映画評 はたらく細胞🇯🇵
人間の体内の細胞たちを擬人化した同名漫画を『翔んで埼玉』『テルマエ・ロマエ』の武内英樹監督で実写映画化。
人間の体内には37兆個もの細胞が存在し、酸素を運ぶ赤血球や細菌と戦う白血球など無数の細胞たちが、人間の健康を守るため日夜はたらいている。健康的な生活習慣を送っている高校生の漆崎日胡の体内の細胞たちはいつも楽しくはたらいているが、体内への侵入を狙う病原体が動き始め、細胞たちの戦いが幕を開ける。
漫画原作の実写映画は安っぽいコスプレやリアリティのある演技とは言い難い役者陣のオーバーアクトにげんなりさせられることがしばしある。本作も”安っぽさ”という点では当てはまるものの、見ていて不快にならないどころか、画面に釘付けになるほど見事にとハマっていた。
成功の要因としては、人間パートと体内パートにおける演出方法の違いを明確に棲み分けたことが大きい。人間パートはリアリティ路線を貫き、コメディでありながらも人間ドラマとしての重厚感を演出する。また、親子の絆が試される一本のミニドラマとしても成立しているのも好感が持てる。そして阿部サダヲと芦田愛菜の『マルモのおきて』コンビは安定して演技が上手い。
体内パートは漫画的・アニメ的な演出に割り切ったことで、細胞や血液が擬人化した世界で繰り広げられるファンタジー路線の楽しさを演出する。濃すぎるほどに際立つ細胞の個性は、それぞれの役割を観客に理解してもらうためにも必要なオーバーアクト。また、アクションも漫画的ではあるものの世界観と上手く融合できていたため、非リアリティのノイズを見事に消し去った。
安っぽさという点では、顔にペンキを塗ってることが丸わかりのメイク、血小板を浮き輪を用いて演出、もじもじくんのウ○コなど文化祭クオリティではある。だがそれらの安っぽさが体内を擬人化するファンタジーとして機能し、むしろ楽しさに振り切っているため、他の映画では経験することができない劇場体験になるだろう。
さらに、人間パートと体内パートにおける接点を人間の生活習慣によって体内の環境が変わるという設定以外に、ストーリーとして交わる展開にはセンスすらも感じさせられた。しかもこの接点は原作が持ち合わせるドラマとしての魅力であるだけに、物語の本質を見事に突いた作品と評価できる。そして意外にも、体内パートがシリアスもいけたのは驚かされる。