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セオリーは変化する。編集者が考える「書籍のタイトル」
最近、担当書籍のタイトルを考えることが多く、頭をひねっていたところです。こんにちは、書籍編集者の高橋ピクトと申します。
タイトルを考えるのは、得意ではありませんが、好きです。
著者と読者のかけ橋となる、編集者ならではの仕事だと思うからです。
今回は書籍タイトルの傾向や、最近の変化、タイトルの決め方などをお話していきます。
書籍タイトルの傾向
書籍のタイトルには、時代やその時々によって、傾向があります。
たとえば、少し前はページ数の多い鈍器本ブームがあり、「独学大全」「ストレスフリー超大全」のような「○○大全」という本が多く出版されました。最近は、ベストセラーである「頭のいい人が話す前に考えていること」の影響で、「○○の人の、○○なこと」といったタイトルの本が増えています。
「~が9割」という本も多いです。
これは「人は話し方が9割」というベストセラーの影響もありますが、実は「~が9割」というタイトルは多用されています。
2012年には「人は見た目が9割」という本もありましたし、
2006年には「人は「話し方」で9割変わる」という本があります。
こういったように実用書には、セオリー的なタイトルの言い回しがあります。たとえば「~入門」、「~の基本」「マンガでわかる~」「はじめての~」「~の技術」というタイトルも長く使われてきたタイトルです。こういった定番タイトルはロングセラーが多く、各社が倣ってきたという流れがあります。
こちらのサイト「年代流行」さんに
各年代のベストセラーランキングがまとめられています。
タイトルを考えるときは、過去どういったジャンルで、どんなタイトルが売れていたのか見るようにしています。
セオリーが変わってきた?
私は、一冊の本を長く売る出版社に勤めているので、ロングセラーになるように定番タイトルをつけることが多いです。内容が評価され、10年、20年と愛読されている本もあります。しかし、この流れは変わってきたと感じています。
定番タイトルだと初速が出なくなってきました。
今、売れているのは、書店に人が呼べる本です。
SNSなどで、タイトルから個性を伝えられなければ、書店に来てもらえません。定番タイトルはしっかり売れますが、個性を伝えにくく、話題にはなりづらいので、初速が出ない。今は初速が出ないと返品されてしまいますので、ロングセラーにもなりません。
今までのセオリーは通じなくなってきたと感じています。
今、目立っているのは個性のあるタイトル。
たとえば、こちらのタイトル。
「ネイティブなら12歳までに覚える
80パターンで英語が止まらない!」(高橋書店)
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このタイトルからわかるのは、
「英語が止まらない!」という前例のない表現が、読者層に刺さっているということです。英語表現に挫折した人たちの願望をズバリと表現しています。
さらには、「80パターン」としていることで、複数のパターンがまとめられている「本としての価値」が伝わるのもポイントです。限られているようで、ほどよい数も安心感があります。
何も工夫をしなければ「ネイティブが身につける英語フレーズ80パターン」のようなタイトルになるかもしれませんが、これでは話題にならなかったはずです。
わかりやすさもあり、その一歩先の新しさを表現した、素晴らしいタイトルだと思いました。
書籍のタイトルの決め方
ただ、上記のような前例のないタイトルに決めるのは、チャレンジです。伝わるかどうか、リスクが伴うと判断する出版社もあるかもしれません。もしかすると、編集者だけなら決められるかもしれませんが、そういうわけにはいきません。
書籍のタイトルは、編集者だけではなく、著者や、出版社(とくに営業部)と決めていくからです。
とくに出版社は慎重に考えることが多く、社内会議などで定番タイトルと、個性的なタイトルを提案すると、安定的なタイトルになることが多いです。
しかし、本が売れない状況でそれでいいのだろうか。
私は不安に思っています。
今、私はランニングの本と、レシピ本のタイトルを考えています。
著者との打ち合わせや、撮影の現場などを振り返り、言葉を探し、ピタリとはまるタイトルを考えながらも、個性的なタイトルまで広げて選択肢を出し、絞り込んでいます。
いつもならば、著者、私、出版社の三者で検討するところですが、読者層である人たちにも意見を聞き、再考して、社内会議にかけてを繰り返しています。
私がタイトルで大事だと思うのは、
「著者の思いや考えを、読者に届くように言語化する」ことです。
出版のセオリーは変わっていきますが、これは変わりません。
著者と読者の間に架かる橋となれるよう、日々バージョンアップしていきたいと思います。
文 高橋ピクト
生活実用書の編集者。『新しい腸の教科書』『コリと痛みの地図帳』などの健康書、スポーツや囲碁、麻雀、競馬、アウトドア、料理など、趣味実用書を担当することが多いです。
「〇〇入門」や「○○の基本」というタイトルの本は大事です。そのテーマに真剣に向き合う人は必ずいて、そういう人にとっての手引きとなるからです。出版の状況はどんどん変化していきますが、しっかりとした入門書を作り、自信をもって「○○の基本」といったタイトルをつけることも、著者と読者の橋渡しだと思っています。
Twitter @rytk84
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