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映画評 ゴールデンカムイ🇯🇵

(C)野田サトル/集英社 (C)2024映画「ゴールデンカムイ」製作委員会

明治末期の北海道を舞台に、アイヌ埋蔵金争奪戦の行方を描いた野田サトルの同明原作漫画を『HiGH&LOW THE MOVIE』シリーズの久保茂昭監督によって実写映画化。

北海道の山奥で砂金採りに明け暮れていた「不死身の杉元」の異名を持つ杉元佐一(山崎賢人)は、アイヌ民族から強奪された莫大な金塊の存在を知る。金塊を見つけ出すべく動き始めた杉元は、野生のヒグマに襲われたところをアイヌの少女アシリパ(山田杏奈)に救われる。目的が一致した2人は共に行動することに。一方、大日本帝国陸軍第七師団の鶴見篤四郎中尉(玉木宏)と、戊辰戦争で戦死したとされていた新選組副長・土方歳三(舘ひろし)も、それぞれ金塊の行方を追っていた。

「実写化するな」という批判的な声を結果で黙らせる見事な映画となった要因として、徹底した原作リスペクトがあげられるだろう。本作は原作漫画の全31巻あるうちの1巻から3巻までを描いており、余分に端折ったり、無駄に脚色する事なく、原作通り一つ一つ丁寧に描くことができた。その結果、掘り下げるべき主要登場人物の取捨選択の的確な判断やテーマの明確化など一本の映画としての軸が見えた。

アクションが素晴らしいのも本作が成功している要因の一つとしてあげられる。銃撃戦から体術を用いた接近戦、殺陣など、どれ一つとっても失敗してるシーンはない。雪原や家屋など環境に合わせた戦術や個々の特徴を活かした戦闘方法などアクション一つとっても同じようなものはなく、唯一無二さという引き出しの多さが素晴らしい。特に、ラストで杉元がソリに引っ張られながらアクションをするシーンは、本作の全てを凝縮したかのような志の高さを伺えることだろう。


(C)野田サトル/集英社 (C)2024映画「ゴールデンカムイ」製作委員会

アイヌ文化を堪能できるのも本作の魅力の一つ。アシリパが住むコタン(集落)のチセ(家屋)の制作に至っては、家の外観から室内まで、全てがアイヌの建築法に則っている。

また、アシリパと杉元が共に野外で野宿したクチャ(狩猟小屋)は、北海道にしかないトドマツを用いて制作されているそう。建築技術や外観、さらには内観を彩る小道具一つ一つを忠実に再現されているため、作り手の原作及びアイヌ文化そのものへのリスペクトが込められていることが伝わる。

全てのものに魂が宿り、その中で人間の力の及ばない能力を持っている人を「カムイ」として敬う信条が随所に描かれる。対峙した熊を奉り、毛皮から肉まで余すことなく頂戴し、残された小熊は集落単位で育てる。全てのものを無駄にはしない自然との共存文化が垣間見える。ちなみに熊との戦闘シーンは『レヴェナント:蘇りし者』を放物とさせられるシーンで、VFX技術の高さに驚かされる。

食事シーンもその一つだ。アシリパが作る料理はどれも美味しそう。これだけでも100点だが、自然が人間に与えるものは全て神の恵みと考え、木の実草の葉一つとっても大事にする。いわば自然全てが意味のあるものという慣習が食事を通じて伝わったのが良い。また、用いてる食材を巡って、アイヌのアシリパと本土出身の杉元の反応の違いは、異なる文化を画面越しで体験する映画体験としても素晴らしく映った。

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