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映画評 ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い🇺🇸

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J・R・R・トールキンの名作小説をピーター・ジャクソン監督が実写映画化したファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・リング』3部作の前日譚を描く長編アニメーション。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズの神山健治監督が務める。

実写版3部作の183年前、誇り高き騎士の国ローハンは偉大なるヘルム王に護られてきたが、突然の攻撃を受け平和は崩れ去ってしまう。王国の運命を託された若き王女ヘラは国民の未来を守るべく、かつてともに育った幼なじみでもある最大の敵・ウルフとの戦いに身を投じていく。

作品内における女性の描き方に見直され始めて久しい。男性が思う理想の女性に当てはめすぎたり、差別的な視線で描かれるというぞんざいな扱われ方をしてきた一種のカウンターからだ。そして『LOTR』も例外ではない。

鑑賞後に調べて驚いたことに、本作の主人公である王家の娘ヘラは映画オリジナルキャラクターであることだ。正確には原作に登場はしてはいるものの王家の娘としか扱われていない。

本作で描かれるヘルム王とウルフの戦争へと発展する要因の一つに、ウルフが王女へ結婚の申し出をしたところヘルム王が断ったことにある。原作の追補編では「ヘルムには娘がいて、求婚されると断った」と記されていが固有の名前は登場せず書割扱いだ。

日本語訳で6ページしか描かれてないのも影響していると思われるが、それでも兄弟のハレスとハマは名前を与えられている。本作ではオリジナルキャラクターであり原作では名もなき女性キャラであったヘラを主人公に添えたことで、男性優位的な『LOTR』の世界観を冷静に見つめることができる。

だが本作は女性の社会進出を推進するようなフェミニズム映画でもなければ、男性優位主義を批評する内容でもない。シリーズを通じて描かれてこなかった、名もなき女性キャラクターたちに命を吹き込むことが狙いと見た。ヘラという名前を与え、王家の血を継ぐ者として自ら先陣をきるように。また、シールドメイデン(楯の乙女)への言及も本作の狙いを表現する。

ヘラをスーパーヒーローやウォーリアー・プリンセスとしてではなく、『風の谷のナウシカ』のナウシカやクシャナのようにリアルな女性として描いたのが良い。激化していく争いや人間関係が崩壊していく様子を目の当たりにし葛藤を抱えるドラマを描いたことで、象徴として物語内には名もなき女性たちが確かに存在していたことを描いたのである。

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