映画評 チャレンジャーズ🇺🇸
『君の名前で僕を呼んで』『ボーンズ アンド オール』のルカ・グァダニーノ監督による、2人の男を同時に愛するテニス界の元スター選手と、彼女の虜になった親友同士のテニス選手の10年間を描いたラブストーリー。
テニス選手のタシ・ダンカン(ゼンデイヤ)は確かな実力と華やかな容姿でトッププレイヤーとして活躍していたが、試合中の怪我により選手生命を絶たれてしまう。選手としての未来を突然失ってしまったタシは、自分に好意を寄せる親友同士の若き男子テニス選手、パトリック(ジョシュ・オコナー)とアート(マイク・ファイスト)を同時に愛することに新たな生きがいを見いだしていく。
ルカ・グァダニーノ監督作品の描くロマンスは常に禁断的であり挑戦的だ。尚且つ美しく描くため目が離せない。『君の名前で僕を呼んで』では、同性愛がタブーであった70年代を舞台に、ノスタルジックな淡い雰囲気と共に愛し合う美しさと愛が引き裂かれる残酷さを描き出した。『ボーンズ アンド オール』では、カニバリズムを社会的マイノリティとして見立て、居場所を求め合った者同士のロマンスとして涙を誘った。
登場人物の行動原理は、ふと芽生えた抗し難い欲望によるもの。欲望のままに突き動かされた先に待ち受けているのは、人生におけるこの上ない絶望と新たな人生の出発点を見出す劇的な結末。タブーとされていた領域に足を踏み入れつつも差別的な視線を入れず、最低限の倫理を保ちつつも断罪的に描くことはしない。欲望に対して全面的に向き合う居心地の良さが画面越しから伝わってくる。
タシ、パトリック、アートの三角関係を紐解いていくと、互いが互いをコントロールし、三角関係の中心にいようとする、主導権を握りたい欲求がベースにある。スポーツ選手としてタイトルや富、名声を欲するように、意中の人も射止めようとする様子は、スポーツ選手という設定も相まって説得力が増す。
元々ダブルスのパートナーであり切磋琢磨する関係性であったパトリックとアートは、どちらがタシの心を射止めるかのライバル関係へと変貌する。互いに抑えていた敵視や嫉妬心が剥き出しになる様子は『胸騒ぎのシチリア』を連想させる。はじめはパトリックが勝利したのち、アートに軍配が上がる。しかも3大タイトル獲得という箔つき。パトリックはテニスでアートに勝ち、尚且つタシを引き戻すために暗躍する。
しかし、2人の関係性にはタシがいないことには始まらず、そういう意味では彼女によってコントロールされた三角関係だ。タシの支配欲は試合同様強かで、パトリックとアートが互いに求めるよう仕向け、テニスプレイヤーとして失った栄光を取り戻すために乗り換える。スランプに陥ったアートが落ちぶれたパトリックと試合するように仕向けたのもタシ。何から何まで、2人の男性を同時に操る巧みさが見ていて清々しい。
そんなタシでもコントロールできないのが試合だ。こればかりはフィールドにいる選手がどうにかするしかない。パトリックとアートは時折彼女を気にしつつも、2人の間にしか分かり合えず誰も寄せ付けない聖域が表立ち、2人が真に求めていた欲望を具現化させていく。ホテルで2人がキスしたように。そしてそれは、タシが真に求めていたもの。テニスシーンは全編、足枷になっていた欲求から解放され、真に求めていた欲望を解放させるカタルシスと言えるだろう。