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【Part-2】ブルガリアのラベンダー研究論文2本のデータを使って、英国品種ラベンダーとフランス品種ラベンダーのオイル組成特徴をむりっっっくり探る試み!

さて前回記事Part-1では、最終的にエステル価ともいわれる各品種のリナロールおよび酢酸リナリル合計値(青色)を表示し、品種ごとに連年平均値も出して終えていました。

前回Part-1にて2つの論文の結果図表から作成した図表

これですね。
棒状グラフの上に表記している青色の数値が、各品種の分析データが示すリナロールと酢酸リナリルを足し合わせた値になっています。
精油成分100%中におけるリナロール&酢酸リナリルの数値というワケです。百分率。

各品種ごとLI/LA ratioのAVE.で出すと
🇫🇷ヘムス→75.6%
🇫🇷カルロヴォ→71.3%
🇫🇷ラヤ→68.8%
🇬🇧ドルジュバ→67.5%
🇬🇧ユビレイナ→60.5%
🇬🇧ヘバール→64.0%
🇬🇧セブトポリス→58.5%

6カ年分ほどある各品種のLI/LA ratioを平均値表示すると、各品種このようにもなりました。
フランス品種血統群はLI/LA ratio ≒エステル価がどの品種も高く出て、英国品種血統群は低めに出る、ということがわかりました。
ここまでハッキリ個性が出るのはおもしろいですよね。市民研究家エフゲニーマエダ自身驚きました。

本稿では、さらに切り込んで分析できる面をさらに調べていきます。


ラベンダー精油のまろやかな風味を形作るLI/LA ratio以外の数値を確かめる!

ハーブ系精油の中でも不動の人気高さを誇るラベンダーの美しい香りは、単純にリナロールと酢酸リナリル2種類の芳香成分だけが高ければ高いほど(割合多いほど)良い香りになるか?というとそうでもないのです。

ラベンダー精油の心身ともに癒される魅惑的な香りは、リナロール&酢酸リナリル以外の芳香成分の絶妙な含量バランスによっても決定されます。

ラベンダー精油はリナロールと酢酸リナリルだけで構成されているワケではないことを示す分析データ

別の分析データ図表で表すと、高く伸びるリナロールおよび酢酸リナリルの値(紫色)以外にたくさんのちょこちょこと表示される箇所がほかの芳香成分が、上図で示している差分数値の検出されている部分です。
ラベンダー精油にまろやかさ、香りの幅・太さ、濃厚な甘さ、雑味などを与えている芳香成分ですね。
それこそがラベンダー精油の香りを決して単純なものにはしない重要な要因となっているのです。

というわけで、リナロール&酢酸リナリル以外の微量芳香成分らは非常に数が多いのですが、LI/LA ratioの対極値・つまり差分数値を求めれば単純にその微量芳香成分の総量が分かるわけです!

リナロールおよび酢酸リナリル合計値:LI/LA ratioの上にそれ以外の芳香分子の含有量を表記

ということで、単純に引き算して差分数値を出してみたのがコチラ。
青色数値の上に表記した赤茶色の数値がラベンダー精油中に含まれる、リナロールと酢酸リナリル以外の芳香分子の含有量を示す数値です。
単純に、エステル価とも評価されるLI/LA ratioからの、差分数値がそれにあたります。

つまるところ、この赤茶色表示したリナロール&酢酸リナリル以外の芳香分子の含有数値(割合)が、つまるところのラベンダー精油にまろやかさ・風味へ含みを与えている主要因だと推測できます。

遺伝子クラスター図に数値を併記してみる。

さてさて、データいじいじする図表を一旦巻き戻します。

各品種リナロールと酢酸リナリルの棒グラフ値を表示した図ではなく、別論文の遺伝子が近いごとにクラスタリングした品種ごと遺伝解析した図です。

英国品種寄りの品種群から得られる精油は総じてエステル価が低く、
よりまろやかな香りを持っていることが示唆された。
品種群FVは英国品種なので精油成分調査がされていない。

その図表に対し、エステル価(青色)およびそれ以外の微量芳香分子の総量(赤茶色)を表示したものです。
こうしてみると、フランス血統品種群イギリス血統品種群の特徴が互いに混じり合うことなくハッキリと見て取れますね!

真ん中は日本のラベンダー苗木市場でもみられる代表的な英国品種らです。クラスター系統樹の枝の近さが、英国品種らとブルガリアの第二系統群と近しいことを示しています。

踏まえておきたい注釈事項というのが、この図表記載元の論文は、決してラベンダーエッセンシャルオイルの成分別に結果をクラスタリングしたワケではなく、遺伝子の近さ=距離/似た者どうしでグルーピングしている事です。

その遺伝的な差異に、精油成分中のたった特徴的な成分3つがここまで沿って出てくることにはかなり驚いています。。。
すなわちで、遺伝距離は精油成分(とその差異、個性)という部分とも強い相関がみられる遺伝子表現型:形質としてみることができるというワケなんですね。
いやーこれ立派な研究材料になりますよ!

他の品種の詳しいGC-MSデータ付き論文引っ張ってくる、傾向比較!

品種'Hemus'

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13102818.2023.2288929#d1e209

Lavandula angustifolia Mill var. Hemusの花におけるリナロールとリナリル酢酸の比率を制御する QTLの同定(2023)

こちらはブルガリア品種の中でも最も高エステル価を叩き出している品種'Hemus'の複数株に対してLI/LA値を算出(Table 1.)している遺伝子解析の論文。
LI/LA値だけをみると、76.98%, 73.41%, 74.77%, 76.84%, 69.73%, 81.70%, 56.31%, 63.37%, 66.87%となっています。AVE.:71.10%)
この論文での品種'Hemus'の平均エステル価は71.1%となりました。

品種'Karlovo'

(未発見)

品種'Raya'

(未発見)

品種'Druzhba'

(未発見)

品種'Yubileina'

(未発見)

品種'Hebar'

(未発見)

品種'Sevtopolis'

(未発見)

トルコでブルガリア品種を栽培した場合!

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0926669018302097?via%3Dihub

西アナトリア産ラベンダーとラバンジンの8品種の精油組成と抗酸化活性(2018)

この論文では、ブルガリア品種をトルコ国内の乾燥地で栽培した場合の精油成分が分析されていました!

🇫🇷ヘムス→75.6% (Bulgaria)                       ヘムス→76.24% (Turcy)
🇫🇷カルロヴォ→71.3% (Bulgaria)                       カルロヴォ→データ無し
🇫🇷ラヤ→68.8% (Bulgaria)                                                       ラヤ→69.41% (Turcy)
🇬🇧ドルジュバ→67.5% (Bulgaria)                 ドルジュバ→68.41% (Turcy)
🇬🇧ユビレイナ→60.5% (Bulgaria)               ユビレイナ→59.56% (Turcy)
🇬🇧ヘバール→64.0% (Bulgaria)                  ヘバール→74.37% (Turcy)
🇬🇧セブトポリス→58.5% (Bulgaria)          セブトポリス→60.22% (Turcy)

注釈として、トルコでの分析データは連年平均値ではなく1ヶ年分のみの精油データであり、その年の気候特徴に大きく数値的影響を受けてるとみられるので、信頼性は大きく欠くものと評価されます。(ブルガリアは6ヶ年分)

以上を踏まえたうえで、品種'ヘバール'が乱打者という印象をもつ以外は、異なる地域であっても概ね仏産および英国クラスタの遺伝的特性に準じていることがわかります。やはり品種特性侮るべからず!という印象ですね。

英国血統の考察!

素人が調べられる範囲(論文掲載サイトの検索エンジンサーチ)では、イギリス国内・ブリテン島で栽培されたラベンダーの精油成分についての文献やデータを見つけることができていませんでした。

ラベンダー植物の商業製品化と俗名:イングリッシュラベンダーの文化発祥地であり、文学的推察では1600年代までにブリテン島へ移入されてからは現地で世代交代を繰り返し現地気候風土に順化した特性を色濃く持っているとされる英国産ラベンダー品種は、日本国の園芸市場においても数多くの英国品種ラベンダー苗が流通しているため、日本国内においてのラベンダー精油産業再興を目指した有用品種の選抜を目的に、英国品種の精油成分とその品種特性を特定することは重要な分析課題でした。

そこで、現在ブルガリアにおけるラベンダー精油生産用の品種群の中での英国品種の血統を持つブルガリア品種のラベンダー精油成分を他遺伝系統群と片っ端から比較するというメタ分析手法を用いて、ブルガリア国内で主に精油生産用に栽培されるコモンラベンダー品種群を英仏双方に分けて分析することで英国品種特有の精油成分の固有特性なるものを見いだすことができました。

5.Part-3は英国品種群の精油成分をワールドワイド視野に切り替えて調べてみる。

さて、ウクライナ国内の各ラベンダー品種の精油成分を分析している論文では、園芸市場で多く流通する英国品種は研究対象として扱われていません。

そこで、調査対象論文をブルガリア国外に拡大し、ウクライナをはじめアメリカやオーストラリアなど世界各国での英国品種「マンステッド」「ロゼア」「メリッサライラック」「ヒドコート」の精油組成の分析例を探索します。

それら純英国品種ブルガリア国内品種における英国血統群との精油成分の類似比較をもって、このメタ分析手法における「英国品種の精油成分の特徴」を決定したいと考えております。

〜関連記事リンク〜

367139081_Comparison_between_the_Chemical_Composition_of_Essential_Oil_from_Commercial_Products_and_Biocultivated_Lavandula_angustifolia_Mill

市販製品と有機栽培Lavandula angustifoliaのエッセンシャルオイルの化学組成の比較(2023)


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エフゲニーマエダ(平成林業。)
若い人がどんどん減る地元【三笠市】もついに人口7000人台目前。 朝カフェやイベントスペースを兼ねたラベンダー園で今いる住民を楽しませ、雇用も生み出したい。そして「住みよい」を発信し移住者を増やして賑やかさを。そんな支援を募っています。 畑の取得、オイル蒸留器などに充てます。