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映画評 ダム・マネー ウォール街を狙え!🇺🇸

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SNSを通じて個人投資家たちが金融マーケットを席巻した「ゲームストップ株騒動」を綴ったノンフィクションを『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』『クルエラ』のクレイグ・ギレスピー監督が描く。

キース・ギル(ポール・ダノ)は赤いハチマキにネコのTシャツ姿の「ローリング・キティ」という名で、ゲームソフトを販売する会社「ゲームストップ社」の株が過小評価されていると動画で配信していた。彼の主張に共感した個人投資家たちがゲームストップ株を買い始め、21年初頭に株価は大暴騰。この事件は連日メディアを賑わせ、キースは一躍時の人となるが。

経済を真正面から描く映画は専門用語が多くついていけないことがしばしある。経済映画の代表格である『マネー・ショート 華麗なる大逆転』はリーマンショックの危機を回避し、且つ一儲けする映画的カタルシスはあるものの、経済用語の連発で気軽に見ようとすると面食らう。

本作で最低限押さえておくべき経済用語は、手元にない株式を信用取引を通じて借りて売る「空売り」くらい。経済用語が連発することはないため、気軽に見ることは保証できる。むしろ、個人投資家らが力を合わせて莫大な富を有する投資家らに勝負を挑み勝つという、ジャイアントキリングを描いたスポーツ映画として見ることを勧めたい。

個人投資家たちの境遇は、リーマンショックの影響でやっとの思いで就職した者、コロナで事業が経ちいかない者、看護師、両親の会社が投資家の空売りによって倒産を余儀なくされた学生と、応援に熱が入る。さらにコロナ禍ということもあり、富裕層や社会に対して溜め込んでいた鬱憤を晴らすかのようなカタルシスに満ち溢れる。ザ・ホワイト・ストライブスの『Seven Nation Army』がよりカタルシスを肥大化させる。

クレイグ・ギレスピー監督の作家性の特徴はヴィランでも背景があり同情できる余地があることを描く。『アイ・トーニャ』では親子や恋人に人生を狂わされ『クルエラ』では母の呪いに苦しむ。憎まれるであろう富裕層の投資家たちは騒動によって、家族を養うための財産や投資家としての信頼及び職を失ってしまう。富裕層の経済強者といえども決して悪人ではない視点を持って描かれる。

騒動は良くも悪くも人生を狂わせる。富裕層はもちろん、個人投資家たちの中には損して終わった者もいる。株はお金を動かすゲームみたいなものと比喩されることも多いが、人の人生が簡単に左右されるものをゲーム感覚で捉えて良いのか、そもそも個々が儲けるためだけに株をやるのか、ラストのキースの演説は、「なぜ株をやるのか」今一度見直すきっかけになるだろう。


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