Modulation):肩こりや腰痛の軽減。筋紡錘やゴルジ腱器官の反応を調節し、筋の柔軟性を向上させる。

  4. 免疫機能の向上(Immune Enhancement):炎症の抑制やアレルギー反応の軽減。鍼刺激がサイトカインの調節を促し、免疫系に影響を与える。

これらの作用を最大限に活用するためには、患者の病態を精査し、適切な反射経路を刺激する技術が求められる。


まとめ

  • 反射は生体の恒常性維持に不可欠な神経機構であり、体性反射と自律神経反射に分類される。

  • 自律神経は交感神経と副交感神経から構成され、バランスの崩れが疾患の原因となる。

  • 鍼灸治療は反射を活用し、血流改善、筋緊張緩和、自律神経調整を促す。

  • 疼痛緩和、消化機能の調節、免疫機能向上など、多岐にわたる臨床応用が可能である。

  • 科学的根拠のある研究をもとに、鍼灸の生理学的メカニズムが解明されつつある。

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Miyamoto:博士(スポーツ健康科学)
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