具材よりオリーブオイルが命!スペイン料理「アヒージョ」の魅力
Ajillo。
簡単にできて見栄えも良いアヒージョは、年末年始の人が集まる時期にもぴったりな料理ですね。
スーパーに行けば「アヒージョの素」なるものが販売されており、日本語のレシピも山程出てきます。今やパエジャに次ぐ、かなり有名なスペイン料理でしょう。
私はこのアヒージョに物申したい。このスペイン料理、みんな具材にこだわるし具材がメインだと考えているでしょ。重要なのは具材ではなくオイルです。アヒージョはオリーブオイルと、にんにくと、パンがメインのお料理です!
今回はオイルを楽しむスペイン料理、アヒージョに迫ります。バモス!
Ajilloとは?
最初にアヒージョを食べたこともない、知らないという方の為にどのような料理かを整理しましょう。
アヒージョはスペインで生まれた、いわゆる「オイル煮」。魚介、お肉、野菜などあらゆる具材をにんにくとオリーブオイルでさっと煮て塩で味付けしたお料理です。
本国スペインでは、バルやレストランで提供されています。温かいお料理なので、その他タパスのようにカウンターに並んでいるのは見かけません。注文して作ってもらうのが通常の形です。
アヒージョ=にんにくちゃん?
アヒージョという名前はスペイン語のajo(にんにく)と接尾辞の~illoから来ているとされています。
ちょっと説明が難しいのですが、スペイン語はこの「接尾辞」を多様する言語です。人の名前にも使ったり、小さいものやかわいいものに使う接尾辞もあれば、ちょっと馬鹿にして使う接尾辞もある。
アヒージョの場合は大阪の方が言う「飴ちゃん」みたいなもの、つまり「にんにくちゃん」なんじゃないかなと思います。はっきりそう書いてあるものは見つけられなかったけど。
ま、名前が「にんにく」から来ているということは間違いない。にんにくちゃん。
様々な種類がある
スペイン国内にもさまざまなアヒージョがありますが、定番はGambas al ajillo(エビのアヒージョ)です。日本でもエビは定番ですね。
エビのアヒージョはマドリードで生まれたとされており、特にスペイン中央部から北部にかけてよく食べられています。
スペインで出会えるアヒージョはエビの他に鶏肉、じゃがいも、マッシュルーム、タコ、イカなどが定番。
お店によっては豚肉、うさぎ肉、ナス、タラ、牡蠣など、お肉類、海の幸から山の幸までなんでもアヒージョでいただけます。なんでもおいしくいただけるのがアヒージョの魅力。
日本のアヒージョは、魚介もきのこも野菜も混ぜて作られることが多いですが、本場はもっとシンプルで地味。通常具材は一種類のみで、エビならエビだけ、鶏肉なら鶏肉だけでサーブされます。入れても付け合わせ程度ですね。
小さなcazuelaで作る
スペインのアヒージョは、cazuelaと呼ばれる小さな土鍋で作られます。
レシピはとてもシンプルで、カスエラにオリーブオイル、にんにく、好みで鷹の爪を入れて温め、にんにくの香りが立ったら具材を投入。塩、白ワイン、パセリを加え軽く混ぜれば完成です。これだけ!何も難しくありません。
上記の動画を見ていただければ分かる通り、オリーブオイルの量がすごいでしょ。具材が浸かるくらいオイルを入れるの。
そして今回私が言いたいのは、アヒージョのメインは具材ではなくオリーブオイルだぜ!と言うことです。
アヒージョはオリーブオイルがメイン!
アヒージョはオリーブオイルがメイン・・異論は認めません、絶対に譲れません。
私ね、遠い昔日本のスペイン料理屋で働いていたことがあるんです。大学生の時ね。
その時代、エビのアヒージョのエビだけ食べてオイルを残す人がとても多かった。「パンの追加はいかがですか?」「オリーブオイルを付けて食べるとおいしいですよ」とすすめても「もう大丈夫です」ってオリーブオイルそのまま残しはるねん。
いやいやいやいや!!アカンて!!アヒージョはにんにく風味のオリーブオイルをパンに付けて食べるパンのための料理やねん!何してんねん!!
と言いたかった。言えなかった。
正直言って具材なんてなんでもいいんですよ。家にあるものでいい。オリーブオイルとにんにくとパンだけあればいい。具材なんて、オリーブオイルに風味を付けるための脇役なんですよ、ほんまに。
パンを”濡らす”mojar
スペインの主食はパン。主菜はお肉、お魚、お野菜メインと幅広く、汁気の多いお料理も数多あります。
アヒージョのようにオイルに浸かったもの、大量のオイルでソテーしたもの、ソースで煮込むもの、ソースをかけるもの・・・。そしてこのオイルやソースをパンに付けて食べるのが習慣です。
日本人の感覚だと、ちょっとお行儀の悪いことに思われるかもしれませんね。最初は私もそうでした。付けるにしてもちょこっとがマナー的にも良いのだろうと思っていました。
いいえ。スペインの人たち、思いっきりパンを浸します。このソースにパンを浸すことをmojar(濡らす)といい、誰もお行儀が悪いこととは捉えません。
アヒージョを人と分け合って食べる時には、具材とオリーブオイルをスプーンで小皿に取ります。そして具材とオイルをパンと一緒に食べる。具材を食べてしまったら、オイルをパンに付けて食べる。これが正解です。
お皿を”空にする”rebañar
さらに、オイルやソースをパンで拭ってきれいに食べてしまうことをrebañarと言います。limpiar el plato con pan(パンでお皿を洗う)とも言いますね。
イタリアではパンで拭って食べきることを「スカルペッタ」といい、「ソースを残すのももったいないほどおいしかった!」というポジティブな意味の習慣なんだそうです。
同じく、スペインでも悪いこととは捉えられていません。時と場合によるとする意見もありますが、家庭ではそれが普通。「お皿がきれいになるまで下げてはいけない」としつけられる方もいるそうです。
結婚式のパーティーやお高めのレストランであれば「モハール」に留めておいた方が良いですが、バルなんかでは「レバニャール」まで行っても大丈夫。そのためにパンを追加する人もいます。おいしいものを最後の最後まで楽しんでOKなんです。
オリーブオイルはエキストラバージンを
日本語で「アヒージョ」と検索すると、「残ったオイルをどうするか」という質問を見かけます。なんなら「アヒージョ 油 もったいない」とかも出てくる。
取っておいてパスタやソテーに使う、またアヒージョのオイルとして再利用する、終いには捨てる、とかね。
待って。一番おいしいところを捨ててどうするんだ、たこ焼きの外側捨てるようなもんやぞ。パンと一緒に食べてみてください、あっという間になくなるから。
しかし、これには条件があります。できればエキストラバージンオリーブオイルを、難しいならバージンオリーブオイルを使うことです。
おいしいオリーブオイルはスペインにある
スペインは言わずとしれたオリーブオイルの生産が盛んな国。2022年のデータを見るとその生産量は世界一で、2位のギリシャとも大きく水をあけています。
生産量だけではなく、質も別格。スペインのオリーブオイルは風味が豊かで香り高く、口当たりもまろやかで色も美しい。炒めものに使うも良し、贅沢にフライに使うも良し、香り付けに垂らすも良しと、なんでもおいしくしてくれる魔法の液体です。
オリーブオイルのランク
オリーブオイルにはランクがあり、最高級品は「エキストラバージンオリーブオイル」です。オリーブの果汁のみ、なおかつ酸度が0.8%以下のものがエキストラバージンとして出荷できます。
オリーブの実はとてもデリケートで、少しでも傷が付くと酸化が始まるのだそう。傷を付けないよう、大事に大事に収穫されたオリーブだけがエキストラバージンオイルになるのです。
次のランクがバージンオイル。これもオリーブの果汁のみですが、酸度は2%以下のものです。
スペインのアヒージョがおいしいのは、このオリーブオイルがあればこそ。「アヒージョを作る時にもっとも重要な材料はオリーブオイル」だと言われています。
アヒージョに使うオリーブオイルはエキストラバージン、またはバージンオイルが基本です。オイルを食べる料理だからこそ、オイルにこだわる必要がある。アヒージョを生み出した国が言うのですから、間違いはありません。
このルールさえ守ってくだされば、もうオイルを捨てるなんてことはなくなるはず。パンと一緒にペロリです。
本当のアヒージョ体験を
つらつらアヒージョについて書いてきましたが、日本のアヒージョが悪いとは言いません。日本人って、他国のものを自分の国オリジナルに昇華するの得意ですしね。
いっぱいの具材が入った華やかなアヒージョもおいしいでしょうし、アヒージョの残りオイルを使ったパスタも間違いなくおいしいでしょう。好きに食べればいいんです。
ただ、興味のある方はぜひスペイン本場の食べ方を試してみてください。本当においしいから。オリーブオイルとにんにくとパン、このシンプルな組み合わせがこんなにおいしいんだって、きっとびっくりするから。
そしてきっとこう思うでしょう。「アヒージョはオイルを楽しむ料理なんだ!」と。