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映画評 インサイド・ヘッド2🇺🇸

(C)2024 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

人間の感情たちの世界を描き、アカデミー賞で最優秀長編アニメ作品賞を受賞したピクサー・アニメーション映画『インサイド・ヘッド』の続編。

ライリーの頭の中では、ヨロコビ、カナシミ、ムカムカ、イカリ、ビビリの5つの感情たちが彼女の幸せな生活のために日々奮闘していた。高校入学を控え人生の転機に直面したライリーの頭の中で、謎の警報が響きわたる。警報と共に現れたのはシンパイ、イイナー、ダリィ、ハズカシの新たな4つの感情たち。思春期を迎えたライリーの頭の中で、新たなトラブルが巻き起ころうとしている。

思春期で最も頭を悩ませるのが、人間関係のスクラップ&ビルドだ。ライリーは高校入学と同時に、中学の友達とは違う人生の選択を取らざる得なくなり、これまでの友情に亀裂が入る。当たり前の日常が一変してしまうストレスは、新たな環境に身を置く経験をしたことがある人なら、ライリーに感情移入せざる得ない。

新たな人間関係を構築するビルドに勤しむ際、他人の目を過剰に気にしなければならなくなる。はじめの一歩を踏み外すと挽回が難しいように、ライリーはチームメイトや監督に気に入られるような行動を取り続けるのだが、見ていて痛々しい。これから上手くやっていけるか将来がかかっていのなら、焦るライリーの気持ちは分かりみに溢れる。


(C)2024 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

思春期のライリーをコントロールしてるのは、新たに登場した4つの感情たち。起こり得る最悪の事態を想定しての判断なのだが、大きく空回ってしまう。自分の頭の中でもこうなっていたのかと思うと、自分自身を見ているようで目を背けたくなる。思春期の黒歴史を掘り起こされたかのようで、いい意味で居心地が悪い。

特に”シンパイ”が主導権を握り、結果的にライリーの人生を悪い方向に招いてしまう。しかし”シンパイ”は”シンパイ”なりにライリーを守ろうとしてることは一目瞭然なため、責めることはできない。

思春期の頃に取ってしまった行動は、どうしようもなかったのかもしれないと、観客一人一人が抱えている黒歴史がある意味救われる。思春期に負ってしまった傷や忘れたい思い出に悩んでいる人に寄り添った映画なのかもしれない。


(C)2024 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

飛ばされた先で様々な試練を乗り越え成長して帰ってくるストーリー展開、どんな感情でも必要不可欠という結論は前作を踏襲しており、一見すると変わり映えのない内容かもしれない。

しかし、人間はいくつになっても試練があり、その度に傷つき、そして成長していくという人生を描いたと言える。前作から9年という月日を思い返してみると、様々な試練の壁にあたり、傷つき、乗り越えて成長できたものもあれば、上手くいかなかったものもある。人生は一本の物語のように完結するわけではないからだ。

人はいくつになっても壁を乗り越えて成長できるというメッセージと捉えられる。子供たちにとっては「なんとかなる」「辛いことがあっても大丈夫」と希望を見せつつ、思春期を過ぎた人たちには「全ての経験は無駄ではない」と施しになる。

そして、忘れがたい思い出を無理に思い起こさせなくても良いと描いたことは、深傷を負った者への配慮がなされている。本作は真の意味で全ての人に向けた映画なのだ。

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