中小企業こそブランディングで輝く!
『小さな会社のはじめてのブランドの教科書』
高橋克典著
ダイヤモンド社/2017年1月26日発行
日本のサラリーマンの7割に向けて
書かれたブランディング入門書
日本にある企業の99.7%が中小企業。
しかも、そこで働く社員の数も全体の約7割。
日本のサラリーマンの多くが、小さな組織に所属している。
本書『小さな会社のはじめてのブランドの教科書』は、
そのタイトルのとおり、
中小企業を対象としたブランディング入門書である。
著者は高橋克典氏。シャルル・ジョルダン、カッシーナ・イクスシー、WMFなど世界の一流ブランドを渡り歩いた経営コンサルタントだ。
この本のターゲットは日本の中小企業を経営する人やそこで働く社員たち。
つまり、日本のサラリーマンの大多数に向けて書かれた書籍だと言える。
中小企業のブランディングの真髄は
「戦わず、金をかけずに儲ける」
彼は冒頭で、
「書店で販売されているマーケティング本の多くは、大企業の成功や理論ばかり」(巻頭i)
と述べ、多くのマーケティングの手法が大企業の発想であると指摘する。
さらに「どこかハンバーガーの匂いがします」(巻頭ii)と形容するように、
ブランディング手法やマーケティング手法のほとんどが
アメリカで広まったものゆえ、
大量生産と効率偏重を前提とした理論になっているという。
しかし、こうした理論を自社の事業に生かそうと思っても、
資金力や組織力、商品開発力に雲泥の差がある中小企業には、
とうてい真似できない戦略なのではないのだろうか。
こうした問題意識から生まれたのが本書なのだ。
ところで、彼の「ブランディングとは何か」に対する答えは明瞭だ。
それは、「値引きをせずに高く売れるように」(巻頭vi)すること。
もっと簡単に言えば、「もっと儲けるため」(P.2)の手段だという。
実にシンプルでわかりやすい。
そして、中小企業のブランディングとは、
“大企業やライバルと戦うことなく、
お金をかけずに今以上に儲けること“
だと定義している。
戦わずして勝つ。
お金や労力をかけずに儲ける。
そんな夢のような状態に持っていく力がブランディングにはあり、
それを実現するためのヒントがこの本には書かれているのである。
尖らせよ!ニッチを狙え!など、
“中小企業専用”の手法をわかりやすく解説
高橋氏は中小企業がブランディングに成功するためのコツを3つ挙げている。
(1)ひとまず顧客の顔を忘れる
(2)ひとまず競合他社を忘れる
(3)ニッチのなかにリッチがある
個々の詳細についてはぜひ本書を手にとって確かめていただきたいが、
様々な切り口から“中小企業専用”の手法をひも解き、
具体的な事例も交えながらわかりやすく紹介してくれる。
たとえば、1982年に東京・白金にオープンしたチョコレート店「ショコラティエ・エリカ」は、他店へは一切商品を卸さず、自店でのみ製造販売をしている。しかも、気温が高くてチョコレート作りに適さない8月は丸一ヶ月間休みにしてしまう。
普通に考えると販路をさらに開拓し、8月も設備を工夫して営業したほうが売上アップにつながりそうだが、高橋氏は「そのこだわりこそ、長くファンが不便な場所までわざわざ通い続けている理由」(P.169)だと指摘。
他とは違う製法、味、外見、使用、少ない生産量や商品点数、短い営業時間、長いリードタイム、競合ブランドの倍の値段、販売ルートの限定、値引きをしない、変わった社長、特徴のある営業マン などなど……。
このような他にはない尖った特徴は、消費者の脳裏や心に引っかかり、
自然にブランド化していくということだ。
また、中小企業に多いOEM(下請け生産)事業における
ブランディングの方法を解説している点も本書の読みどころだ。
たとえば、
「できるだけニッチな部品を手がけるとスイッチングコストが高くなり、発注元はおいそれとメーカーを替えられなくなる」(P.72)
というポジショニング戦略にはじまり、
「どんなにある発注元から利益を得ていても、一社からの売上げや利益率を全体の50%以上にしてはいけません。(中略)でなければ、あなたの会社の粗利率はいずれ筒抜けになってしまいます。そうすると、発注元は、再び値切り交渉を仕かけてくるかもしれません」(P.72)といったより具体的なアドバイスまで、
OEMを生業とする企業なら知っておくべきブランディングのコツが網羅されているのだ。
そして、イタリアでOEMを専門とする家族経営のシャツ工場や、
フランスの名だたる高級系商品ブランドのOEMを生業とする100人規模の会社など、海外を渡り歩いてきた著者ならではの、「小さなOEM企業の勝ち方」の成功事例も一読に値する。
ブランディングは、もしかするとまだ日本では、
大企業が莫大な資金を投じて行う戦略というイメージが強いかもしれない。
しかし、この書籍に書かれていることが示している事実は、
「ブランディングは巨額を投じないとできないもの、とは限らない」
「ブランディングは大企業だけでなく、中小企業にも役立つ」
ということ。いや、著者の言葉を借りるならば、
「中小企業こそブランディングに適している」(巻頭vi)のだ。