【アジアの音楽】2023年1月~3月の新譜をレビュー
前回の邦楽春の新譜祭りに引き続き、今度はアジアの音楽でこの三ヶ月に発表されたもの勝手にレビューしちゃいます。油断したらインドの話ばっかりしちゃうので、抑え目で…
【台湾】Yokkorio「Destoroy」
惜しまれつつも解散したインディポップバンド「The Fur.」のヴォーカル・柚子のソロプロジェクトであるYokkorio。現在deca joinsのUSツアーにサポートアクトとして帯同している彼女から、うれしい新譜の発表があり。フォーキーでドリームポップな夜の気配が漂う一曲。キーとなるのフレーズ「We are heading to the core where everything happens. To destroy whatever we want.」も、このサウンドと重なると、どこかエンパワーメントな響きとなる。そしてラストのDestroy!な曲展開によって、溜まっているものが昇華されていく。
【南インド】Jatayu「No Visa Needed」
めっっっちゃクールなインドのフュージョン。チェンナイ出身の4人組で、南インド・カルナータカ音楽の影響が見られるそう。しかもフジロック2023に出演決定とのこと。「RRR」に引き続いて、南インドが日本で盛り上がりつつあるのでは?最近『響け! 情熱のムリダンガム』っていうカルナータカ音楽をダリッド出身の主人公が叩くインド版『セッション』みたいな映画を見たところだったので、これはかなり嬉しい発見。
【パキスタン(アメリカ)】Arooj Aftab, Vijay Iyer, Shahzad Ismaily「Haseen Thi」
異常に癒やされる…。パキスタンがルーツのグラミーホルダーであるArooj Aftabの新プロジェクト。スーフィズムの伝説的詩人に影響を受けたという彼女の歌には神秘性が感じられる。共演はこちらもグラミーにノミネートされたインド・タミル系アメリカ人のVijay Iyer(piano)と、同じくパキスタン出身のShahzad Ismaily(bass)。揺蕩うウルドゥー語の歌唱と、静かなグルーヴ。思わず幽体離脱しそうになる1曲だ。
【韓国(日本)】Night Tempo「Pokémon めざせ Catch ’Em All」マッシュアップ
最終話を迎えたアニメ「ポケットモンスター」、いやー世代です。最終話の公開に先駆けて、日本のレトロアニメや音楽が好きすぎる韓国出身のDJ・Night Tempoが公式マッシュアップを公開。ポケモンの公式HPなので、ちびっ子向けの解説がYouTubeの概要にあって「日本で放送された「めざせポケモンマスター」と、アメリカなどで放送された「Gotta Catch 'Em All」をマッシュアップした新しい楽曲だよ。 マッシュアップを担当したのは、日本とアメリカで活躍している音楽プロデューサー兼DJのNight Tempo!」とか書いてるけど分かるかな??
これ海外版のポケモンOP曲だった「Catch`Em All」とマッシュアップしてるんだけど、声がサトシの声の松本梨香とめっちゃ似ててすごいね。
【インドネシア】The Bakuucakar & Lalahuta - Kisah Romantis
インドネシアといえばシティポップ!2020年に夭逝したインドネシアR&B中興の祖であるGlenn Fredlyの2005年の楽曲を、彼が作り上げたバンド・The Bakuucakarと同じくインドネシアのバンドであるLalahutaが演奏している。ただインドネシアの音楽は英語文献が少なく、あまり情報分からず。どうも日本のシティポップと同時期に発生したポップ・クレアティフというジャンルが発展し、メジャーシーンやインディーシーンでの醸成を経て、今に連綿と続いているらしい。あとMV見てもらったらわかるけどインドネシア語がメチャクチャ表音文字。何となくで歌えそうな感じする。
【ベトナム】Cá Hồi Hoang「Mất Kết Nối」
声が良すぎる。MV見るまでこういう声の女の人だと思ってましたすみません。ところであなたたちどうやって発音するんですか?インディロックなんだけど、なんとなくフレンチポップ的な洒落っ気を感じるんだよなぁ。
【多国籍】Baiju Bhatt & Red Sun「Nataraj (feat. MOHINI DEY, NGUYÊN LÊ, STÉPHANE EDOUARD)」
インド系スイス人のヴァイオリニストであるBaiju Bhattが率いるジャズ・フュージョンバンドRed Sunから新曲。ベースのMohini Deyはムンバイ出身なのだが、なぜかB'zのサポートメンバーになったことも。ギターはベトナム系フランス人のNguyên Lê、驚異の素手ドラム奏者として知名度を上げたStéphane Edouardはインド系フランス人だ。サックスのValentin Conusはスイス人、ピアノのMark Prioreはフランス人。こう見ると、各メンバー毎には共通点があるのだが、トータルで見るとかなり多国籍である。
だからこそ、だろうか。ヨーロッパ的なジャズの感覚と、移民としてのワールドミュージック的な感覚が絶妙に混ざり合っている。バイオリンがリーダーでこういうジャンルの音楽をやっているのも珍しく感じるが、バイオリンというのはどことなくヨーロッパの情緒を自然に取り入れてくれる感じがする。そして様々なパーカッションを駆使して曲を支えるStéphaneの手札の多さ。あとナチュラルに素手でドラムを叩いている衝撃。なぜシャツがエビスなのか、そんなことがどうでもよくなるくらい加速度的に仕上がっていく楽曲に興奮しました。なんかみんな普通に宅録の音源を送り合ってそうなMVも良いね。なんかギターのNGUYÊNさんだけ映像カッコつけすぎた可能性あるけどね…!
【北インド】Live Video-Monophonik
Monophonikさんちょっとバズってたから見た人多いかも。モジュラーシンセとかのハード機材を大量に駆使してテクノで1時間もライブしてる。最高。俺もデリーの人と一緒にぶちあがりたい。mixmagがデリーで開催したパーティーに出演した際のビデオが公開されて、世界中から反応が来たとのこと。今はテクノロジーがあるから、逆にハード機材でのライブが人を興奮させて、またテクノロジーによって世界中の人がニューデリーに住む彼のライブを聴けるって考えると、なんだかおもしろい。
【南インド】Arivu x Khatija Rahman「Sagavaasi」
軽刈田 凡平さんのTwitterでそういえばCoke Studioってあったな!と思い出してディグ。なんとCoke Studio Tamilというタミル語圏のアカウントが最近開設されていた。タミル語ラッパーArivu(最近日本でもやってた『マスター』の「Vaathi Raid」の方)と、あのA・R・Rahman(『スラムドッグ$ミリオネア』でアカデミーの歌曲賞を取った方)の娘さんで歌手をしているKhatija Rahmanのコラボ。co-existsをテーマにして、こういう場面で壮大な自然に落とし込んだ歌を歌うのも日本と違って面白い。
特にエンパワーされるのは、タップという太鼓を叩いている人が2人出演していること。これはインドで激しい差別にあってきたダリットの方々が大事にしてきた打楽器で、主に葬儀の場で叩かれる印象が強いため、強い差別の対象となってきた歴史がある。それをあえて、この世界中に発信されるCoke Studio Tamilのスタートのタイミングで出してきたこと。彼らのカルチャーを象徴する打楽器が、こういった形で世界中に発信されていくの、すごくいい。みんなでちょっとずついい世の中にしていけたらいいな。