【蒸留日記 vol.98】戴いた青森ヒバ葉っぱを蒸留する!
おいっすお久しぶりですこんちわこんちわ。
野草蒸留家のエフゲニーマエダでっす!
「暖冬」と言われた今シーズン(23-24年冬春)ですが、最近は3月も半ばに差し掛かってるというのに乾いた雪がチラチラ降るような寒い日が続いてますね。
昨日東京では2度目のまとまった積雪があったというし、今シーズンの岩見沢エリアでもドカ雪こそ無かったもののちゃんと寒いので、そんな一気に溶けて減るということもなくちゃんと冬が冬演じてるといった感じですね。
「暖冬」というと雪の降り積もるエリアが例年より変わるといったイメージを抱きつつある昨今です。
さてさて!!
ギリvol.100に届かない昨今の蒸留ですが、前回はご縁&協力あって本州(西日本)育ちのヒノキリーフを蒸留させていただきました。
なんならせっかくなので本州針葉樹素材を蒸留してみようか!ということで、お次は東北を代表する青森ヒバを蒸留素材としてチョイスしました!
実は青森ヒバ、北海道にも生えてるには生えてるんですけど生育地が函館エリアなのでエラい遠いんです。
青森に大学時代の先輩がおり、そちらツテを頼るほうが早かったので素直に青森県産の蒸留素材を扱うことにしました!笑
ではいきましょう!
■青森ヒバの簡単なプロフィール!
北海道人のおいらからすると「青森ヒバ」or「ヒバ」呼びがポピュラーな呼び名なんですが、植物分類学の世界では「ヒノキアスナロ」と呼ぶのが正しい名称のようです。
林業業界においてはヒノキ材に次ぐ主要な木材ですよね。
ヒノキに比べて芳醇でThe和室!を思わせる良い香りがする木材を切り出せます。
植物分類学の世界では、実は日本にヒバは2種おり、①本州&西日本に生育する種と②北方・日本海側に育つ種とで分かれているんです。
かくいう青森ヒバ/ヒノキアスナロの学名はThujopsis dolabrata var. hondaeで、本州&西日本に生育するアスナロ/ヒバ(Thujopsis dolabrata var. dolabrata)の北方変種という扱いになります!
学名var. hondaeの方が北海道にも生える北方変種と覚えておいてください。このアスナロ北方変種がいわゆる青森ヒバ/ヒノキアスナロになります。
木曽五木の「アスナロ、サワラ、ヒノキ、ネズコ、コウヤマキ」に数えられるアスナロは本稿で扱うヒノキアスナロ(青森ヒバ)ではなく、本州&西日本に生育するアスナロ/ヒバ(Thujopsis dolabrata var. dolabrata)となることにも注目です。
青森ヒバの分類学
青森ヒバもといヒバ/アスナロの学名はThujopsis dolabrataであり、察しのいい方はふと気付くでしょうが、元々はThuja/クロベ属に含められていたようです。(ネズコや北米産のニオイヒバ、レッドシダーなどが属す)
しかし精油にツヨンを含まなかったなどの理由で”Thujaっぽいもの”という意味になるThuhopsis/ツヨプシスの属名が割り当てられ、別属植物として扱うようになったようです。分類者は確か牧野先生だったかな。
北海道に自生する唯一のヒノキ科植物としても
青森ヒバと呼ぶと"エゾマツ"などのように青森県固有の針葉樹に思えてしまいますが、、、
実はヒノキアスナロ(Thujopsis dolabrata var. hondae)は本州のヒノキを差し置いて北海道にも自生してるんです!
いわゆる"ブラキストンライン"と呼ばれる、生物の大きな棲み分けラインとなっている津軽海峡を跨いで本州と北海道南部の渡島半島にこのアスナロ北方変種であるヒノキアスナロが生育しているんです。
松前藩が青森ヒバの植林を行っていたとも聞きますね。
スギやヒノキ、我らがトドマツは津軽海峡を渡れなかったようです。
ちなみにで触れておくのですが、なぜヒノキアスナロは"青森ヒバ"と地名が付いているのかというと、歴史は古く江戸時代から藩政による森林管理でヒバを資源的に守ってきたからなのだそう。
長大な歴史がなし遂げた地域おこしの成功例ですね!
地域ごとの名前がめちゃくちゃあり大混乱
「ヒバ」と通称呼びしたいところなんですが、上記通り分類学での正しくの名前はヒノキアスナロでした。
これと同じ植物を表す別名称としてヒバ(青森ヒバ)、アスヒ、アテ、、、
方言のような感覚で地域により呼ばれる和名も実にさまざま存在しているんです。北海道南部、青森、東北、能登などでそれぞれ異なる…
それがわりと現在も続いているので、地域によって呼び方を変えねば別種の植物と取り違えられる可能性があるという混乱っぷりをはらんでいます。
そういう意味では学名(Scientific Name)ってホント便利で革新的な仕組みなんですよね。
■材料&蒸留準備!
青森県から届いたので、正真正銘の青森ヒバです!
道南・桧山地方育ちのヒノキアスナロではなく、青森県ご当地産ということになります。
さてさてヒノキのお仲間樹木さん、ご開帳・・・
わたくしエフゲニーマエダはヒバの葉っぱを見て触れるのはこれが人生初めてとなります。本当に初めて見る植物の葉っぱなんですよ。
初めて見たヒバの葉っぱを見た感想は「思いほのかヒノキに似てなくて、爬虫類のウロコに似たジュラシックな見た目…」という感想を抱きました!
葉っぱが意外と平たいのでコノテガシワとかシダの葉っぱを思わせるような姿をしてます。
この時点ではまだヒバ木材と精油の特徴的なウッディーアロマは香ってきません。さて蒸留のためにまずは素材処理・刻んでいきます。
ヒバの葉っぱのなんと言っても興味を唆られるおもしろいところが、葉っぱウラを真っ白く染める気孔帯のコントラストなんですよ!
ヒノキ科植物において、見分けに困ったら葉っぱウラを観察せよというのがありますがこのヒバはなんと言っても芸術的なまでの裏表の明暗差!
実に人間の目を楽しませてくれる奇特なデザインをしてますホント。。。
あまりに美しい見た目なのでもういっちょ!!!
20〜30分ほどかけて青森ヒバの葉っぱを刻み込みました。
前回vol.97ヒノキリーフと同様の条件で蒸留するため、素材重量1.5kgを目指して刻んでいます。
この刻んでいる最中の香りなんですが、青っ葉を刻んでるがごとく青臭いんですよね。
これといってヒバの香りやヒノキ葉のようなシトラスな香りはしませんでした。
はい、青森ヒバの葉っぱを1500グラム処理完了です。
いよいよ蒸留器にぶっこんで精油をとっていきます…!
■いざ蒸留!
ヒノキと同じ科の近縁植物なので、蒸留時間や蒸留素材量は前回のヒノキ葉蒸留と条件を揃えて抽出率を調べてみることにしました!
素材量→1500g
蒸留時間→2h30min
といった蒸留条件で挑みます!
蒸留釜を閉じる直前の青森ヒバ葉っぱのようす。
大きい葉っぱの根元はやや木質化した部分もあり、抽出される精油にヒバ精油の香りもつくのかな〜とやんわり期待。
ヒバの木材精油はヒノキチオールを含むので実に心地の良い香りがするんです。
■蒸留結果は…!?
まず1時間後のオイルセパレータのようす。
素材を刻んで細かくしているとはいえ、やはりドカッとオイルが採れるワケではなくヒノキ葉っぱと同様にジリジリと抽出されるようです。
精油の色も初めからうっすら黄色く色づいていました!
まず0~2h30minでの抽出結果。
まず軽い芳香分子が主体となっているであろう蒸留時間前半パートでの抽出結果。
1時間の時点に比べてやや増えた、といった具合でやはりドカッとは増えていないようですね。
10mLバイアルに収まる抽出量でした。
だいたい7.5mLぐらいの抽出ですかね?コレは前半抽出分としてこのままよけておきます。
続いて2h30min~5hでの抽出結果。
抽出量は前半に比べてやはりいくらかペースが落ちているようです。
この時点で計5時間の蒸留となっています。
黄色味もやや増しているような感じがします。
蒸留後半(2h30min~)での抽出量は5mL以下であるようだったので5mLバイアルに収めてみました。
どうやら抽出量は3.7mLぐらいでしょうか。
蒸留時間5時間分で合計して計量すると、得られた精油は11.2mLでした!
1.収油率。
再検証分(5時間通して蒸留)
2.香りとか。
青森ヒバ葉っぱの蒸留をいざ試してみると、おもしろい精油の香りの変化があったので記録します。
【蒸留前半パート(Start~2h30min)で得られた精油の香り】
強く生草のような青っぽい、野生っぽさをイメージする香りがあります。
これは葉っぱ素材を刻んでいるときにも感じられた香りがそのまま精油となって抽出されている感じがしますね。
ヒバ木材精油の香りとはほど遠い香りがします。
抽出直後の前半抽出精油は癒される香りとはいえないので、ファインフレグランスやテラピーには向かない香りといえるでしょう…。
【蒸留後半パート(2h30min~5h)で得られた精油の香り】
蒸留前半抽出精油に比べて香りに明確な変化がありました!
ウッディーさを感じつつ、柑橘のような心地よいシトラスアロマが立つようになりました!
前回のヒノキリーフ蒸留精油と似た香りになり、やはりカルダモンを思わせるような香りに変容しました。これは驚きの変化ですね!
ウッディーさが際立ちつつも、シトラシー(柑橘臭)なアロマも現れたのでどちらかといえば蒸留後半パートで得られた精油の香りが受け入れやすい良い香りになった感じがします!
温泉の和室をイメージするような香りにもなったので、本来のヒバ木材精油に精油構成成分が近づいたのかもしれません。
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日本の主要栽培針葉樹のヒノキ葉っぱ蒸留回
ヒノキ科ではあるけど北米から移入され北海道で主に植栽されるニオイヒバ蒸留回