ザッハトルテを知らなかったあの日は帰らない|ショートショート
「ザッハ?トルテ?……って、なんですか」
「え、ああ、お菓子! お菓子の名前! なんか、おしゃれなヤツ! 今度買ってきてあげるから!」
美郷先輩はいつも、僕が知りたいことをなあなあにして、はぐらかして。いつも最後までその答えを教えてはくれない。
僕は彼女の口から「なんかおしゃれ」だというその答えを求め返す時間が惜しくて、手元のスマートフォンで『ザッハトルテ どんな食べ物』と調べる。
僕はトップ画面に出てきたウィキペディアの答えを、さも自分が導き出したかのような気持ちで