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ヒトとバナナは50%似ている説の真相
??【 私たちは遺伝子の50%をバナナと共有している 】??
主にインターネット上の簡素にまとまった記事で、出まわっている俗説の1つである。
「人間 バナナ」日本語でググると出る簡易問答がおもしろい。「人とバナナは同じですか?」勢いがあっていい。嫌いじゃない。笑
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今回は、この真相を書いていく。
実は、このネタ元は、スミソニアの自然史博物館の教育映像『The Animated Genome』である。
内容の主旨は、「ヒトとバナナは41%似ている」というものだ。
博物館に流す解説を作るために(おそらくその目的ありきで)、2013年、国立ヒトゲノム研究所が行った調査があった。遺伝学者のローレンス・ブロディ氏が主導した。
話を進める前に。まず、これらを理解してほしい。そんなことわかっているという人は、読みとばして。
「DNA」「遺伝子」「遺伝子産物」
DNA:物質。DNAには、遺伝情報をもっている部分ともっていない部分がある。
遺伝子:情報。DNAの一部分で、遺伝情報のある領域とも言える。
遺伝子 → 建築物の設計図
遺伝子産物 → 建築物
ヒトの遺伝子を学校の設計図、バナナの遺伝子をアパートの設計図、とでも考えてほしい。ドア・ろう下・靴の収納・給食室/キッチン……設計図に多くの似ているものがあっても、実際にできあがる建物は、大きく異なる。
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バナナからチンパンジーまで、人間とそれ以外のあらゆる存在において、上記のような感じなのだ。
動物と植物で共通の祖先がいる。約16億年前の単細胞生物だ。
ヒトがバナナと共有している遺伝子は、その祖先に存在するもの。全ての動物や植物に、受け継がれているもの。
「みんな」が同じ遺伝子を受け継いでいる理由は、それが細胞の基本的なプロセスに関わるものだからだ。たとえば、エネルギーを作ったり・傷を修復したりすることは、「みんな」に必要なことだ。
先ほどの話を進める。
行われた調査
・バナナの遺伝子配列を調べた。
・そこから作られるであろうタンパク質のアミノ酸配列を予測した。
・ヒトの遺伝子についても同じ作業をした。
・バナナ遺伝子から得られたタンパク質配列とヒト遺伝子から得られたタンパク質配列とを比較した。
・前者と後者がどのくらい似ているか調べた。
・類似のものがあればカウントした。
結果
41%という数字は、このようなヒトとバナナのタンパク質配列間のブラスト検索から、得られたもの。約7,000の “ヒット” が見つかり、その平均同一性(類似度スコア)が、41%だったのだ。
要するに。遺伝子ではなく遺伝子産物(タンパク質)間の、しかも平均類似度だ。
ヒトとバナナの「DNAの類似性」という言葉が出まわっているが。正しくは、ヒトとバナナの「遺伝子産物であるタンパク質配列の類似性」なのだ。
先ほども書いたが。今一度。
ヒトが生きるためにすることと、バナナが生きるためにすることについて、考える。
両者に同じようなことは複数ある。それらに関係する遺伝子は、生命の根幹に関係する遺伝子だ。
私たちとバナナやジャガイモには、共通点がある。それは事実だ。
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雪深い山に生育する。水分で花びらが透けて見える。本文に特に関係はない。私の好きな花というだけ。
“ 私は私の好きな花なの ”
ここからが重要な話なのだが。
遺伝子はDNAの2%しか占めていない。では、DNAの残り98%は何なのか。
8% → 遺伝子を制御しているもの
90% → 未知の機能や進化の過程で失われた機能
その9割の中には、「ジャンク」などと呼ばれ、軽視されてきたものもある。軽視される一番の理由は、よくわからないことである。わかったものよりもわからないものを軽視する。そうせざるを得ない。当然と言えば当然なのだが。
タンパク質をコードする遺伝子
非コード遺伝子
トランスポーザブル・エレメント
非コード遺伝子:遺伝情報がコードされておらず、タンパク質がつくられる前に削除されるDNA配列
トランスポーザブル・エレメント:ゲノム上のある場所から、別の場所に移動するDNA配列( ジャンピング遺伝子とも呼ばれる)
これらはそれぞれ異なる速度で進化するため、保存される度あいが違う。※保存 = 自然淘汰の中で、ある配列が維持されること。
遺伝子という情報は、タンパク質という物質をコードする。タンパク質は、遺伝暗号の冗長性により、DNAという物質よりも進化や変化が遅い。
よって、タンパク質とは、最も保存されやすいゲノム上の特徴なのだ。つまり、進化的に離れた種間でも、保存されやすいのである。
そろそろ、カラクリが見えてきそうだ。
非コード遺伝子のような他のゲノム上の特徴も、保存される可能性はあるが。その可能性は、タンパク質よりはるかに低い。
トランスポーザブル・エレメントに存在するジャンクと呼ばれるものなどは、保存される可能性がさらに低い。
このように。遺伝子の中には、進化的に遠く離れた種間でも共有されている、もしくは、されていないかもしれないのに、現在の相同性推論の影に隠れてしまうものがある。
ヒトとバナナの似ている度あいが研究された時も、検出可能な配列保存にのみ注目していた。
私の指摘したいことをハッキリさせる。
似ているものも似ていないものも、似ているように見える。そういう調べ方をしたよね。バナナをピックアップした必要など、エンタメ理由以外になかったよね。と、こう言いたいのである。
私たちは皆、根源的に似ている。プロはその意味をよく理解しているよね。と、こうも言いたい。
専門家によって行われた研究だ。立派な博物館で使われている資料だ。みんなが信頼して耳を傾けるだろう。
ヒトとバナナ50%も似ているーーこの耳目を集めやすいタイトルをつけるのに、できるだけ “寛容” な結果を集めて出来あがったもの。
大勢が信頼しているものの中には、残念ながら、そういうものが存在するのだ。これはその一例にすぎない。
人々が真実を好むとは限らない。正確でなくともおもしろければいいとされる時は、多々ある。そういうものは儲かりやすいしね。