見出し画像

食欲と口渇を弁ずる

前回までの記事はこちら


この章では正虚があった場合の外感病と単純な外感病の鑑別をあげている。
家庭の医学的な感覚でも、風邪を引いた時に食欲があるかどうかを確認する方は多いのではないだろうか?

著者の李東垣はそれをさらに一歩進めてまとめてくれている。また口渇の鑑別では水分補給を一気にしてはいけないことが書かれている。現代の中医学でも口渇は内熱があるかの鑑別に非常に有用であるが、いかに内熱が強くとも急激に過度な水分摂取は控えるべきであろう。


外傷では悪食しないことを弁ずる


現代文

外傷(風寒など外から受けた病)では(患者が)食べることを嫌がらない。しかし、もし労役(過労)・飲食の節度を失うこと(飲食失節)・寒さや暑さの不適切な調整(寒温不適)によって起こる病なら、これら三つはいずれも食べることを嫌がる(悪食)ようになる
 張仲景の『傷寒論』にはこうある――“中風(風邪を中心とする外感)では食べることができ、傷寒(寒邪を中心とする外感)では食べられない。しかし、いずれも口中は調和しており、悪食ではない”と。ところが、労役による傷および飲食失節、寒温不適の三つの場合は、いずれも悪食となり、口は五味を知らず、さらに五穀の味もわからなくなる。この一点だけで、内外の病(内傷か外傷か)、そして有余か不足かの二つの証を区別できるほどである。傷寒の証(寒邪による外感)では食べられはしないが、悪食ではなく、口の中は調和していて五味をわきまえ、穀物の味も理解できる。これは内証(内傷)がない状態なので、心気は和らぎ、脾気は通じ、五穀の味を知ることができるのである。

原文

弁外傷不悪食、若労役、飲食失節、寒温不適、此三者皆悪食。
仲景《傷寒論》云:中風能食、傷寒不能食、二者皆口中和而不悪食。若労役所傷及飲食失節、寒温不適三者、倶悪食、口不知五味、亦不知五穀之味。只此一弁、足以分内外有余不足二証也。傷寒証雖不能食、而不悪食、口中和、知五味、亦知穀味、蓋無内証、則心気和、脾気通、知五穀之味矣。

『内外傷弁惑論』李東垣

渇と不渇を弁ずる


現代文

外から風寒の邪を受けた場合は、(発病して)三日を過ぎたあたりから、(体内の)穀が消耗され、水分も消え、邪気が裏へと伝わり始めて、ようやく渇(のどの渇き)が出現する。一方、内傷を被った者は、普通は渇を感じない。これは、邪気が血脈の中に有余として存在しているからである。ただし、労役や飲食失節による初期の損傷が重い場合は、必ず渇をともなう。それは、心が非常に盛んになり、肺を上から抑え込むために渇が起きるのだ。ここもまた(外感か内傷かを)この点から区別するべきである。たとえ冷水を飲みたがるほどの渇があったとしても、ゆっくり少しずつ与えなければならない。思うままに大量に飲ませてはいけない。水が多く一気に落ちていけば、胃気がいっそう弱り、軽ければ腹が張るだけで済むが、重ければさらに様々な病へと変化していき、何度も悶乱(もんらん)して脈も安定せず、夜になると症状がひどくなって安眠できなくなるかもしれない。そうしたことを前もって十分に考慮しておかねばならない。

原文

外感風寒之邪,三日已外,穀消水去,邪気伝里,始有渇也。内傷飲食失節,労役久病者,必不渇,是邪気在血脈中有余故也。初労役形質,飲食失節,傷之重者,必有渇,以其心火熾,上克于肺金,故渇也。又当以此弁之。雖渇欲飲冷水者,当徐徐少与之,不可縦意而飲,恐水多峻下,則胃気愈弱,軽則為脹,重則伝変諸疾,必反復悶乱,百脈不安,夜加増劇,不得安臥,不可不予度也。

『内外傷弁惑論』李東垣

いいなと思ったら応援しよう!

るかりん
ためになったら投げ銭よろしくおねがいします!