映画評 ドライブアウェイ・ドールズ🇺🇸
『ファーゴ』『ノーカントリー』などを手がけたコーエン兄弟のイーサン・コーエンによる初単独監督作品。車の配送に出かけた2人の女性が、謎のスーツケースをめぐって事件に巻き込まれるコメディドラマ。
日々の生活に行き詰まりを感じたジェイミー(マーガレット・クアリー)とマリアン(ジェラルディン・ヴィスワナサン)は、車の配送(=ドライブアウェイ)をしながらアメリカ縦断のドライブに出かける。しかし、配送会社が手配した車のトランクに謎のスーツケースがあるのを見つけ、その中に思わぬブツが入っていたことから、スーツケースを取り戻そうとするギャングたちから追われるはめに合う。
レズビアンとギャグという組み合わせに少々大丈夫かと心配になったが、さすがはイーサン・コーエン。兄ジョエルと培ってきた教養センス必須のギャグに、共同脚本を手がけた監督の妻でありレズビアンであるトリシア・クックによる当事者の視点が見事に融合できていたと評価できる。
レズビアン映画として連想させられるのが『キャロル』や『燃ゆる女の肖像』といった女性の内面を繊細かつ淡く上品な作品に作られ、時代背景としては男性優位社会における抑圧という、全面的にマイノリティを押し出す描き方をされる。しかし本作はレズビアン従来の清楚なイメージを打破するかのような真逆な描かれ方をする。
主人公ジェイミーの登場シーンはいきなりセックスから始まる。その後レズビアンバーで平然と人肌脱いでる描写から、壁に打ち付けられた玩具、旅先のホテルでお持ち帰り、集団プレイなど性行為をカタルシスの解放ではなく日常の一環として機能させる。『メリーに首ったけ』以上にお下劣で『ボトムス最底で最強?な私たち』並に社会的正しさの逆を言っているが、レズビアンを性欲がある1人の人間としての普遍性をもたらせたといえる。
登場する女性のほとんどをレズビアンの設定にすることで、レズビアン=性に奔放というステレオタイプを助長しないバランス感覚が素晴らしい。もう1人の主人公マリアンは恋愛に奥手で物静かではあるが好きな人としかしない確固たる思いを胸に馳せる。ジェイミーとの対比が心地よく、旅を通じて2人が理解し合い思いが同じになる『お熱いのがお好き』オマージュラストも良い。
また『ブックスマート』で知られるビーニー・フェルドスタインの役所も重要。母性が強く男性顔負け圧を出せる女性として描かれる。彼女もまた性欲がある点も親近感を湧くところ。レズビアンの設定を共通項にしつつ、三者三様のキャラクターとして区別したからこそ、レズビアンの日常の描き方として説得力をもたらせたと同時に、清楚で抑圧的なイメージを打破した爽快感あふれるレズビアンロードムービーになった。