【蒸留日記 vol.95】北海道のシンボルことクロエゾマツを蒸留する!
えー、実は10月のはじめ頃、雑草ランドの裏庭を青い花畑に変える壮大な計画の皮切りとして草刈りをやってもらったんですが、その時に裏庭のシンボルツリーでもあるクロエゾマツの枝打ちもしてもらったんですよ。
せっかくなのでいつか蒸留しよ〜と思ったまま冬が来て、ついには雪に埋もれてしまったのですが、、、
そういえばここ最近トウヒ属針葉樹を集中的に蒸留してるよな〜
そういえば秋口に裏庭のクロエゾ枝打ちしてたよな〜
とか思い出し、その雪に埋もれた枝をほじくり起こしてきました!
■クロエゾマツ(Picea jezoensis)の簡単なプロフィール!
北海道には固有のトウヒ属針葉樹Picea jezoensisとPicea glehniiが2種自生しています。
本州のアカマツとクロマツに習ってか、それら北海道のトウヒ2種も「クロエゾマツ」と「アカエゾマツ」で呼び分けられているんです。
アカエゾマツは樹皮が赤茶色であり、クロエゾマツは赤っぽくなくグレー色なので、相対的にクロエゾマツと呼ばれているようです。
しかし地域や人によっては、『エゾマツ』と端的に呼称すると本稿主役のクロエゾマツ(Picea jezoensis)を指すことが多いようです。
ゆえにトドマツを除いた北海道のシンボルツリーといえば?と言われると、学名や和名に"エゾ/蝦夷"の名を冠しているクロエゾマツ(Picea jezoensis)となるようです。
🌲林業的にはほぼ希少種のクロエゾマツ。
親木のタネや挿し枝から苗木を育てて木材を得る林業の樹種としてクロエゾマツをみると、"ほぼ"植えられることがないと言っていいほど激レアな樹木です。
それはなんでか??というと、人の手によって大木まで育て上げることがほぼ無理か、難しいからなのです。
北海道の人工林面積の5%ほどであるアカエゾマツは比較的どんな土質でも育つことができ、"特段成長が遅い"という点を除けば苗木を仕立てて山に植えることは難しくはないのですが、、、
アカエゾと違ってクロエゾマツは生育できる土壌をめちゃくちゃ選ぶらしいのです。
無事大木に育つことができる土質がかなり制限されるということですね。
そして次に、クロエゾマツのみ執拗に狙ってくるアブラムシが存在しており、そのアブラムシがクロエゾの若木に虫こぶを作ることで成長が阻害され、あるいは枯死させられることで人の手によって扱われるクロエゾマツは枯死率がすこぶる高いらしいのです。
ゆえに林業的にはほぼと言っていいほど扱われない針葉樹となっているそうです。
ゆえにクロエゾマツの人工林はほぼ存在せず、クロエゾマツを見るには「盆栽」か「手に塩かけて育てられた庭木」か「国立公園内の原生林」でしか見ることができないほど激レアな針葉樹なのです。
(支笏湖周辺の人工林では実生苗で作ったクロエゾ林が存在している)
言い換えるとほぼ自然環境でしか出会えないような針葉樹です。
🌲見た目は🇺🇸プンゲンストウヒ(Picea pungens)に似る。
外見的な特徴だけで見ると、北海道のガーデンツリー/コニファーとして人気なアメリカ生まれのプンゲンストウヒ(P. pungens)に樹形や葉っぱなどが意外とソックリなのです!
唯一バッチリ見分けられるポイントというのが、クロエゾマツの持病とも言える虫えい(虫こぶ)があるか無いかによります。
枝先/葉先にトゲトゲの虫こぶがついていれば、クロエゾマツであると見抜くことができます。
■素材調達&蒸留準備!
🌲凍空の下、雪をほじくり起こす。。。
日が落ちた頃に蒸留時間を仕込める時間ができたので次に控えるヒノキリーフの前にサクッとクロエゾの蒸留を実施してしまうことに決めました!
秋に枝打ちをしてもらった枝は木の根元に積んでおいたので発見発掘の作業はすぐなものでした!
とはいっても1mくらい雪掘り起こしてるんですけどね…w
若者の馬鹿力で発掘は早いものでした!
目分量で3キログラムほどを狙う。
まだ雪が降らぬ10月に枝打ちした枝葉なので乾燥具合などを考慮して大枝3、4本を掘り起こしてきました。
🌲枝葉を粉砕機にかける。
アカエゾ出張蒸留での経験から、抽出率が低い針葉樹素材は手で細かくせず粉砕機にかけて抽出率をあげることを素材処理のベースとすることにしました。
あとは蒸留時間や火力の調整などで化学的に香りのコントロールを行う方針です。
クロエゾマツという樹種の香りを嗅いだことはこれが初めてなのですが、驚くべきことに過去味わったどのトウヒ属との香りよりも抜群にグレープフルーツ様のおいしい香りがするのです!!!
・アカエゾ→甘く濃厚なシトラス
・ドイツトウヒ→軽やかで洗練されたシトラス
・プンゲンストウヒ→酸味の特に強い青トマト
クロエゾは完全にグレフル以外の何物でもないくらい甘くCitrusyな心地よい香りが枝葉を粉砕機にかけた段階で香ってきます。
これはものすんごく精油の香りに期待が募ります…!!
今回掘り起こして用意した枝葉をすべて粉砕にかけるとボタニカル重量は4,289グラムとなりました。
トウヒ属針葉樹は得られる精油量が少ないロジックがあるので、3キロを越える満足のいく素材重量が得られたと思います!
ではいざ蒸留にかけていきましょう。
■いざ蒸留開始!
釜に粉砕処理したクロエゾマツ枝葉を充填。
葉っぱが矮小コンパクトなアカエゾマツに比べて葉っぱが大きいので素材の体積が大きかったので、やや押し込みつつ4キロ弱を詰め込んだ。
蒸留時間は1時間30分としました!(1hour +half hour)
粉砕処理したクロエゾマツの近撮。
枝もろとも粉砕にかけているので、ウッドチップもやや多めに蒸留素材に混ざる。100%Pine needle(針葉)とはなりにくい。。。
アカエゾマツとは針葉の長さが大きく異なることから樹形全体の雰囲気もやや異なってくる。クロエゾマツはみんなが思う針葉樹っぽさがある。
■蒸留結果は…!?
1時間半後の蒸留完了時にセパレータを見るやこの光景に「お前本当にクロエゾマツ(P. jezoensis)だよな…?」と何度疑ったことでしょう。。。
紛れもなく過去蒸留したトウヒ属の中で群を抜いてトップレベルにクロエゾマツが高い収油量を記録しました。
トドマツ蒸留に匹敵する、おおよそで30mLにも迫るほどの精油抽出量です。
4,289グラムの素材量を1時間半蒸し出しただけで、なんと50mL保存ビンの半分に迫る25mLほどの抽出量を達成してしまいました。マジかクロエゾマツ…
1.収油率
クロエゾマツ蒸留の2つ目の感想は、収油率が頭おかしかったです。笑
過去の蒸留経験から、トウヒ属樹木は精油をあまり持たない針葉樹だとばかり思っていたのですが、クロエゾマツは精油がじゃんじゃん出るわ出るわ。。。
ちなみにで記載しておきますが、アカエゾマツ(P. glehnii)は0.661%、
ドイツトウヒ(P. abies)は0.096%でした。
あれっ…?(見間違えを疑う)
2.香りとか
蒸留前の想定イメージでは、プンゲンストウヒのような青トマトっぽい酸味のキッツイ香りがすると想像。。。
素材の処理段階では、針葉樹の中でも驚くほど不快な匂いがなく受け入れ易いグレープフルーツのような美味しい柑橘臭であったり、蒸留水は男性用香水のような男っぽいワイルドムスキーな香りがしていたりと、その香りに驚くことばかりなクロエゾマツ。
そして蒸留して得た精油の香りの実際のクロエゾマツ精油の香りは、他のトウヒ属精油に共通している「青トマトのような酸っぱい不快臭」がわずかにしか感じられないほど薄く、蒸留抽出直後でもリラックスアロマと言えるような心落ち着くウッディーな香りがしていたのがなんとも驚きでした!
林業事業者に当たってもなかなか得られないクロエゾマツというレア素材なだけに、いい意味で期待を裏切ってくれる楽しい蒸留結果となりました!
◻︎さらに1時間半、追加蒸留してみた。
想像以上の時間あたりの高収量に驚いたので、時間を伸ばせばまだまだ精油取れるんじゃね、、、?と思い、蒸気水を追い足して1hour30min追加蒸留してみることにしました!
1時間半行なった後の追加蒸留でも精油が全く出ないことはなく、いくらかまとまった量が抽出されました。
蒸留の構成としては、蒸留時間を3時間分に引き伸ばしている状態となります。
なので抽出される精油の化学構成としては、やはりモル質量がやや大きめのセスキテルペン類(炭素数15)に抽出主体が移るので、精油に色が着いてくるのだと思います。
ならびにわかりやすくフレッシュな精油の香りは薄まり、ウッディーな香りが濃くなっていました。
加えて23年の6月に一月通してA.millefoliumを蒸留しまくったこともあって蒸留釜のパッキンに染みた青色のカマズレン(同じく炭素数15のセスキテルペン)がいくらか浸出してしまったようです。
なのでやや緑色の精油になってしまいました。
■考察/Discussion
今回95回目のクロエゾマツ蒸留を実施したことで、北海道のシンボルたるアカエゾマツとクロエゾマツの2種の香りを確かめられたことになります。
まず誰しもが気になるでしょう、北海道のトウヒ2種の香りをエフゲニーマエダが直感で語ると、、、
アカエゾマツ(Picea glehnii)は、蒸留直後では酢酸ボルニルと思われるモワッとしたやや重めの香りが強く感じられます。
冷蔵熟成が進むとこのボルニルの香りは落ち着きを見せ、若干の青トマトを感じる香りとともに甘さと、次第にウッディーノートとスーッとする香りが香りの主体的になります。
対して今回蒸留のクロエゾマツ(Picea jezoensis)は、長期での官能観察はできていないのですが、なんと針葉樹精油のネックとなる蒸留直後の不快臭がほぼ感じられないおもしろい特徴があります。
香りの主体を占めるのは、心地の良いウッディーノート。
加えて、北方の森を思わせる落ち着いたスーッとする香りが絶妙に感じられます。
と!!
画像にあるように、これにてかれこれ4種類のトウヒ属針葉樹の蒸留を経験できたことになります!
植物分類学的に見ると、いや〜北海道ってトウヒ属が原産地国内外含め4種も集めることができるのはすごい面白い土地だなぁ〜〜〜って北海道に産まれながらも今なお北海道の自然の豊かさに感激しています。
トウヒ全種を集中的にかき集めてトウヒ属の香りを中心に展開するアロマ事業とかできてもいいんじゃないかと思えるくらいです。
平成林業。でやるべきなのかな?
あと残るは市販品トウヒ属精油との官能比較でしょうかね。
これをやることで北海道とヨーロッパでのケモタイプ、香り性質の違いが化学的にも見えてくるワケです。
『北海道という土地が創り生み出せる香り』というものが見えてくるのです。
ではでは、長文になってしまったのでこのあたりで筆を置きますbb
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クロエゾマツの対となるアカエゾマツの初回蒸留記事。
ヨーロッパの代表的なトウヒ属ドイツトウヒ(北海道産)の初回蒸留記事。
北米西部の代表的なトウヒ属プンゲンストウヒ(北海道産)の初回蒸留記事。