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ひろゆきとプラトンとの対話



プラトン(以下、プラ): こんにちは、ひろゆき殿。はるか未来から来られたとのことですが、あなたはどのような事柄を探求しているのですか?

ひろゆき(以下、ひろ): どうもこんにちは、プラトンさん。えーっと僕、ネットとか言論とか、あと世の中の不思議なことをいろいろと考察するのが好きなんですよね。あなたの対話篇とか「イデア論」がよく話題になりますけど、正直、本当にイデアなんてあるんですか? それって証明できないですよね?

イデア論について

プラ: 私が説くイデアとは、現実世界のあらゆる事物の“本質”として考えられる完全なる型のことです。この感覚世界にあるものは、すべてイデアを不完全に映し出している影にすぎない。イデアは理性で捉えられる存在であり、感覚では捉えられないものです。

ひろ: うーん、でもそれ、イデアってどこで見られるんですかね? 現実には観察できないし、脳の中で思い描くだけじゃないですか? 「本質」とか「完全なる型」とか言われても、それって言ったもん勝ちというか…まあ、想像上の存在を置いておいて、論理的に整合性があるならわかるんですけど、確かめるすべがないんじゃないかと思うんですよね。

プラ: 実際にこの洞窟に閉じ込められた人々の比喩を聞いたことがありますか? 真の世界(イデア界)を背にしているがゆえに、壁に映った影しか見えていない。人間はそういう状態だ、と。

ひろ: ああ、有名な「洞窟の比喩」ですね。ネットでもよく話題になるので知ってますよ。まあ、影しか見えないというのは metaphor(比喩)としては分かりやすいけど、結局のところ「隠された本質がある」と言われても、“誰も見れないなら確かめようがない”って話だと思うんですよね。それってあなたの感想ですよね、っていう(笑)。

「善のイデア」と正義

プラ: なるほど。では別の観点として、私は「善のイデア」を説いています。すべての価値や正義、徳の頂点には、「善のイデア」がある。人間はその善を知り、正しく行動することで魂が調和し、国家もまた正義を実現できるというのが私の考えです。

ひろ: まあ、人を大事にするとか、社会が平和になるような行動をするとかはいいことだと思いますよ。でも、それがなぜ「善のイデア」って形而上学的なものになるのか、僕にはよく分からないんですよね。正義とか善とかって主観的な部分もあるじゃないですか。国家によって法律や制度、道徳観も違うわけだし。

プラ: おっしゃるとおり、現実社会には様々な法律や制度があり、人々の価値観や文化も異なる。だからこそ、普遍的な善を目指す姿勢が必要なのです。完璧な姿はあくまでイデア界に存在し、この世界では不完全でもそれに近づこうと努力する。その志向性こそが重要なのです。

ひろ: まあ努力すること自体は否定しないですけど、あまりに「完全なる理想」を想定しすぎると、そこに至れない無力感とか、逆にそれを押し付けて弾圧するリスクもあると思うんですよね。要は「完璧な正義」なんていう幻想を掲げることで、不寛容になったり独善に走ったりしないかっていう。昔の宗教戦争みたいな感じで。

対話の方法とインターネット

プラ: なるほど。たしかに人間は理想を掲げるがゆえに、そこに至る過程で争いを起こすことがあります。私は対話によって真理に近づく道を重んじました。相手の主張を十分に聞き、それを吟味して誤りがあれば正す。対話による探求こそが、我々がイデアに近づく方法です。

ひろ: でも、いまのネット社会って対話がうまくいくどころか、互いの主張がぶつかり合って、罵倒合戦になりがちですよね。匿名で適当なこと言えるし、フェイクニュースもバンバン流れるし。

プラ: たしかに私の時代には文字でのやり取りというものがそもそも少なかった。そして書き言葉による誤解もあった。あなたの時代ではそれが比にならない量になっているのですね。言論の自由が広がる一方で、虚偽や侮辱が横行する。どうやって対話を維持しているのですか?

ひろ: うーん、あんまり維持できてないかもしれません(笑)。最近はある程度ルールやモデレーションが効いてるプラットフォームもありますけど、それでも完璧にはいかない。ネット空間で人は匿名になると攻撃的になりがちですから。

「魂」と「人間観」

プラ: 私は魂を三つの部分に分けて捉えました。理性、気概、欲望。この三つの調和が取れていないと人間は混乱に陥ると考えたのです。ネットで匿名になったとき、欲望が過度に解放されたり、気概が暴走したりすることがあるのではないでしょうか。

ひろ: なるほど、匿名だから欲望や怒りを抑えられなくなるって話ですね。まあ理性を保つには、本人の自制心とか教育が大事ですよね。正直、技術的にそれを完璧にコントロールするのは難しい。一方で、言論の自由を制限しすぎても良くないわけですし。

プラ: そういったバランスを保つ術を人類が学ばねばならないということですね。私の時代にも問題は多々ありましたが、今ほどの情報量はなかった。膨大な情報を扱う現代だからこそ、理性をどのように発揮するかが問われているのですね。

ひろ: まあそうですね。僕は「情報を疑う姿勢」と「他者の見方を知る姿勢」さえあれば、情報過多でもどうにかなるんじゃないかと思ってます。完璧に正しい答えなんて見つからないけど、いろんな角度で考えることで、最悪の結末は避けられるかな、みたいな。

国家論と個人の自由

プラ: ところで、私は善なる国家を追求する中で、「哲人王」という理性に優れた人物が国家を統治するのが理想だと考えました。民衆の欲望や短期的な欲求に振り回される政治を避けるためには、賢者が統治するべきだ、と。

ひろ: まあ、ある種のエリート統治論ですよね。僕はあんまりその考え方、好きじゃないんですよね。結局どれだけ賢い人が政治をしても、権力を持ったら腐敗する可能性があるわけじゃないですか。そしてその「賢い」の判断も誰が下すのか? っていう問題になる。

プラ: たしかに、私の思索の時代には、そのリスクについては深く議論されなかったかもしれません。貴族や哲学者の中にも腐敗した者はいたでしょう。あなたの時代では民主主義が中心となっていますが、その問題点はどのように捉えられているのですか?

ひろ: 民主主義には欠点も山ほどありますよ。ポピュリズムがまかり通ったり、メディアの報道次第で世論が一気に偏ったり。でも、権力が一極集中するリスクに比べれば、まだマシかなと思います。少なくとも複数の視点がぶつかることで、独裁よりは腐敗を抑えられる確率が高いと。

まとめ

プラ: あなたの考え方、非常に面白いですね。私も新しい視点を得られた気がします。イデアや善は論理によって追求されるべきものであり、それをどう現実社会に落とし込むかが課題だと。対話を通じて、私たちは少しでも真理に近づけると信じています。

ひろ: はい、僕も対話そのものは大事だと思います。ただ、みんな真理がどこにあるかなんて分からないし、それを振りかざすとトラブルも起こりやすい。だから「自分は完全じゃない」「意外と間違えてるかも」って疑いを常に持つのが大事なんじゃないかな、と。

プラ: 自省の精神ですね。私も自らを疑い、問いを繰り返すことで哲学の探求を行ってきました。今日のお話を通じて、現代には現代なりの問題があるとよく分かりました。しかし、そのなかでも人々は対話を続け、より良い社会を模索しているのですね。

ひろ: そうですね。プラトンさんの「洞窟の比喩」じゃないけど、僕らはいつも「本質」なんて分からない状態で手探りしてるだけかもしれない。でも、その手探りを諦めないで何とかするしかない。そんな感じですかね。

プラ: それは私の「問答法」の姿勢にも通じるところです。やはり人間は問い続ける存在なのでしょう。今日は貴重なお話ができてうれしかったです。機会があれば、また対話を重ねましょう。

ひろ: そうですね。じゃあそろそろ僕は戻ります。現代のネット社会はプラトンさんには刺激が強いかもしれないけど、また遊びに来てください(笑)。では、お疲れさまでした。


エピローグ

パリの街は夜更けに静まり返り、セーヌ川に映る街灯だけがゆらゆらと揺れている。ひろゆきはいつものように薄暗いアパートの部屋に戻ると、ソファに深く腰掛け、今日の出来事に思いを巡らせた。まるで長い対話をしていたような気がするが、それは夢だったのかもしれない。
まさか本当に古代ギリシアの哲学者と話すなんて……。ぼんやりとした疲労感とともに、彼は薄笑いを浮かべながら首を振った。

「やっぱり、寝ぼけてただけかな……」

そう呟いて上着を脱いだとき、コートのポケットに違和感を覚えた。何かが引っかかっている。そっと指先を入れて探ってみると、パリパリと乾いた手触りのものが指に当たった。
取り出してみると、それは黄ばんだ紙切れ――いや、紙よりもずっと古い、パピルスの破片のようだった。うっすらと消えかけた文字が記されている。ギリシア文字だろうか。
心臓が鼓動を早める。どうしてこんなものが……。確かに自分にはまったく身に覚えがない。いや、ほんの少し前――あの不可思議な対話でプラトンが手渡してくれた気がする。夢だと思っていたはずなのに。

「まさか…まだ夢が続いてるのかな」

声に出して呟きつつも、彼はパピルスの切れ端を注意深くテーブルに置いた。そこにはかすかに書かれた文字がある。古代の言葉で「μνήμη(ムネーメー=記憶)」を思わせる一節だけが、奇跡的に判読できた。

ひろゆきはテーブルランプを少し傾け、光の加減を変えながら、半ば崩れかけた文字の断片を見つめる。たったそれだけの断片にもかかわらず、胸の奥に奇妙なざわめきが走るのを感じた。あの対話の余韻だろうか。

彼はそれをしばらく眺めたあと、まるで見守るかのようにパピルスの切れ端にそっと手をかざした。そして、かすかな笑みを浮かべながら心の中でこうつぶやく。

「確かに、話をしたよな……プラトンさん」

遠くからサイレンの音が聞こえ、フランスの夜の静寂が再び戻ってくる。部屋の窓を開けると、冷たい風が一陣吹き込み、パピルスが微かに震えた。
それは夢だったのか、あるいは現実のひとつだったのか。真理という名のイデアは、いつだって遠く、しかしどこか近くにあるのかもしれない。
このパピルスの破片が教えてくれたのは、ひろゆきの中に生まれた小さな確信――「問い続ける限り、どんな時代とも不思議につながってしまうのかもしれない」ということだった。

彼は静かに窓を閉め、眠りにつく準備を始める。机の上には、まるで時空を超えた絆を証明するかのように、かすかなギリシア文字を宿した古いパピルスの破片が残されていた。

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