見出し画像

映画評 ブリッツ ロンドン大空襲🇬🇧🇺🇸

Apple TV+

SHAME -シェイム-』『それでも夜は明ける』のスティーブ・マックイーン監督による、第二次世界大戦下のロンドンを舞台にした歴史戦争ドラマ。

第二次世界大戦下のロンドン。9歳のジョージ(エリオット・ヘファーナン)は母リタ(シアーシャ・ローナン)の計らいで、爆撃から逃れるため田舎へと疎開させられる。しかし、ジョージはそれに抗って家族の元に戻ろうと決意し疎開先に向かう列車を飛び降り、ロンドンを目指す旅に出る。一方、息子が疎開先に着いてないことを聞いたリタは必死に彼を捜す中、空から爆弾の魔の手が降りかかる。

イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』や『この世界の片隅に』など第二次世界大戦下の日常を生き抜く一般市民をモチーフにした映画を多々鑑賞したことはあるが、黒人視点の物語は初めてかもしれない。

というのも、邦画はともかく、洋画といえど主人公もキャストも大半は白人主体だ。軍の中に端役として黒人が登場していることはあり得るかもだが、戦地へと赴かず日常生活を送る黒人となると見た事がないを通り越して、ほぼ作られていないのではないだろうか。

少なからず第二次世界大戦下のイギリスの地では多くの黒人が生活していたにも関わらず、映画史の中ではほぼいなかった同然の扱いを受けている。有名人を題材にするのはともかく、一般人となるとスポットは当たりにくい。

マックイーン監督はそのような現状にメスを切り込んだ。『それでも夜は明ける』や『スモール・アックス』シリーズのように史実を元にしつつ、忘却された黒人史を現代に甦らせる。「大きなスーツケースを持って駅のプラットフォームに立つ小さな黒人少年」の写真から構想を練ったそうで、史実として確かに存在する。だが殆どの人が知らない。第二次世界大戦下における忘却された又は、知られていない黒人の史実を本作を通じて描いたといえよう。


Apple TV+

第二次世界大戦下を生き抜く黒人視点の物語という新鮮味はあるものの、内容としては人種差別を扱った普遍的というべきか、現代と照らし合わせて見てしまうと色々と思うことが出てくる。

疎開先に向かう電車の中では年が同じくらいの白人の子供から馬鹿にされ、過去回想でクリケットをしていた近所の子供から黒人の私生児と揶揄される。また、電車を降りた街で目にするのは黒人を野蛮人の象徴とし、野蛮人に打ち勝った白人至上主義のプロパガンダ。

母リタ視点でジョージの父親であり夫が黒人という理由だけでイチャモンをつけられ国外強制送還されるシーンが差し込まれることも相まって、黒人の子供1人旅は差別的な視線が加わってより危険度が増す。彼にとっての戦争は日常だ。

それでもジョージの表情は常に、逞しいというべきか誰も寄せ付けない怖い表情をする。自身が黒人の血が流れてるアイデンティティと日常的に差別に晒されていることを理解しているから。彼を馬鹿にした白人の子供に向かって立ち向かって叱責するシーンから分かるように、身を守るためだ。であるからこそ、彼が母親の元に戻ろうとするのは、精神的にも肉体的にも心の拠り所を求めているからだ。9歳の子供であれば尚更だろう。


Apple TV+

ジョージの旅は辛いことだけではない。特に黒人の警察官イフェのシーンは素晴らしい。避難所で人種差別を目撃した際「人種間で争っている場合ではない、今こそ団結するべき時」という主張には現代の情勢がオーバーラップする。イフェのメッセージは戦争は勿論、災害やパンデミックなど人々が共通する困難に直面した際、忘れてはいけない重要なメッセージのように聞こえた。

そしてロンドンへ戻る途中に乗った列車の中で出会った白人の三兄弟とのシーンは、まさに戦争や差別が存在せずお互いを助け合い励まし合う団結する様子が描かれる。貨物列車の中という極狭く限られた空間であるものの、目指すべき世界は微かに存在している希望が詰まっている。

それでも三兄弟との別れのシーンは、争いによって引き起こされた悲劇を象徴しているかのようだった。

いいなと思ったら応援しよう!