「イニシエーション・ラブ 」 乾くるみ
「最後から二行目(絶対に先に読まないで!)で、本書は全く違った物語に変貌する。」
「イニシエーション・ラブ 」 乾くるみ
僕がマユに出会ったのは、代打で呼ばれた合コンの席。
やがて僕らは恋に落ちて・・・・・・。
読みはじめると、どんどんページが捲られてゆきました。きらめくような純粋な恋愛ストーリーに、あるいは、ほろ苦い青春ストーリーに。それが次第に……
この物語をカセットテープのように、A面からB面に裏返し再生ボタンを押すと、しだいにメジャーからマイナーに転調してゆきました。「いったいどうなるんだろう?」
この本の裏表紙の言葉に
最後から二行目(絶対に先に読まないで!)で、本書は全く違った物語に変貌する。
そう書かれていました。
そう書いてあったら、どうしても読みたくなるじゃありませんか?
「早く読みたい!早く読みたい! 思わずページの最後をめくりたくなる!」
「ダメダメ、ここで読んでしまうと、最後の感動がなくなってしまう」
感情を揺さぶられながら、「んっ?」と疑問を感じたり、「いやいや、そんなことはありえない。」と否定したりしながら、ついに最後のページへと。
えっ!
「何が起こったの?これ」
と、また最初からザ~~っとページを捲りました。
いろいろ仕掛けがあったんだ。
なるほど~!うまく考えて書かれた小説ですね。
ちょうど時代背景がワタクシ世代でありまして、BOOWYとかオメガトライブとかホンダシティとか男女7人とかテレフォンカードとかが出てきて、またストーリーが、side-A 、side-Bになっています。
カセットテープやレコードで楽しんだ世代なんですよね。
携帯もインターネットもない時代。
この頃だからこの小説は書けたのでしょう。
おっと、この調子だといろいろ喋ってしまいそう……
これ以上何かを書いてしまうと、おもしろくなくなるのでやめておきます。
イニシエーションとは通過儀礼のこと。
「そう。子供から大人になるための儀式。
私たちの恋愛なんてそんなもんだよって、彼は別れ際にそう言ったの。初めて恋愛を経験したときには誰でも、この恋愛は絶対って思いこむ。絶対って言葉を使っちゃう。
でも人間には ー この世の中には、絶対なんてことはないんだよって、いつかわかるときがくる。それがわかるようになって初めて大人になるっていうのかな。
それをわからせてくれる恋愛のことを、彼はイニシエーションって言葉で表現してたの。」
再度読むと、違う視点で読むことになります。
登場人物の誰かにあなたは似ているかもしれません。誰がいちばん悪いのかを考えるかもしれません。この人が一番怖いと思うかもしれません。自分もこんな恋愛をしていたと反省するかもしれません。自分だったらこんな恋愛は絶対にしないと誓うかもしれません。
2回読んだあとには、いろいろ考えてしまうと思います。その考えたことがその読者の恋愛観・人生観なのかもしれませんね。
【出典】
「イニシエーション・ラブ 」 乾くるみ 文藝春秋