【蒸留日記 vol.94】ドイツトウヒ蒸留に再々戦を挑む!
さーてさてこんちわこんちわ。蒸留家のエフゲニーマエダでっす。
先週にレア蒸留素材であるトウヒ属アカエゾマツ(P. glehnii)の抽出率を確かめる"出張蒸留"を実施してきました。ブログ記事にするとやや大型の企画になったので記事を前編後編の2本に分けています。
不測の大雪にも見舞われましたが、はるばるニセコ方面へ蒸留設備とともにドライブいってきました!
さてさて今回!
先週離れた地でアカエゾマツを久々に蒸留してきたのですが、恵まれた事にわが地元にはアカエゾマツとはまた別のトウヒ属樹木がたくさん生えているんです。
そうです、鉄道林や防風林で有名なドイツトウヒ(Picea abies)です!
ドイツというからには完全なるヨーロッパ原産の針葉樹ですね。
エフゲニーマエダとしては、ラベンダーとともに北海道でヨーロッパの香りが作り出せるのは天国にも代えられないほどいい土地環境だぁ!と感銘しています。
アカエゾマツの次ということもあり、同属植物のドイツトウヒ相手に新しいメソッドで蒸留に挑戦してみます!
今回蒸留素材とするドイツトウヒ、過去2度の蒸留にて精油の採れる量めっちゃ少ない!事はわかったのですが、「収油率」を出せていませんでした。
なので今回収油率の算出を目的に3度目の蒸留に挑もうと思いついたワケです。
■Picea abies/ヨーロッパトウヒ/ドイツトウヒ
英語圏ではノルウェースプルースやドイツトウヒとも言われる、ヨーロッパの寒冷地の景色を代表するトウヒ属樹木。
ここ北海道では開拓の歴史とともに欧米各地の針葉樹が試験的にたくさん植えられた時期があり、ドイツトウヒもその名残として歴史深い街などに大木が各所に植えられています。
現在は造材目的で精力的に植樹されてはいないためか、植えられているドイツトウヒのほとんどが大木となっているのが見受けられます。
ドイツの黒い森
ドイツではかの有名な「黒い森-シュバルツバルト」を構成しているのが、まさしくこのドイツトウヒ(Picea abies)。
後述しますが、大木になると枝葉がカーテンを下ろすように枝垂れる特性を持っているため林内にひときわ濃い影を落としやすく、それが「黒い森」の由来となっているようです。
フランスの高山植物調理レシピ本にも登場
ラベンダー情報を調べる目的で持っているフランスの高山植物の調理レシピ図鑑にしっかりドイツトウヒが載ってました!いや食えるんかい!
フランスの現地語ではL'epicea/エピセアと呼ぶらしいです。
ラベンダーと生息域が近いアルプス山脈の南端部がPicea abiesの南限となっていて、南フランスにもドイツトウヒが存在していることになっています。
主にフランスとイタリアの国境沿いに生育している、というイメージでしょうか。
そういえばイタリアには最高級バイオリン用の針葉樹林がありますね。
精油はフィヒテ-Fichtennadelと呼ばれる
本場ヨーロッパ圏にてこのドイツトウヒの精油が流通していないかPicea abies Essential oilで調べてみると"フィヒテ"という名称で流通していることがわかりました。
どうやらドイツの現地語名称のようです。
しかしながら精油販売のドイツ大手が日本国内に販売しているものを除けば、日本のアロマ・精油市場ではドイツトウヒ/フィヒテ精油はかなり少なく、レアな部類の精油になるようです。
■素材調達!/Materials
さて。ウチの近所の大昔に炭鉱関係の施設があったとされる野原にやってきました。
ここをひたすら雪中行軍すると、何本か大きなドイツトウヒの木がそびえています。
ですが下枝が垂れていないことには手が届かないので枝葉の採取ができませぬ。。。
みえてきました。
まさに巨人に思える荘厳なたたずまいのドイツトウヒ。
北海道に生育するアカエゾマツ(P. glehnii)やクロエゾマツ(P. jezoensis)と違って枝葉が異様に長く伸びるため、ある程度の樹齢のドイツトウヒは下枝が重そうに枝垂れる特徴があります。
手の届く範囲に雪と葉っぱの重みで垂れ下がる下枝を発見。
全てをもぎ取らず、数年後には日照不足で枯れ落ちてしまうような古い枝葉をもらっていきます。持続的な考え方大事!!
先週行ったアカエゾマツとは植物のサイズ/スケールが異なっているので数本の枝葉だけでも数キロほどの重さになっています。
本数ではなく重量計算でまぁまぁ確保できればGoodです!
■蒸留前処理!/Method
枝葉の粉砕処理
さて、今回のドイツトウヒは3回目。
先にアカエゾマツにて新処理方法による収油率の向上を達成できているので、さらに収油率が低いであろうドイツトウヒにも粉砕処理を応用してみます!
というワケで、収穫してきたドイツトウヒの枝葉をガーデンシュレッダーにて短時間でこれでもかといわんばかりに粉砕加工しました。
ドイツトウヒでも問題なく粉砕処理できたようです。
素材の重量計測
あらら、5000g MAXの計量器を振り切ってしまいました。。。
なので2分割して総量を計測します。
まず4500g分(バケツ重量込)
そして残り1548g(バケツ重量込)
そしてバケツ重量、855g。
全重量6048gからバケツ重量855gマイナスすることで素材重量5,193グラムが算出できました!
なので今回蒸留して精油を取り出すドイツトウヒ枝葉の総重量は5,193gとなります。
■いざ蒸留!
蒸留釜に素材を充填した際のショット。
ガーデンシュレッダーの構造上、柔らかい針葉はそこまで細切れにはできませんが、硬い木部の枝はチップ状に破砕されています。
エフゲニーマエダとしては、枝じゃなく針葉を細かくする処理方法を見つけたいんですけどねー。海外webページ読むかぁ〜。
今回の蒸留では蒸留時間を従来よりも短い1時間30分としました。
いつもだと2時間プラスα程度の長尺蒸留としていましたが、スーッとする香りの品質を落とさないよう考慮しつつ、いつもより火力を落として1時間30分という時間設定にしました。
■蒸留結果は…!?
やっぱり北海道に存在する針葉樹の中でドイツトウヒは精油の収量が低めである、ということは変わらなさそうな蒸留結果となりました、、、w
ただ粉砕処理を行っているので時間当たりの作業コスト/労力は大幅にカットできていて、ここは評価できる大きなポイントでしょう!
精油を10mLバイアルに移して詳しくミリ数を測ってみました。
ちょうど半分の位置に液面がきたので抽出結果は5mLといえるでしょう!
ではお待ちかねの北海道育ちドイツトウヒの精油収油率の計算にいきましょう。。。
1.収油率
ひっさびさに0.1%を切る数値をみたのは久々ですね…確か香りの強いドクダミあたりも精油抽出率がめっきり低かったような気がしています。
といっても松ヤニを出す針葉樹なのにかーなり精油抽出率が低いですね…ドイツトウヒは本格的にヘルシーな針葉樹なのかもしれません。
2.香りとか
Waiting soon…
■実は、後日にも再度蒸留を実施していた。
はい。1回だけの結果じゃ信頼性が乏しいので、同じ処理・蒸留方法をもう一度試していました!
まぁダブルチェックは研究者として当然の行いだったりします。
後日パートでの蒸留素材の重量は4,440グラムとなりました。
前日の素材量より753グラム少ない素材量での蒸留となります。
あらかじめ、バケツ重量を抜いて純粋な材料重量のみの計測としています。
ちなみにですが、枝葉を採取したドイツトウヒの木は前日の木とは異なる木から採ってきています。
蒸留時間は前日・1回目と同様の1時間30分としています。
さてさての蒸留結果。
素材重量が前日パートより753g少なかったハズなんですが、微妙に抽出量が多めですね?明らかにバイアルの半分量を超える5.5mLほどとなっています。
【収油率】
●収油率の違いの考察
ひとつ思い当たる違いがあります。
蒸留1回目のために採った枝素材は、あと数年で枯れ落ちてしまうような日陰側の古い枝葉を多く採集しました。
対して蒸留2回目では別の日当たりの良い場所に生えるドイツトウヒで、わりと新しいと思われる枝葉を素材に用いていました。
この枝葉ができた経年数による鮮度の違いが、収油率の違いを生み出していると考えられました。
基本的に針葉樹(常緑)の葉っぱ寿命は最低でも5年は樹上に残り続けるとされています。