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12年前と今年を振り返る「編集者の棚卸し」
今年も、あと数週間。早いものです。
私は、年末には必ず「仕事の棚卸し」をするようにしています。
こんにちは、高橋ピクトです。書籍の編集をしています。
1年どんな仕事をして、どういう成果があったのか。
「良かった点」「課題」「目標」を上げ、次の1年の自分の方向性を決めます。
他人の振り返りなんて見ても面白くないかもしれません。
でも、12年前から振り返ることでちょっとした気づきがありました。ひょっとすると編集者のキャリア(あくまで一例ですが)もわかるかもしれません。よろしければお読みください。
たとえば、2012年の私はこんなふうに「課題(改善したい点)」を上げていました。
2012
基本がおろそかになった。
校正のミスや印刷手配のミスを引き起こしてしまった。
大きなミスがあった年だったようです……。
そのあとの年は、こんな感じ。
2013
思い入れが強くなり、考え過ぎる傾向が出てきた。
オリジナルであることを目指した結果、
良い本にはなったが、誰のための本か伝わりづらい本になった。
今も変わらない(笑)、私の悪いところが出ています。
この頃は、とくに思い込みが激しく、さらには内容を工夫しすぎて、一部の人にしか伝わらない本づくりになってしまうことが悩みでした。
さらに数年。ちょっと変化が出てきます。
2017
部下の企画をみることで、
自分の企画を見る時間が減ってきている。
立場が変わり、指導やマネジメントに関わることで新たな悩みが出てきました。さらに4年後。
2021
タスク管理と体調管理は改善したい。
キャパシティオーバーだったと感じる。
このままマネジメントすることになるならば、
この担当点数をこなすのは無理かも。
プレイングマネージャー的な立場となったものの、担当する点数は変わらず、編集とマネジメントを両立させることに無理が生じているようです。
で、去年。
2023
全体的に重版率が低下している。
今までのように良い本を作ろうとするだけでは
成果が出なくなってきた。
書店を利用する層が変化してきていることを認識して、
少しでも重版率の高い本を作れるようにしたい。
12年、毎年変わらないなぁ、なんて思いながら仕事をしていましたが、こうして振り返ってみるとその時その時で立場も変わり、向かっている問題が違うんですね。これは発見でした。
で、今年はどうだったかというと、担当点数が減ったんです。
目的は「一冊一冊、丁寧につくる」こと。
何がどう変わり、どんな影響があったのか振り返ってみました。
先にお伝えすると、結果的にものすごく変わりました。
キャパシティオーバーという、数年間の悩みが解消されたんです。
具体的にいうと、点数が減ったことで普段できないことができました。
担当点数が減れば、そりゃ楽になるでしょ?と思われるかもしれません。
でも、担当点数が減るとこんなに視野が広がるんだ、という驚きや発見がありました。
まず、書籍のプロモーションに時間を使うことができました。
・イベント立ち上げから実施
・著者イベントでの本の販売
・著者のラジオ出演の付き添い
・著者の新聞連載の打ち合わせに同席
・他社との共同プロモーション(パネル展示)
「太字部分」は、私が初めて行ったことです。
今年は、ラジオ収録の現場や新聞連載の打ち合わせなど、さまざまな現場に伺うことができました。正直なところ、現場に私がいっても、内容はほとんど変わりません。それぞれの分野のプロの仕事を見学するだけです。しかし、著者との情報共有がスムーズになったり、信頼関係が深まったり。ラジオの放送作家さんや新聞記者さんなど、普段は会わない方々とお会いして話ができたことで、どういうことに価値を見出しているのかがわかったように思います。
「丁寧な本づくり」も、できたと思っています。
たとえば、原稿を丁寧に読むとか、事前打ち合わせをじっくり行うとか、そういった時間の使い方もできましたが、私の感覚としては「原稿の修正、確認の回数が増えた」「取材回数が増えた」「打ち合わせの回数が増えた」という感じでしょうか。
言葉だけ聞くと、無駄な時間に思えるかもしれません。
ただ、「著者と編集者が納得しないことは、納得するまで話し合う」という時間の使い方ができたので、一度決めたことが揺らいでしまうことがありませんでした(編集者、著者、それぞれが意向を押し通した後に、議論が再発するというのはよくあることです)。納得して自信を持って進められるので、悩むことが少なく、その後の作業時間が短縮されたように思います。
また、大きかったのは、本に関する体験、取材を余裕をもってできたことです。私が担当する書籍は、実用書なので「若返りの方法」「ランニングの練習」「料理レシピ」などを紹介するのですが、それらを取材するのはもちろん、自分でも試して、気づいたことを本づくりに反映することができました。
何より、仕事を楽しめたことが大きかったです。
もう、しみじみと思います。
以前、私はちょうど1年前の記事「本が売れない。編集者が考える“変化への一歩”」の中で、編集の仕事はこんな状態が理想だといいました。
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「調整」の仕事が大変すぎて企画の時間がとれない!
時代についていくには、企画に時間をさけるように時間配分を考えなきゃ!という記事でした。
今年はこんな感じ。
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企画の時間=「人に会う時間、取材する時間、何かを体験する時間」が多くて、それが、編集実務や調整(スケジュール調整や、プロモーションなども入ります)の仕事にも好影響を与えた。そんな1年でした。満足はしていませんが、本の売れ行きにもつながっていると思います。
最後に、12年間ずっと変わらず、書かれていた目標があることに気づきました。
「人に会い、面白いと思ったことを形に。このスタイルは続けていく」
そうでした。
私のモットーは、楽しく暮らすこと、面白い仕事をすることでした。
1年仕事をしていると簡単に忘れてしまうんですよね。
自分の言葉に勇気をもらえた気がしました。
来年の自分のために、この言葉は今年も残しておこうと思います。
#今年学んだこと #業界あるある#出版業界#編集の仕事 #仕事での気づき
文 高橋ピクト
生活実用書の編集者。『背骨の実学』『新しい腸の教科書』『コリと痛みの地図帳』などの健康書、スポーツや囲碁、麻雀、競馬、アウトドア、料理など、趣味実用書を担当することが多いです。